ハーシェルの子

「マン・アフター・アームヘッド」

ハーシェルの子

  


ハーシェル王国、首都シェイクスピアは前線のすぐ近くにある。なぜならハーシェル王国の中央はアームヘッドの活動できぬ死の世界が拡がっているからだ。アームヘッドが活動を続ける以上その死のドーナツは拡がりを続けドーナツの穴だけになるであろう。人類を排除するアームヘッドの因果応報なのだ。

  


王城ウラヌス、シェイクスピアの中央に位置する元整備工場らしき場所にカエルスとウンブリエルは居た。「本当に俺をかばうつもりか?」「無論だ。例え人類とはいえこの私が共に闘った者を売るとするならば騎士の名が廃る。それに私は強い。だからこそ正々堂々とせねばならぬ。王者の責務だ」

  


彼らの前の円卓には他の四機の王者達がいた。絢爛たるアリエル。彼はハーシェル王国の五天王の首席である。「相変わらず人間臭いなウンブリエル!こそこそネズミのようにはいまわるな御前は!」アリエルはウンブリエルを嫌っている。「バレたのか?」「違う、奴はいつもこうだ」「何を喋っている!」

  


「いえいえアリエル卿。単に人類が怖くお城に引きこもる王は情けないなあと思っているだけですよ」「ウンブリエル!」「まあまあアリエル卿、リーダーがこうも落ち着いていないと示しがつきませんぞ」魔術師めいたアームヘッド、五天王第四席オベロンだ。「オベロン!ウンブリエルが怪しいと思わんか!」

  


「怪しい?どこがですか」オベロンが首をかしげる。「リジアは攻めて来ておらぬではないか!それに天から来た軍勢だと?こやつはワシをたぶらかしリーダーの地位を狙っているに違いない!」「ホホホアリエル卿にしかリーダーは務まりませんよ」「そうですわアリエル卿にはリーダーしか務まりませんわ」

  


「ティタニア!」アリエルが激怒する。オベロンに同調しアリエルをからかっているのは五天王第三席ティタニアだ。ティタニアはオベロンの妻でもある。「予め言っておくぞアリエル卿。我らが貴殿に従うのも父祖ウラヌス・ハーシェルの命によってだ。貴殿のカリスマによってではない」「ミランダ!」

  


ミランダ、不死身のミランダはアームキルから復活したアームヘッドだ。未だに五天王第五席の彼女の体には傷跡が残る。アリエルやオベロン夫妻と違い、ウンブリエルとミランダは前線指揮を担当し古傷が多い。「そうだ、ワシは偉大なる父祖ウラヌス・ハーシェルから王権を賜ったのだ」「我らがですよ」

  


ウラヌス・ハーシェル・・・。カエルスは自らの祖父の名を憎悪とともに聞いた。俺は祖父の野望を止めねばならぬ。祖父はこの五体のアームヘッドを用い何かを企んでいるのだ。「で、ウンブリエル卿」ミランダが戦友を見た。「あれは人間だったのですね?」「然り、あれは人間、だった」

  


逃げ遅れたガラスビン、機能停止したそれを遺失技術で解析した結果その中身が人間であることが判明した。いや人間だったというべきか。宇宙へ旅立った移民船団は帰って来たのだ。変わり果てた姿で。「人類のカウンターアタックということですかな」オベロンが口を挟んだ。「宇宙からの援軍かハハハ」

  


アリエルが笑う。「だが所詮は人間、我らの敵では無いことよな」「アリエル卿のおっしゃる通りですわ!是非アリエル卿が単騎で突撃していただきたい所存ですわ!」「ティタニア・・・」アリエルが苦虫を噛み潰したような声を出す。「おそらく奴らは人類の援軍では無いな」「オベロンどう思うのだ?」

  


アリエルは返答に困りオベロンの気紛れな意見に助け船を見出だしたのだ。「援軍だの援軍でないなど、はっきりしてもらいたいものだなオベロン卿」「失礼、ミランダ卿。なにぶんエイリアンとの戦争は未経験なもので」「それで?」「奴らは人類も襲っている」「ほう」「共通の敵という訳ですな」

  


オベロンがウンブリエルを見た。「それでウンブリエル卿が彼を連れてきた訳ですな」オベロンが意地悪く笑う。「オベロン卿。何を言っているのかよくわかりません」「うふふウンブリエル卿。旦那様はすべてお見通しよ」まずいバレているのか?「やはり裏切ったかウンブリエル!」「リーダーは黙って」

  


「やはり私が騙せるのは首席殿が限界であったか」「ウンブリエル卿、どういうつもりか?我々の会議に人間を連れて来るなど?」「貴様らに協力をしろと命じに来たのだ」「ヒィイ人間!」アリエルが頭を抱える。「ほう面白い。予め言っておくぞ。私は人間の話なぞ聴かぬ」ミランダが言った。

  

「それに失望したぞウンブリエル卿。私は貴殿だけは尊敬していたと言うのに」「ミランダ卿・・・」「良い、姿を見せよ。人間。ウンブリエル卿に精神を呑まれぬだけは大したものだ」ウンブリエルのコクピットが開く。カエルスの姿を見たミランダは驚愕した。「父祖・・・なぜここに?」

  


「父祖・・・。ワシは覚えておらんぞ」アリエルが恐る恐るカエルスの顔を見て言う。「・・・そんなに似ているのか?だが父祖はもうすでにいないはず」「ホホホ、面白い。ウンブリエル卿。彼とともに宇宙人を倒そうではないか!」オベロンは不気味に笑った。

  


「マン・アフター・アームヘッド」

ハーシェルの子


終わり

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