ハッピースレイブ

「マン・アフター・アームヘッド」

ハッピースレイブ

  


遥か過去、彼らがまだ人間であった頃からその地は彼らによって征服されねばならぬ地であった。だが運命と、この機械がそれを妨げた。やがて彼らは星の海へと出でて、故郷を探しさ迷った。そして悲劇か或いは自らの意思でか?彼らは人の身を棄てた。最終的に彼らが訪れたのはアプルーエだった。

  


黒光りする宇宙船から一つ目のアームヘッド達が降下していく、それに寄生する彼らはもはや人間ではない。変わり果てた移民船団はもはやヘブンに残るもの達には解せぬ思考を持ち一万年前のアプルーエコンクエストを再開したのだ。彼らと同様ヘブンも変わり果てた。それでもなおすることは変わらない。

  


ウンブリエルは降りてくる黒いアームヘッドを睨む。そして剣を掲げた。「者共よ、私が先導する。どこの王国のモノとも知れぬモノ達だ。だがハーシェルの神聖領土を奴らは侵した。許してはおけぬ」ウンブリエル以外は人間サイズのファントムながらウンブリエルは強気だ。「流石だな」カエルスは言った。

  


降りてくる黒いアームヘッドめいた存在は十数はいる。ウンブリエルは戦いとなればそれらすべてを一人で相手取るつもりなのだ。カエルスは人類の敵とはいえ、誇りある戦士であるウンブリエルにある程度の尊敬を感じていた。「おい、人間。足を引っ張るなよ」「カエルスだ、アームヘッド」

  


ウンブリエルは周囲を見回す黒いアームヘッドの前に立った。「我が名はウンブリエル、栄光あるハーシェルの・・・」その時だ!ウンブリエルの意思とは関係なくウンブリエルが後退する!「カエルス!私の邪魔をするな!」ウンブリエルは激昂する!しかしウンブリエルが居た位置に得たいの知れぬ攻撃!

  


「ちぃ、礼儀を知らぬのは奴等も同様か・・・。おいお前達はオベロン卿に伝えよ!リジアの侵略だ!」リジアとは西方の別のファントム王国だ。無論この黒いアームヘッドとは無関係だ。だが宇宙のアームヘッドに襲われているとは説明しづらい!黒いアームヘッドは不快な異音を出す筒をこちらに向ける。

  


包囲的な弾幕だ!「おのれカエルス!お前が邪魔をするからだぞ!」「・・・安心しろウンブリエル」黒いアームヘッドの弾幕攻撃はウンブリエルが神代より纏う光の膜に防がれた。黒いアームヘッドは目をあわせる。不可解な現象だったようだ。その隙を見逃すウンブリエルではない。「貰ったぞ!」

  


黒いアームヘッドの首を切断!アームキルだ!アームホーンとの接続を喪ったアームヘッドは自壊する!「やはりお前らもアームヘッドであるか。名乗り中の凄い失礼な攻撃、一対一の対決を無視する、飛び道具の使用、どれだけ決闘を侮辱するつもりか?どこの野蛮人だ、お前達は?」「り・・・リズ」「?」

  


リズと言った。黒いアームヘッドはリズ人の成れの果てなのか?「どうやらお互いに相手をアームヘッドだと認識していなかったようだな、ウンブリエル」黒いアームヘッドは覚醒壁を持たぬ宇宙生物との戦いを続けていた結果、アームヘッドととの戦闘技術が退化しアームヘッドに銃器を使う愚を犯した!

  


カエルスはおぞましいモノを見た。倒された黒いアームヘッドである。コクピットのあるべきところから這い出たガラスのビンのようなモノに詰まっている脈動するピンク色の物体。これがこの黒いアームヘッドのパイロットなのだろうか?カエルスの永い人生においてもこの冒涜的存在は初見だ。

  


そう、これがパイロットだ!ピンク色の物体は重要な臓器のみを残してアームヘッドに内蔵されアームヘッドに寄生し操り生きるだけの存在となった人類の成れの果てだ。ピンク色はガラスビンの脱出装置で上空へと退避していった。「マジかよ・・・」「カエルス!」ウンブリエルの叱責で正気に戻る。

  


カエルスは黒いアームヘッドをまじまじと見た。思えば遥か過去に見たヴァントーズの面影がある。古リズ語に見える紋様も見逃さなかった。そうだ、あれは見慣れぬ化け物ではない。俺に比べれば奴等もいささか尋常の存在に過ぎぬ。カエルスは自らを励ますように思考する。「ウンブリエル」

  


カエルスはウンブリエルに言った。「俺とお前の合わせて二万年の経験があれば、リズのヴァントーズの成れの果てなど敵ではない」カエルスはウンブリエルの創造主を倒すために永い時を生きてきた。その最大のチャンスを宇宙人に妨害されるとは。カエルスは笑った。黒いアームヘッドが電飾剣を構えた。

  


「来い!三下ども!」ウンブリエルの剣が黒いアームヘッドの剣と接触!つばぜり合い!「まずいぞ!」カエルスが叫んだ!黒いアームヘッドの剣が電気を帯び始めた!ショック麻痺兵器だ!カエルスはウンブリエルの剣を離す!「待て!あれは我が誇り!」「誇りは捨てろ!」剣が溶着!電気出火!

  


二千年使い続けた名誉ある聖剣が礼を知らぬ宇宙人と人類の手で灰塵と化しさしものウンブリエルも唖然とした。カエルスは無視し、サブウェポンの槍を持った。黒いアームヘッドの腹を突く!コクピットが揺れる!黒いアームヘッドの赤い体液がウンブリエルの白い体を濡らす!「カエルス!」

  


「ウンブリエル!このままではもろともに死ぬ!奴らは素人だが五千年お前の装備の先を行っているぞ!」「・・・人類め!言っていることがあっているだけに忌々しい」「だが俺達は二万年だ、アームヘッド」「うつけめ」ウンブリエルは笑った。ウンブリエルは背中の矢を取り出す。「無礼者にふさわしい」

  


ウンブリエルの弓!黒いアームヘッドを射抜く!銃よりも弓矢の方が有効な奇妙な逆転現象がアームヘッドには存在する。ウンブリエルは後退しながら追う黒いアームヘッドを射抜いていく!だが黒いアームヘッドもそれに対して密集体形を取る!覚醒壁を同調させパワーを上げているのだ!「矢がない!」

  


ウンブリエルは更に短剣を取りだし両手に持った!黒いアームヘッドは不気味な噴霧液を放出!視界を奪う!霧の中から黒いアームヘッド!ウンブリエルが刺す!黒いアームヘッド自壊!だがウンブリエルの後ろから黒いアームヘッド!巧みな連携戦術!異質とはいえ知性は存在するのだ!背中を狙う!

  


カエルスはウンブリエルのもう片方の手を動かし背中から狙う黒いアームヘッドの首を刺した。「連携はこちらもだ。宇宙人」黒いアームヘッドの首から噴出する赤い体液がウンブリエルの白い体を濡らす!その直後!黒いアームヘッドが四方八方から出現!この噴霧液は包囲を悟らせぬ為なのだ!

  


しかし赤い血に染まったウンブリエルを見たとき、黒いアームヘッドは止まった。彼らの古代の記憶には純白のアームヘッドの血塗られた翼のイメージがあった。ウンブリエルの姿はそれを思い出させた。その一瞬の隙で十分だった。カエルスとウンブリエルが人とアームヘッドの喪われた絆を用いるのには。

  


「パニッシャー・ホワイト」ウンブリエルの両手から油が噴出!その粘着性の油が黒いアームヘッドの動きを奪う!「・・・そうか、これが」ウンブリエルは懐かしい感覚に身を委ねた。ウンブリエルの聖なる油は邪悪なるモノ達から自由を奪っていった。一機の黒いアームヘッドが電飾剣を起動!「無駄だ」

  


電飾剣の火花で油が発火!邪悪なるモノ達を浄化していく!熱に耐えれず次々とガラスビンが脱出!しかし炎からは逃れ得ぬ!生命そのものを冒涜した人の成れの果ては炎に消えていった。「・・・いったい今のはなんだったのだ」ウンブリエルにはわからぬことばかりだった。

  


「マン・アフター・アームヘッド」

ハッピースレイブ


終わり

  


◎パニッシャー・ホワイト◎

超感覚系発動型の調和、粘着性の油を全身から出す能力。油は剣がぶつかった火花ですら発火するほど危険で調和者にも被害出る。また一歩間違えば調和者の動きを奪いかねない。

  


◎吸血鬼◎

古代の機械生命の因子が復活した人類。人類に紛れその血を吸い生きる。血を吸い続ける限りは不死。アームヘッドの適性がひじょうに高い。ヘブン放棄直後、アームヘッドに対抗する人類種の種的防衛本能からか大量発生し技術と知識で人類を導いた。カエルスもその一人だ。

  


◎百合の時代◎

アームヘッドとシビルヘッドが規制されていたとされる時代。まだ人類政府の勢力が強く強力な人類側アームヘッドの存在もありファントム達は潜伏を余儀なくされた。


◎死のドーナツ化現象◎

ファントムの諸王国を悩ます問題。人類を完全排除した中央地域からテトラダイが完全に喪われアームヘッドにとって完全活動不能領域となってしまう現象が起こった。そのため領域を外へと拡げるがそのたびにテトラダイ枯渇領域も拡がり問題の解決法は見つかっていない。

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