SS 白咲さんとほっぺ
むい、と不意に頬をつままれた。
「慶崎くん、知ってた?普段笑わない人は、頬の筋肉が発達してなくて他の人よりほっぺが柔らかいんだって!」
俺の頬をつまみ、むいむいと感触を楽しそうに確かめながら白咲は言う。
放課後、教室の掃除当番に当たる俺たちは、不真面目に掃除をなあなあにこなしていた。
だからと言って白咲が俺の頬をつまんで良い理由にはならない。
「どこ情報だそれ」
「ツイッター!」
元気よく白咲は答える。全く白咲はTwitterやらインスタやらでいらない情報を集めるのが得意である。ソースは2chと言われるよりかはマシか。
というか、その手で雑巾とか触ってないだろうな。
「どうみてもお前の方が柔らかそうだろうが。自分の触っとけ」
「ひゃあ!!」
白咲は俺の頬から手を離し、情けない声を上げて抗議する。
俺も仕返しとばかりに白咲の白い頬をつまみ続ける。
クーラーで冷えたひんやりとした頬はもちのようにのびている。ほら、頬なんて誰でも柔らかいもんだろ、と白咲に言う。
「おい、そこ」
放課後にもかかわらず、教室の隅を陣取り塾の課題をこなしていた神経質そうな黒髪の友人男子──
「イチャつくなら他所でやれよ。ぶっ殺すぞ。つーか殺す。」
普段の優しげな声とは180度反対の、ドスの効いた声で恐ろしいことを言ってきた。
凪坂は基本的に優しげな雰囲気を醸し出しているが、気を許した人間にはかなり口が悪い。時々本当時同じ人物なのかと思うことがある。あと何故か、仲睦まじい男女にかなりどす黒い感情を抱いている。
「ちょっとちょっと凪坂くん!凪坂くんまでそんな仏頂面してたら慶崎くんみたいにほっぺが柔らかくなっちゃうよ?」
「え」
白咲はつかつかと窓際の席に座っている凪坂に歩み寄る。
「えいっ」
そのまま凪坂の頬を遠慮なくつまんだ。
「ア゜!!!!」
凪坂の情けない声が教室に響く。
「ししししし白咲さん。や、やめて……ごめんなさい」
「さっきまでの威勢はどうしたんだよ」
思わず突っ込んでしまったが、女子に免疫のないくせに白咲に喧嘩を売った凪坂が悪い。もちろん、掃除当番中に俺にちょっかいをかけてきた白咲も悪い。
凪坂の頬を柔らかーい!と楽しそうにつまみ続ける白咲と、半泣きで俺に助けを求める凪坂の視線がなんだかおかしくて、俺はその場で思わず吹き出してしまった。
こんなくだらない日常も、卒業して大人になった頃には懐かしく思うような日が来るのだろうか。
俺はそう思いながら、やめてやれ。と凪坂の頬から白咲の手を引いてやるのだった。
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