第1話 (4)

「慶崎くんはなんでわたしと付き合ってくれないのかな?」

「まったくもってタイプじゃないからかな…」


いつものように、白咲を振る朝。

白咲はなにかとつけて告白してくる。


「じゃあ、どういう女の子がタイプなの?」

「名前に「し」「ろ」「さ」「き」が入らない人。それ以外ならなんでもいい」

「それじゃあ慶崎くんと結婚して名字を慶崎にするしかないね。」

「………」


…一枚うわてにとられた気分だ。


「まあ、わたしはこうやって慶崎くんと一緒にいられるだけで嬉しいんだけどね」


健気に目線を下げる白咲。たまに見せる健気な一面に、不覚にもゆらぎそうになる。


「なんでそんなに俺に執着してるんだ。他にもいい男なんかいっぱいいるだろ。ほら、鬼丸おにまるとか、どう」


いかつい名前だが、いたって穏やかなクラスメイトを思い出しながら問う。


「なんで鬼丸くん?わたしは慶崎くん以外好きにならないよ」


怪訝な表情で俺のことを見つめる。


「優しくて、頭が良くて、いいやつじゃんか」

「………慶崎くん?」


ますます顔が険しくなってくる。こんな白咲は少し珍しい。


「わたしが慶崎くんのことを好きなのはね。やさしくて、かっこよくて、わたしの王子様で、運命の人だからだよ」


先ほどの問いに、満面の笑みでアンサーを返される。

こうも直球に口説かれると、しばらくなにも言えなくなる。隣に立っているサラリーマンに怪訝な顔でこちらを見られた。すみません。

それに、俺はやさしくもないし、かっこよくよないし王子でもない。よって運命でもなんでもない、ただの臆病な人間なのだ。白咲は間違っている。


「今日は、時間余裕だね!」

「そうだな」


高校の最寄りに電車が到着する。

時刻は8時15分。昨日と違ってHRまでの時間に余裕がある。だから、あのめんどくさい遅刻カードも今日は書かなくていい。


「でも、昨日慶崎くんと走って楽しかった。また遅刻、しようかな」

「は?……馬鹿か」


駄目だ。白咲の不意打ち健気ムーブに弱い。これ以降不意打ち健気ムーブを禁止とする。

などと言えるはずもなく。


「…慶崎くん、今日も顔色悪いね。」

「そう?」


不意にまた昨日と同じ指摘をされる。俺は電車に乗ると顔色が悪くなるらしい。


「よし、慶崎くんの血圧が上がるように、コーヒー牛乳を贈呈しよう!」

「どうも」


白咲はガサガサとコンビニのビニール袋から雪印のコーヒー牛乳500mlパックを取り出す。俺の好みの物をドンピシャに知っている。さすが白咲だ。

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