第1話 (2)

結局この暑い中全力で走ったにもかかわらず、HRの始業チャイムには間に合わなかった。

1分でも始業チャイムに間に合わないと遅刻カードというものを書かされる。それを持って教室まで行かないと教室に入ることができないというめんどくさいルールにのっとって、俺は真面目に職員室前の机で遅刻カードを書いている。


「遅刻理由…暑過ぎて生きるのがしんどいから」

「そんな…そこまで暑いのが苦手なんだね、慶崎くん」


俺のクソつまらん冗談を真剣に受け止めて深刻な表情をする白咲。白咲の遅刻カードの理由は、


"慶崎くんのことを考えていると好きすぎて夜眠れなくて寝坊しました"


「お前も大概だな」

「なにが?」


またもや真剣な表情でこちらを見つめる白咲。白咲は人と話す時絶対に目線を合わせてくる。その熱のこもった視線に射抜かれぬよう俺はしばし目を背けてしまうこともある。


やけになり二人ともその理由で職員室にいる教師にカードへ認印を押してもらおうとしたが、真面目に書きなさい、と一言突っぱねられてしまった。


「先生、わたしはいたって真面目に書いています」


白咲の凛とした声が廊下に響く。


「やめろ、恥ずかしい。先生すみません…」

「白咲さん。暑さでおかしくなったんですか?正気にもどりなさい」


それはそれで俺に失礼じゃないか?という言葉は飲み込んで、結局寝坊という理由で認印を押してもらった。


「白咲さんが遅刻なんて珍しいですね。次からは気をつけるように」


そう先生が最後に優しく呟く。

そうだ、白咲は俺なんかに付き合って遅刻や内申点を削っていい奴なんかじゃないんだ。


「白咲、俺はカスだから遅刻するけど、白咲はそうじゃないだろ。もう駅で俺なんか待つな」


教室まで汗をひかせるようにゆっくり歩く最中、白咲に注意する。すると白咲はいつもの調子で


「慶崎くんと1秒でも長くいたいの。だからずっと待つよ。慶崎くんが登校してくるまで」


なんて、考え方を変えると狂気じみた発言を爽やかに言い放つ。

そうだ、こいつには常識なんてものは通じないんだった。

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