第28話 下総銀行カップ(7)

 ガビアータイレブンは、ダウンを済ませてシャワーを浴び、マスコミの取材を受けていた。


 一方、貴賓室に居た社長の山際とGMの日向は何やら話し込んでいた。


「日向さん、やっぱりアンタの見立ては正しかったようだね。須賀川君があんなにも柔軟に戦い方を知っているなんて2か月前のオレには全くアイディアがなかったよ」


「僕も3か月前にはこうやってプロサッカーチームのGMやっているなんて思いもしなかったですね。山際さんの決断力は世辞なしにすごいと思いますよ」


「で、今日の試合はどう評価している?」


「今日はコンバートがうまくいったことを確認しましたよ。もう中野選手のことは悪く言わないつもりです」

 

 わずか2か月前には中野のことを「移籍金を払ってでも要らない」と言い放っていた日向だが、ちゃんと認めるところは認めていると改めて山際は確認できた。


「そうやってフラットに選手のことを見てやれるのは日向さんのいいところだと思うよ」


「しかし肝を冷やしました。山口は脳震盪、大丈夫ですかね? あまり甘く見ているとまずいですからね。ちゃんと検査とか受けさせた方がいいのでは?」


「チームドクターだけはこのチームすごいからね。たぶん鮫島君ならそこは心配いらないよ」

 鮫島はもともと川島製鉄の工場に常駐している社内医だった。


 スポーツ医学について明るく、三顧の礼で山際がガビアータのチームドクターとして迎えたのだった。


「眞崎は想像通りのいいプレーをしてくれましたし、ヘンネベリも、村雨も、移籍組は大活躍でした。こう言っちゃなんですがこの年棒総額でこのパフォーマンスはかなり効率的だと思いますよ」


「だから俺は日向さんを呼んだんだよ。まずはいいチームを編成してくれて本当にありがとう」


「いやいや、たかがプレシーズンマッチで何をおっしゃいますやら。カップ戦を1つでも取ったり、リーグ戦の優勝争いにでも絡んだらまた褒めてくれますか(笑)?」


「いやいや、今日の試合を見る限りこのチームには素晴らしい未来しか見えてこなかったよ」


「とりあえずクラブハウスに移動しましょう。選手のみんなもすぐに戻ってくるはずです」

 カワアリの隣にあるチームのクラブハウスに着いた山際と日向は、エスプレッソマシーンでコーヒーを淹れ、貴賓室での話の続きを行っていた。


 そこに初陣を終えて帰ってきた須賀川とコーチ陣がやってきた。


「須賀川君、監督初勝利おめでとう」


「山際さん、ありがとうございます」


「須賀川さん、すごいじゃないですか。アラウージョは今頃あなたに次は負けないように作戦を練り始めているかもしれませんね」

 日向がそう言うと、


「まあ、次は返り討ちにしてやりますけどね」

 と須賀川は嘯く。


「それを聞いて安心したよ。で、今度のカンファレンスなんだけど、もちろん出席するよな?」


「そうですね」


「それが終われば、開幕はすぐそこだ。一年間、頼みますよ」

 山際のかつてないほどの真剣なまなざしを受けて須賀川は身の引き締まる思いがした。


 選手たちも三々五々クラブハウスに戻ってきて、全員が揃ったところでチームミーティングが始まった。


 須賀川は試合後の反省会をみっちりやる方だが、勝って気分は良いようだったので、


「今日の戦術の理解度は高かったが、2点取られたのはなぜか。これを解決しないうちは俺たちが優勝争いするなんてことは絶対にない。明日は軽くリカバリーのトレーニングをするので試合に出たものは10時集合。それ以外は9時から5対5のゲームをハーフコートでやるからな。その時にさっきの質問の答えを聞くから」

 と言って解散にした。

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