第15話 ウィンターキャンプ

 電撃的な新GMと新監督就任会見が202x年の年明け早々あり、ガビアータ幕張に世間の耳目が集まった。


 何しろ、サッカー未経験のGMと、引退したばかりのスター選手とは言い難い須賀川の監督就任だ。世間的には、大概は否定的な意見だった。


 Twitter上では、#どうしたガビアータ幕張 のハッシュタグが多数貼られて喧々諤々の大議論となっている。


「カモメサポ11番 @makuhari_ganbare_11

新しいGMの日向って、あの「サカやろ」キングのアイツか!

ゲームで天下とったくらいでGMとか、ガビアータマジで気が狂った? #どうしたガビアータ幕張」


「しんちゃんです @shi_chan_desu_yo

#どうしたガビアータ幕張

須賀川、選手としては好きだったけどJSL-Aの監督とかまだ早いよ!

てか、いつS級ライセンス取ってたの?

もっと修業しないと。」


「クレイジーメンタルジェットコースター @crazy_mental_jtcstr

#どうしたガビアータ幕張

結局フロントがクソ。意味わかんね。山際社長ヤメロ!!」


 山際は殆どのツイートに目を通したが、感情的になって書きなぐっているだけにしか感じなかったし、耳の痛い示唆など一切なかった。


 一部肯定的な意見があったが、こちらも新しいフロント陣の狙いが分かっている訳でもない、希望的感想に過ぎなかった。


「コータきゅん @ninnin_hattori_qun

オレはこうした改革は面白いと思う。

ガビアータのフロントにはこうしたチャレンジ精神は期待してなかったからなー。

文句は一年後言えばいい。#どうしたガビアータ幕張」


 それでも山際はマーケティングチームにはこのハッシュタグをモニターするように命じていた。

 否定的な意見がどのように変わっていくか見たかったからだ。



 そして、間を置かず、ガビアータ幕張は1月15日から開幕に備えてキャンプに入った。


 この時期はケガの防止やコンディションを保つためにどちらかと言えば温暖な気候の場所を選んでキャンプを張ることが一般的だが、この崖っぷちのチームには十分な予算があるとは言えなかった。


 千葉県外に出る事だけでも相当な旅費を必要とする。


 それでもGMとなった日向ひゅうがは、集中してトレーニングさせたいという須賀川の希望通り、予算を工面して和歌山県の串本でのキャンプを実現させた。


 実際には獲得を予定していた右サイドバックと条件が折り合わず、放出する予定だった中野に元の年棒の1/5で再契約を持ち掛けて結果として残留させて浮いた資金だったのだが。


 残念ながら一旦放出された中野にはいいオファーが届かなかったようだ。

 

 日向ひゅうがのはプランは狂ったが、


「まあよくあることです」

 と言ってさほど気にしている様子はなかった。


 金を払ってでも放出したいと言ってたのに、と山際は思ったが言わなかった。


 当の本人、中野はプライドがいたく傷ついたようで、日向ひゅうがに対する恨みは口には出さないものの相当なものであった。


 中野は良くも悪くもガビアータ中堅選手だ。

 後輩の面倒見もよく、慕う若い選手も少なくなかった。


 中野は山際と日向ひゅうがに対するネガティブなインプットを繰り返していた。


「あいつらにこのチームを任せていたら、来年の今頃はどこかに買収されちまうんだ。お前ら今から色々と移籍に向けて動いていた方がいいぞ」


トモ中野さん、それマジすか?」


「マジもマジ。マジマジまんじ。だってお前らも見ただろう? エウリントンがいなくなってどうしてこのチームが去年以上になれるっていうんだよ」


「まあ、そうですよね……」

 若い選手たちには中野の言葉が重くのしかかり、だんだん自分の将来に望みが持てなくなってきていた。


 そうした空気は、ウィンターキャンプ初日から影響を出した。


 若手の地元の千葉の千葉向陽高出身の二年目FW、湯川がケガで離脱。

 昨年トップチームに昇格し、出場は合計100分だが、2Gを上げている期待の新人だった。


 須賀川の戦術練習にも身が入らない様子の選手が多く見られた。

 戦術練習は、決められた役割を理解し、しっかりと自分とボールを動かさない限り上手くいかない。

 中野に毒された選手たちは緩慢な動きを繰り返し、ミスを連発した。


 すると、須賀川よりも先に、選手である左SBの関口がキレ始めた。


「ねえねえ、トモ中野さんとか、何やってんすか」

 関口の眼光は鋭く、中野を射貫いていた。


「これはこれはの関口。オレのような下級プレーヤーに何かご不満でも?」

 中野はマスコミを通じて関口が大幅な年棒アップで残留を果たしたことを知っている。


 左右の違いはあるが、SB同士で比較されることも多い。

 関口の年棒は他チームからの評価からして正当なものだ。

 

「チンタラやっててチームが強くなるんすかね? ちゃんとやれよ」


「てめえ、いい気になってるんじゃねえぞ!」

 須賀川はピッチで起こっていることが信じられなかった。

 自分がいたセカラシア福岡ではありえないことだったからだ。


「このチーム、今のままじゃダメだ」

 そう独り言ちた後、


「おーい、いったん休憩にするぞ。中野! 関口! お前らも喧嘩するのは一旦やめろ!」

 と全員に声を掛けた。


 関口も中野もその場は収めて、プレハブで即席に作ったクラブハウスに引き上げて行った。




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