第12話 戦術無双
「サッカーをよく知っているってどれくらい知っているんですか?」
町島はだんだん
「おそらく、JSL-AとB,それからヨーロッパの五大リーグのここ10年間のスコアと試合内容は殆ど諳んじられるんじゃないか。
山際は軽く言ったが、途方もない事だった。
「まさか! そんな人はいませんって。社長も冗談が過ぎます」
「そのまさかなんだよ。もし試したかったら後で
「つまり、日本人選手と、ヨーロッパで活躍している選手については殆ど頭の中に入っているってことですか?」
「ああ、それにだ。まあ大体のリーグの事も知ってるみたいだぞ。タイにもいい選手がいるとか言ってたな。それから、過去の試合の試合運びも分かってるってことは、」
「基本戦術とそのバリエーションも全部わかっている……ということですよね‼ 社長!」
町島はピン!と来たようで待ちきれないように山際の答えに自分の考えを重ねた。
「ああそうだ。彼、それからeゲームの
「えっ、あ、思い出しましたよ。どこかで聞いたような名前だとは思ってたんです。オレも「サカやろ」やってますし!」
山際は笑った。
「あれはチーム作って対戦するんだろう? ある意味監督やった方がいいのかもしれないな。でも彼の適性はそこじゃないと思うんだ」
山際は得意顔で町島に言った。
「というと?」
「うん、やっぱりさ、彼は社長なんだよ。使える資源っていうのかな、監督の場合、ほとんどが与えられた戦力の中でやりくりをしなきゃいけないと思うんだが、彼の場合は引き出しがべらぼうに多いわけよ」
「確かに」
「残念だけど予算はある程度決まってるし、GMだってその中でどうやってチームを編成するか、企業経営と近いところがあると思う」
町島の眼が段々輝いてきたのを見て山際は核心に入った。
「だけどさ、彼は全然違う考えを持ってるんだよね。逆引きっていうかチームの結果がどうであるべきかからチームの編成をやる。もちろんベースは承認された予算なんだけど、全然そんなのは関係ないだって言うんだ」
「おもしろい。でもリスクが大きいようにも思えます」
山際はトーンを落として、
「昨日言った通りだけど、オレたちのチームは、リスクを取らないでそこそこの結果を残すだけでは許されないんだ。サッカーオタクをGMにするくらいのリスクを取らないと、オレたちは生き残れない」
「話を聴いているだけなら、すごいわくわくしますが、反面恐ろしいような気がします」
「チームが売却されることか?」
「それ以外何があるっていうんです」
山際はポン、と町島の肩に手を掛けて、
「中身は言えない。でも、大丈夫だよ。だからしっかり自分の仕事をやって欲しい」
どう大丈夫なのか、説明を聞きたかったが、だんだん出社する社員が増えてきたので山際は、
「この話はちょっと秘密にしておいてくれ。まあいずみんなにはオレから話すから」
といって切り上げてしまった。
「いいんですか、逆にオレにそんな話をしてしまって?」
と背中越しに声を掛けたが、ヒョイ、と右手を上げただけで山際が振り返ることはなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうでした? 高橋君や選手たちとは話せました?」
自室に戻った山際は、待たせた詫びもそこそこに、日向にチーム練習の見学について質問した。
「いやあ、僕の立場を説明するのがちょっと難しくて。随分と怪しまれましたよ」
「そうだろうね。でもみんなGMとは思わなかったんだろうな」
「よく童顔だって言われますし」
笑うと日向の顔はもっと若く見える。
「で、どうする? 監督人事は」
高橋はサテライトチームのヘッドコーチだったところを、前任者を更迭したため代行として昇格させたに過ぎなかった。
「僕は高橋さんにはサテライトに戻ってもらおうかと思ってます」
「君の眼鏡には適わなかったか。一発で残留させられなかったしな」
「ええ、あんな采配、誰だってできるんじゃないですか? 最終節の試合運び、特に後半の入りですけど中盤が間延びしましたよね? あれは高橋さんの指示が明確じゃなかったからです」
「なるほど」
さすがの洞察力だと山際は思った。
「後半の入りで選手の意志の統一もできない監督を置いておくわけにはいかないです」
「随分と厳しいな」
「逆です。このチームは甘いんですよ」
「それを言われると面目がないな。で、いい監督はいるかい?」
「います。監督次第で選手は180度変わりますよ」
勿体付けて日向は言う。
「2年前にセカラシア福岡を引退した須賀川氏を起用したいです。彼、S級ライセンスを既に取得しているそうですし、まだどこのチームからも誘いがないと聞きました」
「
確かに図抜けたサッカーフリークだからと云ってそうした機密性の高い人事がらみの話にアクセスできるわけではない。
「まあ会社経営者でしたから、情報は方々から手に入りましたよ」
「なるほど、で、須賀川は何がポイント?」
「とにかく戦術が柔軟です。恐ろしいほどに戦術を知り尽くしている。多分僕よりも」
山際は関心した。相当自分には自信があるはずなのに、人を褒める事を厭わない。
「彼の事は『戦術無双』って呼ばせてもらってます」
「そりゃいいや。でもどうやって知った?」
「『サカやろ』ですよ。僕がチャンピオンなので、素性を明かして近づいてきた人は沢山います」
英雄は英雄を知るってことか。山際はそう感心した。
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