第2話 最終節-2
サポーターに期待されないチーム。
そもそもサポーターと呼べるような存在なのかも疑問だ。
連敗しては暴れ、試合後選手のバスを取り囲んで監督やフロントに事情を説明しろと迫る、ほとんど愚連隊の類にしか見えなかった。
JSLが始まった頃、ドイツや東欧の国から移籍してきたヒーローたちによって絶大な人気を誇ったこのチームは、経営の堕落によって落ちぶれ、マクドゥーエルによって一度は盛り返すも再び経営の判断ミスで再び落ちぶれた。
それでも何故だか30年間二部に降格しないこのチームをネットの住人は「リーグのお荷物」と呼んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
最終節、群馬カルバロス戦のキックオフの笛が14:00きっかりに主審によって吹かれた。
笛に呼応して上がった
ガビアータ幕張のシステムは4-4-2。中盤はトップ下、左右のインサイドハーフにボランチ1枚のダイヤモンド型とかなりオーソドックスな布陣だ。
試合は2トップの丹羽から韓国代表の
尹からさらに後ろのトップ下の川上に、川上は一旦右のインサイドハーフの庄司にボールを預けて左前方にワン・ツーを狙って流れて行った。
庄司はマークのついた川上にはパスが出せず、左インサイドハーフ、キャプテンの鈴木崇士にパス。
このパスは読まれており、カルバロスのセンターフォワード甘粕にカットされた。
そして甘粕はそのままドリブルで仕掛ける。
ガビアータのネット裏からは重苦しいため息が漏れる。
「またかよ、庄司頼むぜ。おい」
精度を欠きまくるこのインサイドハーフはいつしか「パスミス王子」とネット上では陰口をたたかれていた。
甘粕にはガビアータのワンボランチ、元U-21代表の坂上が対処しようと素早いチェックを入れたが、甘粕は坂上に間合いを詰められる前に上がって来ていた右ウィングにパスを出した。
これにはセンターバックのブラジル人エウリントンと、右サイドバックの中野が対処。もう一人のセンターバック赤羽はウェリントンのカバーリングで右に寄り坂上は左に下がり、左サイドバックに関口と共にアーリークロスに警戒した。
直後、観客席が沸いた。
カルバロスの中国人右ウィング、黄英傑が中野とウェリントンの二人のチェックをものともせずトップスピードを維持して振りきって、ペナルティエリアに侵入し、赤羽が寄せたが強く抑えの利いたシュートをインステップで蹴った。
しかしゴールキーパーには粟尾は難なくキャッチ。赤羽の最後の寄せでコースが限定できたからである。
「おい、黄のチェック甘いぞ!」
粟尾は中野に怒鳴ってからフィードボールを蹴った。
中野は悪びれもせず、あまつさえ粟尾を睨み返した。
チームワークは傍目から見て決して良いとは言えなかった。
その後暫く両チームともに膠着状態が続いたが、前半26分、カルバロスが思わぬラッキーで先制する。
ペナルティエリア外から甘粕が撃った相手のミドルシュートが、CBのウエリントンの脇腹辺りに当たって軌道が変わった。
粟尾は逆を突かれた形になり、そのまま得点を許してしまった。
天を仰ぐ粟尾。
次いで地面の芝生を悔しそうな表情で蹴った。
粟尾には十分キャッチングできる自信があったのだ。ちょっとした不運だが、失点したことには変わりない。
今日のガビアータイレブンはそれでも体のキレが悪い者は居なかった。
ゲームキャプテンの鈴木は、
「No problem! エウリントン!」
とエウリントンに声を掛けた。
そして、
「粟尾! いい反応だったぞ! 次は頼む!」
粟尾への配慮も欠かさない。
鈴木はチームメイトから愛されるキャプテンだ。
前監督が第20節で成績不振の責任を取らされて辞任した後を継いだのはサテライトチームのヘッドコーチだった高橋だった。
いわば繋ぎの監督だ。本人からすればこれで降格させれば一部リーグでの監督の目は無くなるかもしれない正念場がいきなりやって来たわけだが。
高橋もベンチ前から大声で失点で気落ちしないようにガビアータイレブンを鼓舞する。
「まだ前半も十分時間はあるぞ! 慌てるな!」
高橋は給水にタッチラインまでやって来たボランチの坂上に、ポジションを上げるよう指示をした。
指令は「得点を取れ」だ。
果たして狙いはうまく行った。
前半のアディショナルタイム、関口が突破してポスト役になっていた尹にグラウンダーのパスを出した。
尹はしっかり足元にボールを収め、すかさずファー方向にボディターンを試みた。
しかし、ディフェンスに動きを読まれてしっかりと対応されたので、仕方なしにそのまま上がってきていた坂上にパス。
坂上は寄せてきたセンターバックに一旦シュートのフェイクを入れてスライディングさせ、簡単にかわしてからインステップで強烈な左脚のシュートを放った。
糸を引くように、シュートは右側のゴールのサイドネットに突き刺さった。
目の覚めるような素晴らしいゴールが決まった刹那、前半終了の笛が鳴った。
これでともかく試合は振り出しになった。
「よく振り出しに戻してくれた! 早くベンチコートを着て身体を冷やすんじゃないぞ!」
高橋は選手にそう声を掛けて、ロッカールームへ来るように促した。
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