第32話 クラスの悩み
・ベルガル
「情けない、、、。」
今俺達は城で事情聴取を受けている。順番に聞き込みをするらしいく、今はクラスが話をしている所だ。ちなみに俺とベルガルの事情聴取は既に終わっていてクラスが終わるのを待っている状況だ。
・ベルガル
「はぁ、、、」
いつも自身に満ち溢れているベルガルがこれ程落ち込むとは、かなりレアな状況を見ているんじゃないだろうか?
事情聴取を行っているのはライル騎士団長だ。
事が事だけに団長自らが行っている。
一緒に居た副官の綺麗なお姉さん、エバさんはベルガルの同僚だったらしい。あのお姉さんも魔族の方だった、前のオルドラ王国防衛戦で仲間になったと教えてくれた。
・エバ
「お前がベルガルの言っていた冒険者ニュートだな?あいつがあれ程までに興奮して人の事を話すなどここ何百年と無かった事だ。元同僚として礼を言う、今後も良きライバルとして近くに居てやってくれ。」
凄く良い人なんだなと感じた一時だった、その後サラッと魔族と言う事を漏らした発言にライル団長が焦っていたのは面白かった。
良いコンビなんだなぁ。
・ベルガル
「旦那様に顔向けできぬ。」
未だに凹んでいるベルガル。
こう見えて繊細な部分もあるんだね。
・「終わってしまった事はしょうがないよ、今回は無事だったんだからその事を喜ぼう。次に同じ失敗をしない様に対策を練る方向に集中しよう。」
俺なりに励ましてみた。
・ベルガル
「しかし、、、」
色々と考えてるんだろうな。
・「せっかく失敗したんだからこの事を次回に生かせるように考えよう。失敗は成功の基って言うだろ?」
昔、よく学校で耳にした言葉だ。
・ベルガル
「ふむ、確かに一理ある。」
ベルガルが考え込んだ。
・ベルガル
「起こってしまった事は悔やんでも仕方がない、次にどうするかを考えなければならない。そう言えば昔、魔王様も言っていたな。」
懐かしそうにつぶやくベルガル。
・ベルガル
「ふむ、今は前を向くとしよう。
感謝するぞニュート。」
ベルガルの元気が出たようだ。
俺には今回の事で気になる事があった、それは何でベルガルが魔族だとバレていたかだ。恐らくライル団長が出てきたのもそこが引っ掛かるんだろう、それに『魔族に効く薬』なんて物は聞いた事が無いとも言っていた。つまり首謀者はこの国のトップクラスの貴族であり、魔族の事に関して異常に詳しい人物と言える。
・「魔物の研究家って感じ?」
・ベルガル
「首謀者の事か?我はよく解らぬがエバは『モーダル国』が絡んでいる可能性を示唆していたぞ。奴らは魔族と手を組んだ、ならばその様な薬を知っていても不思議ではない。」
考えたくないなぁ、敵国の息が掛かった貴族がこの国のトップクラスに居るなんてさ。まぁ、俺では何も出来ないと思うけどね。
・ベルガル
「この後ニュートはダンジョンに行くと言っていたな、良かったら我も付いて行っていいか?LVは上がらぬが基礎能力値はまだ上がっている、失敗を繰り返さぬように少しでも強くなりたいのだ。」
師匠も実戦に勝る修行は無いと言っていたしね、何よりも経験が強くしてくれる。ベルガルが付いて来てくれるならダンジョンクリアも夢じゃないな。
・「俺からお願いしたいくらいだよ。」
ベルガルは喜んでいた。
クラスの事情聴取が終わるまではベルガルとダンジョンの話や師匠の話などで盛り上がっていた。ベルガルから見ても師匠の強さは異常らしい、1対1だと勝てるビジョンが浮かばないと言っていた。
暫くしてクラスが部屋から出てきた。
その表情は酷く落ち込んでいる様子だった。
・エバ
「全く、お前のご主人様がこんなに落ち込んでいるのにお前ときたら何笑って話してるんだ。もう少し場の空気と言う物をだな、、、」
エバさんにベルガルが起こられている。
・エバ
「冒険者ニュート、お前もだぞ?」
俺も怒られていたらしい。
ちょっと楽観視し過ぎていたかな?
しっかりと謝っておこう。
・ライル
「エバ、そこまでにしておけ。この子達は被害者でもある、辛気臭い空気になるよりはマシだろう?時にはこういった奴が救いになったりするもんだ。ニュートだったな?お嬢ちゃんの事は任せたぞ。」
団長はそう言い残して去って行った。
残されたのは俺とベルガル、落ち込み気味のクラスと護衛の兵士さん2名だった。
・兵士
「城の外までご案内しますので付いて来て下さい、事情聴取お疲れさまでした。」
俺達は兵士について城の外までやって来る。
城の外ではセーラさんとキロスが待っていた。
・セーラ
「クラス、大丈夫ですか?」
・ベルガル
「奥様、申し訳ありません。
私が付いていながらこんな事に、」
ベルガルが真っ先に謝罪の言葉を述べる。
・セーラ
「お三方とも無事だったのです、今はそれで十分。ささ、屋敷に戻ってゆっくりしましょう。」
セーラさんの用意した馬車に乗って屋敷に戻る。
キロスは学院を休んで城に来ていた。
俺が思っているより大事になっているみたいだ。
馬車の中では誰も話すことは無かった。
~カーティス家~
・セーラ
「ゆっくりと休みなさい。」
クラスは自分の部屋に向かい、ベルガルは部屋の扉前で護衛している。俺はキロスの部屋で色々と話をしていた。
・キロス
「しかし、とんでもない事になったね。」
・「本当にね。」
憶測で事件の事を話すのは辞めて置くようにライル団長から言われている、なので下手な事は言えないのだ。
・キロス
「その様子だと口止めされてるんだね。」
しっかりバレていました。
大きくなったね、キロス。
・「何処で誰が聞いてるか解らないから話さないようにと言われてるよ、キロスには話したいけどね。」
・キロス
「大方の予想は着くから大丈夫。」
学院に行ってから見違えるほど成長した。
少し可愛げが無くなったのが残念な気がする。
・キロス
「今回は姉ちゃんを助けてくれてありがとう、まさかベルガルが眠らされるなんて驚きだったよ。やっぱりニュー兄が一番頼りになるね。」
・「良く知ってるね?」
よくご存じの様です。
・キロス
「あ、言っちゃいけないんだった。」
可愛い所も残ってました。
・キロス
「へへ、実は父ちゃんから色々聞いてたんだ。昨夜の駆けつけた兵士さんから詳しく聞いたんだって言ってた。」
そうか、あの時に駆け付けた兵士に聞いたのか。セントさんはその兵士から聞いて家族に伝えたんだな?
・キロス
「今回の事で5貴族の話を白紙に戻すって言ってた。『家族を危険に晒してまで欲しい称号ではない』と怒ってたからね、今頃は王様の所に言ってるんじゃないかな?」
・「そうだったんだ。」
・キロス
「5貴族になると色々面倒だしさ、姉ちゃんや俺にまで求婚の話が沢山来るんだ。俺的には5貴族の話が無くなってせいせいしてるよ。」
意外な一言を聞いた気がした。
貴族ってのも案外大変なんだね。
・キロス
「兄ちゃんはこれからどうするの?」
・「とりあえずクラスの傍に居ようかと考えている。何かできるか何て思わないけど相当落ち込んでたみたいだから近くに居て支えたいかな。」
・キロス
「おお、本当?」
何故が嬉しそうなキロスが居た。
何か変な事言ったかな?
それから暫くはキロスと話していた。
学院での出来事とか楽しく話していたら途中からアストも参戦、杖を中心においての談笑会はかなりの盛り上がりを見せていた。
・セーラ
「楽しいそうですね、よろしかったら私も混ぜて下さいな。」
更にセーラさんも参戦。
セーラさんはアストの事を知っているらしく抵抗なく杖とのおしゃべりを楽しんでいた。楽しいひと時は時間を忘れさせる、気付けば日は傾き夕暮れになっていた。
・セーラ
「よろしかったら今日は泊っていきなさい。」
セーラさんがそう進めてくれた。
・キロス
「そうだよ、泊っていきなよ!」
キロスも賛成のようだ。
・アスト
「弱っているクラスを落とすチャンスよ!優しくたたみ掛けて夢中にさせるの。」
アストが何やら言っている。
クラスの事は確かに心配だ。
後で様子を見に行ってみようかな。
とは言え、流石に泊まるのは遠慮します。と断ったのだが、キロスの猛攻を受けて結局は泊まる事となった。まだまだ俺と話がしたいらしい、俺もキロスとの話は楽しいからちょっと嬉しかった。
・セーラ
「では客間の準備を指示してきますね。」
セーラさんは部屋から出て行った。
暫くすると食事の時間となったがクラスは来なかった、流石に心配になって来たぞ。
食事を終えてから俺はクラスの元に向かった、扉の前では下を向いて深刻な顔をしているベルガルが居た。
・ベルガル
「ニュートか?」
・「ベルガルも何か食べておいでよ、しっかり食べていないといざと言うときに力が出ないよ?」
・ベルガル
「ぬぅ、離れるつもりはなかったがニュートの言う事も一理ある。では直ぐに食べて来よう、それまでクラス様の事は頼んだぞ。」
ベルガルは急いで食堂に向かった。
実はこのセリフ、セーラさんが教えてくれたものだった。責任感の強いベルガルの事だから食事はいらないと言うだろう、教えたセリフ通りに伝えて欲しいと言われた。
セーラさんの思惑通りだね。
さて、俺はクラスと逢ってみるかな。
・「クラス入るよ?」
俺はドアをノックしてからドアを開ける。
部屋は暗いままだった。
・「クラス、大丈夫?」
どうやらベッドの中に居るらしい。
もぞもぞと動いているから寝てはいないだろう。
・クラス
「ご飯はいらない。」
ご飯の事を伝えに来たのだと思われた。
・「無理して食べなくても良いよ。」
食べたくない時ってあるよね。
食べたくなったら後で食べれば良いんだし。
しばらく沈黙が続いた、俺はクラスの様子を伺いながらベットの傍で座っていた。
・クラス
「私は、うぬぼれてました。」
クラスが話し始めた。
・クラス
「攻撃魔法を覚えてからずっと練習してきた、魔物も一撃で倒す事が出来る様になった。ニュートとキロス、3人で魔物の大群を相手にした。少なからず自信を持っていたのです。しかしそのせいでベルガルを危険に晒してしまいました。私があの時、身勝手に屋敷を抜け出したから。」
そうか、そんな事を考えていたんだね。
・クラス
「それでも、私は嫌だったのです。5貴族となり、家柄の良い人物に嫁がなければいけない。そんな決まりを護る事に何の意味があるのでしょう?私は家族が好きです、それでも譲れない物があります、ずっと悩んでました。」
クラスが思いの内を伝えてくれた。
俺も思った事を伝えよう。
・「俺は貴族の事は何も知らない、クラスは一人でずっと悩んでたんだね。力になってあげられなくてごめんね、もしも俺に出来る事があるなら何でも力になるよ。」
正しく慰めになっているかは解らない。
それでも黙っている事は出来なかった。
クラスの力になってあげたい。
これは本心なのだから。
・クラス
「ニュートはこんな私の事をどう、」
クラスの言葉がそこで止まった。
どうしたのかな?
何かを聞きたかった様子だ。
続きを推理して答えれば良いのかな?
・「クラスは俺にとって一番大切な存在だよ、なんて言えば伝わるかな、家族って感じかな。クラスが傍に居ると凄くあったかいんだ、だからクラスが苦しそうだと俺も辛い、クラスの事はずっと傍で護りたいって思ってるよ。」
これであってたかな?
思いつく事をそのまま伝えてみた。
クラスは何も答えなかった。
ベットの中でもぞもぞしてたみたいだけど、応え方を間違えたかな?もう一度言い直そうとしたがアストとキロスが乱入してきたお陰で何も言えなかった、アストのテンションが凄かったのが印象的でした。
ベルガルもこちらを見て笑顔だったな。
セーラさんまで居た事に驚いた。
みんなして盗み聞きしてたのか?
とりあえず怒られなかったみたいなので応え方を間違えたわけではないだろう、俺は思った事を言っただけだから間違わなくてよかったよ。
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