第31話 暗殺者
・セント
「悪いが許可できない。」
ですよね。
そんな言葉が来る事は予想出来てました。
・クラス
「そんな、、、お父様。」
クラスが泣きそうな顔でセントさんに食い下がる、しかしセントさんは頑なに許可を出さないでいる。
・セント
「お前もそろそろ社交の場と言う物を覚えて貰わなければならない。今までの様な子供のままではいかんのだ、大人としての身の振り方と言う物を覚えるのだ。これはお前の将来を思って行っているのだぞ?」
セントさんの言う事はイマイチ解らない、貴族の生き方と冒険者の生き方は全然違うからだ。こんな時、ライ兄なら何かしらの手を打つのかな?
・ベルガル
「失礼ながら旦那様、今日まででクラス様は殆どの事をマスターしてまいりました、それこそ誰にも負けない程の努力をしてです。ここらで少し気分転換をした方が今後の為に繋がると思うのですが。」
ベルガルが必死に食い下がる。
しかしセントさんも引かない。
・セント
「お前の言う事も理解出来る、しかしダメなのだ。5貴族の候補ともなると何処から攻撃されるか分かったもんじゃない、今は本当に大事な時期なんだ。クラスは私の大切な娘、ライバルたちはどの様な手で私を追い詰めてくるか分かったもんじゃない。常に監視の届く所で護ってやりたいのだ。お前には多数の婚約依頼が入っている、中には王族の血を引く家からも来たのだぞ!しかし5貴族になれなければ全てが流れる事になる。」
セントさんはクラスに言い放つ。
・クラス
「私は、私はお父様の道具ではありません。私を守ると言いつつも5貴族に入りたい為なのでしょう?こんなに窮屈な思いをするのであれば5貴族になどならなければいい、私は私の思うように生きたい!」
クラスが思いの内をぶちまける。
セントさんがクラスの頬を叩いた。
・セント
「いまは解らなくてもそのうち解る、部屋で頭を冷やしなさい。ベルガル、クラスを部屋に連れて行け。」
・ベルガル
「しかし旦那様、、、。」
・セント
「連れて行け!」
セントさんはかなり興奮している。
ベルガルも今は引くべきだと判断した。
・ベルガル
「承知いたしました。」
ベルガルは頬を抑えて放心状態のクラスを部屋に連れて行った、去り際に目が合ったのは何かしらの意味があったのだろう、悪いけど俺には何も伝わっていない。
・セント
「お見苦しい所をお見せした。」
セントさんが俺に向かって頭を下げる。
・「いえ、俺こそすみませんでした。」
俺も頭を下げておいた。
・「俺は『貧民街』の出身です、貴族の方々の常識がまるで解っていませんでした。」
少し楽観視していた部分はある。
回復が出来るクラスが居たら良いなとか、クラスの攻撃魔法があると攻略時の幅が広がるなとか、ダンジョン攻略の事しか考えて無かったんだ。
・セント
「君は既に国からの勲章を得るまでに成長した、行ってみれば国公認の冒険者だ。そんな君ならPTメンバーくらいすぐに集める事が出来るだろう。どうかクラスの為に今回の事は無かったことにして欲しい。」
クラス以外のPTメンバーか。
正直クラスとキロス以外では考えられないかな。
でも一つだけ気になる事がある。
・「失礼な事を言ってしまったらごめんなさい、俺にはどうしてもわからない事があります。今回のやり取りでクラスの気持ちは無視されていたと思いますが貴族の常識ではそれが普通なのでしょうか?このままで居たら本当のクラスが居なくなってしまいそうで怖いと思いました。」
俺は正直な気持ちを述べる。
・セント
「貴族と言う立場上、我々は常に気を張っていなければならない。5貴族としての振る舞いを考え周りに示す必要があるのだ、それが後のクラスの幸せになる。」
そこが一番引っ掛かるんだよね。
・「本当にそうでしょうか?」
・セント
「何が言いたいのかね?」
・「一介の冒険者であるライ兄を認める様な国王様がそんな事を気にしているようには思えません。何より振る舞いや周りの事を気にしている様な王様にナナ師匠が付いて行くとは思えない。何か事情があるかもしれませんが、ナナ師匠が5貴族として国王に従っているのは器の大きさを垣間見たからだと思うんです。このままクラスの願いを聞かずに閉じ込めるよりも、クラスの夢を叶えてあげられるように導いた方が国王様的には嬉しいのではないでしょうか?」
あのナナ師匠が大人しく公務をやっている姿を見ると国王を慕っている事が解る、態勢ばかりに気を取られるような王様だったらナナ師匠は従う事などしない気がするんだ。
・セント
「、、、」
セントさんは何かを考えこんでいる。
・「あ、クラスが部屋から逃げ出しましたね。後の事は解りません、でも今がこんな状態でどうやったらクラスの幸せに繋がるのかが俺には解りません。」
クラスの動きは気配で気が付いた。
傍にはベルガルも付いている。
・セント
「クラスが逃げ出した?それは本当か?」
・「はい、ベルガルもしっかり付いているので大丈夫だと思いますが、俺も追いましょうか?」
・セント
「頼む、クラスを連れて帰って来てくれ。」
俺は直ぐに部屋から出て行った。
クラスの気配はドンドン離れていく、しかしベルガルの強烈な存在感はしっかり感じ取れる。これは俺に向けて放っているのかな?さっき目が合って合図したのはこの時の為?
・「少し急ぐか。」
俺は『空走』で夜の空を駆け出した。
~街はずれの河原~
ここまで一気に走って来たクラス。
彼女の眼には涙が溢れていた。
・クラス
「お父様は何も解っていません。」
一人河原で泣き続けるクラス。
ベルガルは少し離れて見守っている。
しかしベルガルが気付く。
普通では気付かないような小さな殺気。
ベルガルは一瞬でクラスの隣に移動して防御した。
・クラス
「何?どうしたの?」
クラスが驚きベルガルに問いただす。
しかしベルガルは答えない。
小さかった殺気が大きくなる。
しかもかなりの数になっていた。
・ベルガル
「小さな針?」
ベルガルの防御した腕に小さな針が刺さっている。
すると何処からともなく人が現れた。
・???
「へぇ、あの攻撃を感知するなんて凄いね。流石はカーティス家の用心棒さんだ。」
気が付くと周りと囲まれていた。
・ベルガル
「悪いが人違いだ、早々に立ち去って貰いたい。」
こんな嘘は効かないだろう。
ベルガルは解っていながら話を伸ばそうとする。
敵は7人、これだけの数なら容易に倒せる。
しかしそこに「殺さずに」と言う条件が入れば別だ、クラスを護りながら殺さずに全てを倒すのには厄介な相手だろう。
この武器を見ても敵は暗殺者。
一瞬の油断が命取りになる。
クラス様だけは護らなければならない。
・暗殺者
「ふふふ、時間稼ぎ?悪いけど援軍は来ないわよ。向こうには向こうで足止め役を用意してあるんだから。」
用意周到な事だ。
どうやら旦那様はこ奴らに気付いていたのだろう、我にクラス様から離れるなと言っていたのはこういう事態から護る為だったのだ。
・ベルガル
「その足止め役とやらは強いのか?」
・暗殺者
「さぁね、依頼主が金で雇った傭兵だからそこそこ腕が立つんじゃない?」
そうか、それなら心配無用だな。
クラスがベルガルにしがみ付く。
いつも強気なクラスだが、今は心が弱っている。
戦力として考えない方が良いだろう。
・ベルガル
「暗殺者にしては色々教えてくれるのだな。」
・暗殺者
「だって面白いだろう?護衛のアンタが全てを知ったうえでお嬢さんが無残に殺されていく、そんな所を想像するだけでゾクゾクしちゃう。アタシが話せるのはここまでなのが残念だけどね。」
暗殺者が剣を抜く。
短剣を二本、逆手持ちで構える。
・暗殺者
「そろそろ体も痺れて来たんじゃない?」
・ベルガル
「成る程、毒矢か。」
ペラペラ話してたのは毒が回るまでの時間稼ぎ。
暗殺に失敗したが瞬時に思考を切り替える。
この暗殺者は慣れている。
人を殺すと言う事に。
・クラス
「ベルガル、、、」
クラスは心配そうにベルガルに話しかける。
・暗殺者
「お嬢ちゃん、そろそろアンタの命も尽きる。何か言いたい事はあるかい?」
ニヤニヤしている暗殺者。
クラスは少し目を閉じて心を落ち着かせた。
そして、
・クラス
「私は死なない、覚悟するのは貴方たちよ。」
涙をぬぐったクラスの目に光が宿る。
その言葉で暗殺者たちが動き出す。
・クラス
「覚悟なさい!」
クラスの手に魔力が宿る。
ベルガルがクラスの盾となる。
各方向から飛んでくる魔法を片っ端から掻き消す。
・クラス
「『魔弾』」
クラスの魔法が暗殺者たちに突き刺さる。
3名程撃破できた。
・クラス
「次は貴方よ!」
クラスは勇ましく叫ぶ。
・暗殺者
「くっくっく、流石は魔族と飼い主だ。」
クラスの後ろでベルガルが倒れる音がした。
・クラス
「ベルガル?」
ベルガルは何も答えない。
・暗殺者
「安心しな眠ってるだけさ。相手が魔族だと最初から知っていれば対応策などいくらでもある、今回は魔族に良く効く薬を使わせてもらった。これで残りはアンタだけ、目が覚めた時に主人が死んでたらそこの魔族はどんな反応するのかね?」
この者たちはベルガルの正体を知っている。
ベルガルの事は一部の貴族しか知らない事。
つまり依頼者はトップクラスの貴族となる。
・クラス
「貴方たちは、、、」
・暗殺者
「おっとお喋りはここまでだ。アンタは何も知らなくていい、ただ死んで逝きな。」
周りを囲んでいた3名が一気にクラスに向かって来た。
流石に3方向の同時攻撃には対応できない。
・クラス
「くっ!」
一瞬で自分の死ぬビジョンが観えた。
防ぎきれない。
・クラス
「!!」
思わず目を瞑ってしまった。
しかし次の瞬間。
・暗殺者
「何者だ?」
暗殺者の声がする。
・「それはこっちのセリフだ。」
・クラス
「ニュート!」
クラスは目開けた。
目の前にはニュートが立っている、足元にはクラスを攻撃しようとしていた3人の暗殺者が横たわっていた。
・暗殺者
「冒険者ニュート、貴様には足止め役が行ったはずだ。」
・「足止め役?ああ、あのガラの悪い奴らの事かな、あいつらなみんな眠ってるよ。」
ここに来る途中で襲われたニュート。
『空走』で無視しようと思ったが攻撃が苛烈だった為、街に被害が出ない様にと全て倒してきたのだ。
その数は27。
・暗殺者
「ふん、どうせ金を出し渋って5人くらいしか雇ってなかったんだろう。依頼主さんはケチでしょうがない。」
もう一度言って置こう。
ニュートが倒した傭兵は27。
・「んで、事情を聴きたいんだけど。」
・暗殺者
「教えると思うか?」
暗殺者はそう言いつつ攻撃してきた。
ニュートは紙一重で躱してカウンター。
思いっきり顔面にくれてやった。
・「クラスに手を出す奴は俺が倒す。」
一撃のうちに意識を刈り取った。
ニュートは怒っていたのだ。
・クラス
「ニュート、、、」
・「大丈夫だった?ベルガルは何してるの?」
クラスはその言葉で我に返る。
ベルガルを助けなければ。
度重なる戦闘音で兵士達がやって来る。
クラスは事情を話して保護して貰った。
この事は後に大きな問題となった。
ベルガルが目を覚ました時にめちゃめちゃ凹んでいたのは言うまでもない、護るべき対象を危険に晒してしまった自分が情けなかった。
そして次の日を迎えた、、、
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