第28話 憧れの人

俺は使用人に教えられた部屋に到着した。

少し緊張しながら部屋に入る。


・「ライ兄、居る?」


部屋の真ん中のソファーに座っている人物。

間違いない、ライ兄だ!


・クラス

「お久しぶりです、先生。」


クラスも入って来て挨拶をする、ライ兄は明るく返してくれる。罪人と言う事で連れてこられた割にはやたらとリラックスしてない?


・ベルガル

「ほう、この男がお主の恩人か。」


ベルガルも入って来た。

ベルガルを見たライ兄は珍しく睨んでいる。

この一瞬で魔族ってバレたのかな?


・ベルガル

「これは失礼した。

われ、、、私の名はベルガル。

カーティス家の使用人にしてクラス様の盾。

以後お見知りおきを。」


ベルガルは直ぐに礼儀正しく挨拶をする。

そしてとんでもない事を口走る。


・ベルガル

「ふむ、能力的には随分弱そうに感じるな。」


一瞬焦ったがライ兄は全く怒らずにさも正解と言う様に首を縦に振る、やっぱりライ兄は器が大きいね。


・マルチ

「何か文句ある?」


・セリス

「誰だテメェ?」


・ミミ

「すりつぶすよ?」


ライ兄と一緒に居た人達が速攻でベルガルに絡む、凄まじい殺気で恐ろしいです。ベルガル頼むから早く謝ってくれ。


・ベルガル

「いや、すまない。

悪気はないんだ。

気を害したのなら謝る。」


直ぐに謝るベルガル。

あの強いベルガルが押されている。

しかし女性陣の殺気は収まらない。

どうしようかな、、、。


・ライオット

「俺は平気ですよ。

実際この中で一番弱いでしょうし。

しかしニュートは強くなったな。

クラスさんも相当努力したでしょ?」


そんな空気を直ぐに壊してくれるライ兄。

ライ兄はどんな時でも本当に頼りになる。

俺もこんな風になりたいな。


・クラス

「解るのですか?

私は強くなれてるのでしょうか?」


クラスがライ兄の言葉に反応した。

大丈夫、クラスは本当に強くなってるよ。


・ライオット

「解るさ、その魔力の流れを見ればね。

魔力の流れはまさに清流。

淀みも無く綺麗に流れてるね。

しかし魔力量は激流。

凄まじい量を感じるよ。

なんて言うかな。

魔力の質?密度が凄いね。

毎日しっかり練習している証拠だ。

魔力操作ならニュートを上回ってると思う。

戦闘中になると話は別だけどね。」


・ベルガル

「ほう、、、」


ライ兄の言葉にベルガルが感心する。

クラスはとても嬉しそうだ。

具体的に褒めてあげられるのが凄いよね、俺が言っても『強くなってるよ』としか言えないから。


・ライオット

「ニュートは、、、そうだな。

戦うとき魔力を纏ってるだろ?

それに魔石を何かに利用してる?

現在も薄く展開してるな。

少量の魔石の粉。

そして無属性の魔力の幕。

常に魔力操作を意識しているのが解る。

もう二人には敵わないかもなぁ。」


師匠にもバレていない事が一瞬でバレた。

始めは師匠にバレバレだった訓練だったが、最近では俺が無属性の魔力を薄く展開している事や少量の魔石の粉を纏っている事もバレなくなった。なのにこの短時間ですぐにバレてしまった、ライ兄は本当に底が知れないな。


・ベルガル

「凄まじい観察眼であるな。」


感心するベルガル。

そりゃ感心するよね。

俺だってビックリだもの。


・ライオット

「それに貴方は魔族ですね?」


ピタッと止まるベルガル。

俺は冷や汗が出る。

そんな事まで解るんですか?


・ベルガル

「何故、、そう思われる?

貴方も『気』で解るのか?」


ミミが『気』と言う単語で反応する。


・ミミ

「お前、、、魔族なのか?」


ミミさんが注意深くベルガルを観察する。


・ミミ

「間違いない、お前魔族だな。」


部屋の中がピリつく。

ミミさんも解ってしまうのか?

だという事は師匠も気付いたんだろうな、あの時にベルガルと話してたのはこういう事か。



・「違うんだミミさん。

ベルガルは魔族だけど味方なんだ。

だから、、、えっと。」


何とか弁解しなくては。

ベルガルは俺の大切な仲間なんだ。

それにクラスを護ってくれるって約束した。

この場は俺が何とかしなくっちゃ。


・ライオット

「俺は何があったかは知らない。

だがその様子だとニュートの友達だろ?

だったら気にすることは無いさ。

俺の名はライオット。

ただの冒険者です。

宜しくお願いしますね。」


ライ兄が全てを丸く収めてくれた。

こんなにも簡単に魔族を受け入れられるものなのか?ライ兄は一体どんな環境で育ってきたんだろう、目標にしているライ兄の背中が遥か遠くに見えるよ。


・ベルガル

「ニュートから聞いていたが、、、

ライオット殿は不思議な人物だ。

何と言うか、人を引き付ける。

まるで魔王様のようだな。」


ベルガルもライ兄の事を認めたらしい。魔族にとって魔王とは絶対的存在だ、その魔王と同じだと言わせるなんて考えられない事だ。


・セリス

「本当に魔族なのか、まぁライオットが言うなら大丈夫なのだろう。暴れたりするなよ?」


・ベルガル

「解っている。」


ライ兄が認めた途端に部屋中の殺気が消える、もうこの部屋の中はライ兄の空間なんだと認識してしまう。


・ライオット

「んで、何か用があるんだろう?

何かあったか?」


ライ兄に言われて我に返る。

俺自身、この部屋の空気に飲まれていた。

謝らなくちゃ。


・「そうだった、あのね。」


正直言い辛い。

でもしっかり謝らなきゃ、この逮捕もひょっとしたら俺のせいかもしれないから。


・「ライ兄、ごめんなさい。」


俺は意を決して謝った。

ライ兄の名前を使わせてもらった事を。

セリスさんの名前を使わせて貰た事も。

グランの策でキロスを助ける為だと説明し、そしてライ兄の威厳を勝手にフル活用したことを心から謝罪した。


・ライオット

「成る程そういう事ね。

全然問題ないよ。

どんどん使ってくれればいい。」


そんな身勝手な行いをライ兄は笑いながら許してくれた、しかも必要ならドンドン使えば良いとすら言ってくれた、俺はこの言葉でどれだけ救われたか。


・セリス

「そんな大きな戦いがあったとは。

よく街が無事だったな。」


セリスさんも許してくれた、お陰で胸の中のモヤモヤしたものがスッと消えてなくなった気がした。


・ベルガル

「今回の戦いでは魔貴族も2名参加した。

元魔王四天王の2人がな。

この規模で被害がこれほど少なかったんだ。

魔王様が人間側についたのは幸運だったな。」


部屋の殺気が消えて安心したのかベルガルが詳細を話し出した、話して大丈夫なのかな?それともライ兄なら全てを話しても良いと判断したのかな?


・ベルガル

「そうだ、これは言って良いのか解らんが。

この戦いで元四天王の一人が人間側についた。

もちろん我以外の人物がな。」


俺も知らない事を話し出した。

そうなの?

いつの間にそんな事になってたんだろう。

後で詳しく聞いてみようかな。


・ライオット

「仲間が増えたって事かな?いい事じゃないか、仲良くできると良いね。」


こんなに大きな事なのにライ兄は笑って軽く済ませた、どんだけ器が大きいのだろう?ライ兄に追いつける気がしなくなってきたよ。


その後は雑談が始まる。

ライ兄が俺に色々質問してきた。

俺はそれが嬉しくて何でも話した。


師匠の事や修行の事。

あれから覚えた必殺技も全て話した。

少しでもライ兄に認めて欲しかったんだと思う。


俺はライ兄に追いつきたい。

LV上げがしたいと心から思った瞬間だった。


・兵士

「ライオット殿いらっしゃいますか?」


幸せな時間はあっという間に過ぎる。


・ライオット

「居ますよ~。」


兵士がライ兄を呼びに来た。

もうお別れの時間かな?

もっといっぱい話したいのに。


・兵士

「準備が整いましたのでご同行願います。」


・セリス

「とりあえず話を聞かなきゃな。

反論するにも現状が解らねえ。」


入って来た時のライ兄の落ち着きっぷりに安心していたが、審議があるというのは本当の事らしい。俺に出来ることは無いだろうか?セントさんに話してみるか?一体どんな状況なのか把握しなきゃ。


俺が焦っているとライ兄と目が合った。


・ライオット

「少しだけ待ってもらえますか?」


・兵士

「では扉の外でお待ちしてます。

出来るだけ早くお願いします。」


そう言うとライ兄は行動に移る。


・ライオット

「何か書くものあるかな?」


ライ兄は凄い速さで何かを書き始めた。

これは何かの図面?

鍛冶を少しだけやってるから何となくわかる。

これは、、、何かの装置だ。

魔石を使う何か?

一体なんだろう?


ライ兄は図面を書き終えると隣に居る女性に話しかける、この女性はマルチさんだね。マルチさんはライ兄に言われながら図面に文字を書いて行く。


ライ兄は文字を掛けないのかな?

いやいや、そんな事ないさ。

きっと何か意味があるんだろう。


マルチさんが書き終えるとその図面を俺に渡してきた、俺の為に書いてくれたのかな?


・ライオット

「ニュート、この図面を持って行け。

ギルドのドンクさんに渡せば解ると思う。

あと、これも一緒に、、、」


ライ兄が図面と共に魔石をくれた。

見た事もない輝きをする魔石だ。

凄まじい力が宿っているのが解る。


・「これは?」


俺は思わず聞いてしまった。


・ライオット

「武器の改造設計図と部品だね。

強くなったお祝いだよ。

俺にはこんな事ぐらいしか出来ないからね。

んじゃ、兵士さんを待たせちゃいけないから。

またなニュート。」


俺に渡すものを渡すとライ兄は颯爽と部屋から出ていく、俺はライ兄の背中に深く頭を下げてお礼の気持ちを表した、謝りに来た筈なのに励まされてしまった。


・ベルガル

「なんとも清々しい人物だった。

あれ程の人間は初めて見る。」


ベルガルがライ兄をべた褒めしだした。

その言葉を聞いたマルチさんとセリスさんが当たり前だと言いながら笑顔になる、そう言えば二人ともライ兄のお嫁さんだったっけ?

セントさんが教えてくれたけど、他にも2人ほど綺麗なお嫁さんがいると聞いた。ライ兄程の実力者なら頷けるけど、貴族でもないのにそんな事が出来るのは前例がない事だと言ってたな。


何だか俺も誇らしく思います。


いつでもライ兄は想像の遥か上を行く。

そんな姿に憧れてるんだ。


だってさ、魔族とバレて警戒してたセリスさんも、ミミさんやマルチさんもベルガルと楽しく話している。ライ兄と言う存在で魔族と人間が一つになったんだ、こんな事は他の人で出来るとは思えない。


俺はライ兄を心から誇りに思うよ。

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