第21話 説得
~カーティス家~
・セント
「ダメだ。」
説明を終えた瞬間、断られてしまった。
・クラス
「ニュートのお話を聞いてなかったのですか?」
俺はグランの事も含め全てを話していた。
クラスとキロスは直ぐに信じてくれたみたいだ。
この部屋にはセントさんとセーラさん。
クラスとキロス、そして俺しかいない。
使用人の方には出て行って貰ったからだ。
込み入った話になるだろうしね。
・セント
「ニュート君、君の話は信じよう。
私が駄目だと言ったのは配置についてだ。
『南海門』の護衛が3人だけと言うのは何故だ?
親として当然賛同しかねる。」
親からしたらそうなるのも当然か。
俺もおかしいと思ったんだ。
何故『南海門』の防衛だけ3人なのか。
そんな不穏な空気の中、キロスが発言する。
・キロス
「『南海門』は敵軍勢の襲来が少ないのでは?
問題の『国土門』により多くの軍勢を置きたいと言う策だと思われますが。」
魔法学院に通うようになって戦略の勉強もしたのかな?キロスの意見がやけに大人びている。
日々成長してるんだなぁ。
・セント
「それでもだ!
万が一と言うものがあるだろう?
戦争には予想外の展開が付き物だ。
万全を期して迎えねばならん。
それに2人は前線に出さないのが普通なのだぞ?
キロスはまだ12歳だ、早すぎる!
更にクラス、お前は回復特化だ。
出るとしても後衛に配置するのが当然だ。」
至極当然の事を主張するセントさん。
そりゃそうだよな。
3人で防衛すると言っても却下されて当然だ。
グランさんは「出来るだけ3人で」と言った。
最悪3人だけじゃなくても良いのだろう。
でも気になる事も言っていた。
「国の息が掛かっている者は連れて行くな」と。
何か知られたら不味い事があるのか?
3人だけが知っている事、、、
国に知られたら不味い事、、、
・「、、、、そうか。」
・クラス
「どうしたの?ニュート。」
解った気がする。
多分、『南海門』も激戦となるだろう。
それでも3人で行けと言った理由。
『アストラル・フレア』だ。
あの超魔法を知られれば大騒ぎになる。
直ぐにでも国の人間兵器として使われるだろう。
それを防ぐ為に3人と言ったんじゃないか?
もしもそうだとしたら、、、
グランさんは何故あの魔法の事を知っている?
謎が多い人物だ。
・セント
「何と言われてもダメなものはダメだ。
キロスとクラスを戦場に出す事は許さん」
・クラス
「お父様!」
もはや聞く耳を持たないセントさん。
どうやって説明しようか、、、
・キロス
「父上、僕たちが防衛に選ばれた事。
そして何故3人なのか。
その理由が解りました。」
キロスも気付いたか。
・セント
「まだ言うか?」
・キロス
「ニュー兄、一つ聞いても良いかな?」
懐かしい呼ばれ方をした。
妹のイトが俺を呼ぶ時の呼び方だ。
そう言えば一緒に食事をしてると言ってたな。
その時に覚えたのかな?
っと、今はそんな事考える時ではないか。
・キロス
「グランは「3人で」と言ったんだよね?
その人は僕の秘密を知ってるの?」
・セント
「秘密?何の事だ?」
秘密と聞いてセントさんがキロスに質問をする。
しかしクラスがセントさんを抑える。
キロスは俺を真っ直ぐに見つめてくる。
・「はっきりとは言っていない。
「国の者は付けるな」と言っていただけだ。
でも、恐らく知っていると思う。」
それを聞き、キロスは目を瞑る。
色々と迷っているのだろう。
・「セントさん、俺の考えを言います。
『南海門』にも敵の軍勢が来るでしょう。
グランさんはそう考えている。
その上での3人配置だと考えます。」
・セント
「何だと、そいつはふざけてるのか!
死ねと言っている事と同じだぞ?」
・「逆だと思います。
グランさんはキロスを守ろうとしてくれている。
この国とキロス、二つを守るにはこれしかない。
そう考えての人員配置なのでしょう。」
・セント
「言っている意味が解らん。
こればかりは譲れないぞ、ニュート君。」
説得させるには言うしかないな。
・「セントさんは『聖神器』をご存知ですよね?」
・セント
「もちろんだ。神器をも超える武器だろう?
初代勇者ランバートが持っていた聖剣だったな。
それがどうしたのだ?」
・「キロスの持つ武器。
『アストライヤー』もその一つです。
その事を国に知られるのを阻止したいのでしょう。」
『アストライヤー』の名を聞き、今までずっと黙って聞いていたセーラさんが呟いた。
・セーラ
「キロスが?『聖神器』を?」
・セント
「そんなホラ話誰が信じると思う?
大体、キロスが君から貰ったのは神器だろう?
『星々の杖』だと鑑定結果が出ていたではないか。」
ロイヤルさんが鑑定した時、セントさんも一緒に居たんだよな。更に武器神器をキロスに渡してほしいと俺がセントさんに頼んだ訳だし。
ん~、武器の事もどうやって説明しようかな?
神器が進化しました、と言っても信じて貰えないよな。
俺が迷っていると、遂にキロスが動いた。
・キロス
「アスト、自己紹介できる?」
キロスはリングに問いかける。
するとリングが杖に変化した。
・アスト
「どうも~、はじめまして。
今世紀最大の美女、アストちゃんですよ~。
まぁ、今は杖なんだけどね。
悪いけど最初っからずっと聞いてた。
おっちゃんの言い分もわかるわぁ~。」
ピリピリしている空気を切り裂くアスト。
完全に場違いなテンションである。
しかしそんな事はお構いなしでしゃべり続ける。
・アスト
「戦地に三人で行けとかマジムカつくよね。
でもさ、この作戦に似たような出来事知ってるわ。
そんなに無謀な作戦じゃないと思うわよ?
むしろ3人の方が戦いやすいんじゃない?」
ポカーンとしているセントさん。
セーラさんは目を瞑って深刻そうな顔だ。
・アスト
「な~んでキロスの魔力に惹かれたか。
何となくその謎が解けたわぁ~。
あんた、「レイチェル」の血筋じゃね?。」
セーラさんに向けて言ってるのかな?
誰の事だろう、レイチェル?
・クラス
「声を聴くのは久しぶりね、アスト。
その「レイチェル」ってどなたの事かしら?
大賢者レイチェル様とか言わないわよね?」
・アスト
「大賢者?いやいやあの子はそんな柄じゃないよ。
ランバートの後ろにくっついてた地味子ちゃんだね。
ちょこっと魔法が得意だった普通の女の子だよ。
『アストレイヤー』を初めて使った人物。
なっつかしいなぁ~。」
さらっと爆弾を投下してくるアスト。
情報が凄すぎて混乱してきた。
ちょっと整理しよう。
話の流れからして、、、
大昔の大戦で勇者ランバートと共に行動していたとされている「大賢者レイチェル」。
その方が『アストライヤー』を使用していた。
そういう事だよな。
そして、、、
・「キロスがレイチェルさんの血筋。
そう言ってたね。」
・アスト
「そうそう。」
・「何で解ったの?」
・アスト
「そこの綺麗なお母さん、セーラさんだっけ?
あんたから感じる魔力がそう感じさせたって感じ。
随分と色濃く出てるわよ、レイチェル色が。
てか、あんたレイチェルに似てるわ。」
魔力の色って何?
質の事かな?
・「伝説にはこうあるんだ。
勇者ランバートの仲間、大賢者レイチェル。
大賢者の使う魔法は地形すら変える事が出来た。
一説によると山を一つ消し去ったと言われる。
当たってる?」
・アスト
「あ~、、、それアタシの魔法だわ。
ニュートとクラスならわかるでしょ?
キロスならもっと強いの撃てる様になるんじゃない?
そっかぁ~、大賢者とか言われてるんだ。」
アストは大賢者様の武器だったのか。
何が何だか分からなくなってきた。
・セーラ
「質問しても良いかしら?
『聖神器・アストライヤー』で宜しいのですよね?
それでは『アルスト・レイア』様でしょうか?」
・セント
「アルスト・レイア?
君はこの変てこな武器を知っているのか?」
セントさんのフリーズがようやく解けたようだ。
話には付いて行けてないみたいだけど。
・アスト
「お~、アタシを知ってるの?嬉しぃ~。
てか、おっさん。へんてこな武器って何よ!」
・クラス
「お母様、アストの事をご存じなのですか?」
セーラさんは少し黙る。
そして話し出した。
・セーラ
「この事は『レイア家』一部の人間しか知りません。
今まで黙っててごめんなさい。
ひっそりと語り継がれるお話し、全部話すわ。」
・セント
「『レイア家』、、、聞いた事のない名だな。」
・セーラ
「『レイア家』とは初代勇者様にお仕えした一族です。
現在の伝説として「大賢者レイチェル」様の名前が残っているだけで、大賢者に姉が居た事も一族の存在も歴史から抹消されています。
しかし真実は違いました。
勇者様を支えたのが『レイア』の一族です。
彼等は勇者様に全てを捧げたとされています。
そして一族の中でも特に魔力の高かった姉妹が勇者様に同行し、世界に平和をもたらしました。
姉の「アルスト・レイア」
妹の「レイチェル・レイア」
彼女達は密かに禁断の術を使いました。
姉自らが妹の武器となり力を得たのです。
それが『聖神器・アストレイヤー』。
やがて平和になり、強大な力を持つレイチェル様を恐れた当時の人々は『レイアの血筋』を潰しに掛かりました。
魔族狩りと称して一族を虐殺していったのです。
難を逃れた一部の人間が名を捨て他国で生き抜いた。
そして今までひっそりと繋いできた。
それが、私達『レイアの一族』です。」
皆が静まり返る。
自分達の知っている歴史とは余りにも違いすぎる。
・セーラ
「時が来たらクラスに伝承しようと思っていました。
私達はそんな『レイアの血筋』だと。
そしてこの事は誰にも言ってはならないと。
今、真実を知る王族は少ないでしょう。
あなた、、、いえセント様。
秘密を知ったあなたはどう致しますか?」
セーラがセントを見つめる。
セントさんは動く事が出来ない。
・アスト
「つまり、時を超えて同じ血筋に惹かれた。
キロスの魔力に懐かしさを感じたのはそういう事ね。
しかし皮肉よね~。
私達って助けた奴らに殺されたんだもの。
あ~、話聞いてたら腹が立つぅ~。
それに一つ訂正しておくわ。
勇者に仕えてたんじゃないわよ?
あいつが居候してただけだから。
んで、その後妹はどうなったの?」
・セーラ
「伝承では丁重に扱われたと言われています。
レイチェル様の力を恐れたのでしょう。
彼女は城に軟禁状態で外に出ることは無かったらしいのですが、王族として一生を終えたとあります。」
・アスト
「ふ~ん、まぁいいわ。
終わった事をグチグチ言っても仕方ないし。
今はそんな事よりキロスの事ね。
えっと、セントとか言ったっけ?
キロスの力を見せ付けるとどうなるか解った?
歴史は物語るってまさにこれの事ね。」
・セント
「何という事だ。
そんな歴史があったなんて、、、」
セントさんがまた固まった。
そりゃそうか、今まで隠されていた歴史を知った。
歴史学に精通している人程そうなるよね。
・クラス
「アスト、そんな酷い目に遭っていたのね。」
・アスト
「あ~、実はアタシは何も知らないけどね。
進んでこの姿になった訳だし。
戦争終結後、すぐにグランツが魂を開放してくれたからさ。、、、ん?あれ?なんでアタシ復活してんのかしら?
ん~、謎だわ。」
アスト、元々人間だったんだね。
てかグランツって誰?
まてよ、グランツ?、、、、グラン?
グラン、、、魔族。
ちょっと待って?
・「ごめん、少しアストを借りて良い?」
キロスからアストを譲り受けて席を立つ。
部屋から出て誰もいない廊下まで持って行く。
・アスト
「ちょっと何?暗がりに連れ込むとか。
こんな姿でもアタシって魅力的なのね。
自分が怖いわぁ~。」
アストが何か言ってる。
どうでも良いけどね。
・「さっきの話なんだけど。
グランツってさ、魔族の人?」
・アスト
「あら、よく知ってるわね。
魔王グランツその人よ。」
グラン、、グランツ、、グランツァー。
繋がった、グランは魔王グランツァーだ。
でも、何故魔王が人間を救おうとしてるんだ?
・アスト
「あのさ、勘違いしてそうだから言うけど。
グランツは良い人よ?
勇者といっつも仲良くはしゃいでたしね。
どうせ歴史上では悪者になってんじゃない?」
本当の歴史を聞くのが怖いよ。
全然違う事が伝わってるんだもん。
今度から歴史を鵜呑みにするのは辞めよう。
歴史学っていったい何だろうね?
・アスト
「んで、そんなこと聞いてどうするの?」
・「話は最初から聞いてたよね?
多分グランって人がそうだ。
魔王グランツァーだよ。
この事は言わなかったけどグランは魔族だった。
もしもグランがアストの知ってる魔王なら『アストライヤー』を知ってても不思議じゃないでしょ?」
・アスト
「あ~成る程、納得だわ。
てか、アタシが復活したのもあいつの仕業か?
挨拶くらいしろってんだ。
逢う事があったらぶん殴ってやる。
ぶん殴れないけどさ。」
魔王相手にこの態度、、、
アストって凄いな。
・アスト
「そろそろ向こうに戻らない?
乙女としては向こうの事が気になるんだけど。」
アストの提案で部屋に戻る事にした。
・セント
「セーラ、君の事は理解しているつもりだった。
だが何も知らなかった。
知ろうとさえしなかったのかもしれない。
私はずっと君に甘えていたんだ。
今まで何も知らなかった事、、、許してくれ。」
セントさんがセーラさんに抱き付いて泣いている。
セーラさんは優しくセントさんの頭を撫でる。
キロスもクラスも皆泣いていた。
どういう状態?
・アスト
「あ~、良い所見逃したわぁ~。」
何故か悔しそうにするアスト。
アストが居たらこの展開になってなかった気がする。
俺は暫くアストと共に部屋から出る事にした。
家族の問題だろうなって思ったからさ。
・アスト
「なかなか気が利くみたいね。
んで、これからどうするの?」
・「もう一度セントさんを説得するよ。
グランさんに言われた通りに動くつもりだ。」
・アスト
「それが懸命だと思うわ。
グランツは戦略にも長けてたからね。
下手に作戦を変えると大惨事になるわよ。
前に攻められた時、国のアホな指揮官が戦術を勝手に変えたせいで壊滅しかけた時もあったし。
前って言っても大昔って事になるのかしら。」
伝説時代の話になるね。
そう考えると不思議だなぁ~。
何百年も前の話を当事者から聞けてるんだ。
俺は暫くアストと話していた。
すると扉が開きクラスが迎えに来た。
部屋に入ると立ち直ったセントさんが座っている。
・セント
「『南海門』の防衛は3人に任せる事にした。
どうか、キロスとクラスの事を守ってほしい。」
深々と頭を下げるセントさん。
どうやら説得の必要は無くなった様だ。
・セーラ
「でも、どうするですか?
例え誰にも見られていない状態でも魔法の威力は目視できるかもしれません。
そうなったら尋問される可能性もあるわ。」
俺もその事を考えていました。
でも解決策はグランが教えてくれた。
「ライオット君の威厳を使う事になる」って、かなり遠回しな感じだけどそう言う事だよな?
ここまで考えてたのかな?
・「ライ兄、いえ冒険者ライオットさんを使います。」
・セント
「ライオット君を?」
知ってるみたいだね。
流石はライ兄、大人気。
・「あの人はここ数年で数々の伝説を残しました。
ですので『南海門』の防衛は4人と言う事にします。
俺とクラス、キロス、そしてライオット。
そして超魔法の使用者もライオットとします。
そうすればキロスの秘密を守れる。」
・セント
「しかし、他の防衛にライオット君が加わったら?
そこから全てバレてしまうのでは?」
・「ライ兄は、今回の防衛に参加しません。
他に用事が、、、
彼しか出来ない単独作戦に参加する為です。」
・セント
「そうか、彼は参加しないか。
単独作戦なら仕方がない。
彼なら難解な作戦もやってくれるだろう。」
ライ兄、勝手に話を進めてごめんね。
セントさん、適当なこと言ってごめんなさい。
でも、こんな無茶な話でもライ兄の名前を出すとスムーズに進んでいくんだね。
・セント
「彼が係わっているのなら何とかなるだろう。
グランと言う人物もライオット君の仲間なのか?
それならば下手に作戦を変えるのは危険だ。」
う、、、ここで否定はまずいよな。
・「その通りです。」
うう、嘘ばっかり言わなきゃいけないのが辛い。
ライ兄、俺。
どんどんダメな人間になっている気がするよ。
・セント
「そうか、、、よし解った。
ならば全力で支持しよう。
キロス、クラス。
絶対に死ぬんじゃないぞ。」
・クラス&キロス
「はい」
・「2人は俺が必ず守ります。」
カーティス家の説得は上手くい行った。
でも凄く心が痛いです。
ライ兄に逢いたいな。
逢ってしっかりと謝りたい。
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