第20話 信じる心

貧民街からナナ師匠の屋敷に帰る途中。

俺は何かの気配を感じていた。

何もないような感覚だが、違和感がある。

その空間だけぽっかり空いている感じ。


何か、、、居る。


俺は人気のない場所に進んでいった。

やはり何かが付いてくる。


・「、、、誰だ?俺に何か用?」


敵意や殺意は感じない。

だから止まって声を掛けてみた。

俺の思い過ごしなら良いんだけど。


・???

「へぇ~、よく解ったね。

最初に言っておくよ。

僕は敵じゃないから。」


やはり誰かが居た。

背筋に冷たい汗が走る。

振り返ると見たことのない人物がいた。

幼い、、、いや大人?

何だ?特定できない。

見ている光景がしっかりと認識できない。


・???

「君には僕がどのように映ってるのかな?

そこに興味があるなぁ~。

だが、そんな事を聞きに来たわけじゃない。」


謎の人物が一人で話を続ける。


・グラン

「僕の名はグラン。

もうすぐこの国が大変な事になる。

信じるか信じないかは君次第だ。

どう?聞きたいかい?」


何とも怪しい人物だ。

でも何故だろう?

聞いた方が良い、直感でそう思えたんだ。


・「詳しく聞かせて欲しい。」


・グラン

「自分で言うのもアレだけど、

僕ってかなり怪しいよね?

そんな人間の話を聞くのかい?」


・「何故かな、、、。

話を聞かなきゃいけない、そう思えた。

それだけの事だ。」


思ったことを伝えた。

上手く説明はできない。


・グラン

「そう言ってくれて助かるよ。

5日後、この国は魔物に攻められる。

そこで君に力を貸してほしい。

攻められる場所は全部で5カ所だ。

それぞれの門、更に上空。

君達に守ってほしいのは各門だ。

えっと、、、メモするかい?」


いきなり言われて少し混乱気味だ。

この人は何故そんな事を知っている?

だが、今はその事を気にしている時じゃない。


・「大丈夫です、続けて下さい。」


・グラン

「話し方が変わったね。

僕の事を信じてくれるのかい?」


いつの間にか敬語になっていた。

本能がそうさせたのかな?

この人の話を聞かなきゃいけない。

そう思えてならないんだ。


・グラン

「まあいい、続けるよ。

西区の『白堊門』、東区の『国羅門』、

ここにはそれぞれ剣聖と拳聖を配置して。

もちろんそれぞれの軍勢と共にね。

君は南区の『南海門』だ。

PT2名と一緒に行ってね。

出来るだけ3人だけで行くんだよ?

特に国の息が掛かった者は連れて行かない様に。」


何故俺の所だけ3人なんだろう?

『南海門』は敵勢が少ないのかな?


・「北区の『国土門』と上空はどうしますか?」


・グラン

「上空は僕に任せてくれればいい。

一番の激戦区は『国土門』だ。

ここにはギルドと残りの軍を配置す事。」


配置は理解できた。

問題は、、、


・グラン

「君に国軍を動かせるか、不安かい?」


その通りだ、、、。

顔に出てたのかな?

まるで心を読まれた感じだ。

俺一人では誰も動いてくれないのではないか?


・グラン

「君の大好きな人に手伝ってもらえばいい。

居るだろう?一人。

既に国を動かした人物がさ。」


そう言われて思い浮かんだ。

ライ兄の事を。


・グラン

「そうそう、ライオット君だ。

彼が情報源だと言えばかなりの人物が動くと思う。

どこまで動くかは君と彼次第だ。」


この人、ライ兄の事を知っている?


・「ライ兄の知り合いの方なのですか?」


・グラン

「彼の事は知っている。

逢ったことは無いけどね。

近々逢いに行く予定ではあるけど。」


俺はこの人物を信じて良いのか?

胡散臭い、でも信じなきゃいけない気もする。


・グラン

「後から怒られるのは嫌だから伝えておくけど。

多分ライオット君は防衛に参加しない。

彼は他の事をするだろうからね。」


ライ兄は参加しない?

人々が危ないと知りながら何もしないのか?

それほどの事が別に起こるのか?


グランは続ける。


・グラン

「防衛に参加しない人物の話を果たして国の人間は信じるかな?

仮に防衛に成功したとしよう。

情報を知りながら防衛に参加しなかった彼を国はどう思うかな?

君は彼と国、どちらを守りたい?

彼は今、国内に居る。

しかし直ぐに出ていく事になるだろう。

彼を国から守りたいなら明日にでも探し出し事情を話して止めるしかないよ。

でも彼を止めるとそれはそれで大変な事が起きる。

とても難しい問題なんだ。」


この人は俺に何をさせたいのだろうか?

話せば話すほど味方とは思えなくなる。


・「ライ兄は、、、俺の目標です。

ライ兄のやるべき事はライ兄が決める。

俺には俺のやる事がある。

俺に出来る事は、貴方の話を信じる事だと思う。

俺は防衛に専念します。」


・グラン

「彼の名を語って情報を流すんだ。

更に、彼の威厳を勝手に使う事にもなるだろう。

『南海門』を3人で防衛すると伝えなきゃいけない。

反対意見は多いだろう。

そんな時、君は彼の名を借りる事になる。

様々な理由でね。

しかし、そのせいで彼は国に真意を問われる。

君はライオット君から嫌われるかもしれないよ?」


・「それでも良い。

俺が嫌われるだけで皆が助かるのなら。」


そうさ、ライ兄ならそうする筈だ。

覚悟は決まった。

やるべき事も決まった。


・グラン

「君は相当変な人だね。

得体のしれない僕の話を鵜呑みにするのかい?」


グランさんこそ変な人だな。

信じて貰えているのか確認するかのように何度も問い掛けているみたいだ。

一生懸命さは伝わって来るけどね。

きっと、この人自身が迷っているんだろうな。


・「もっと自信を持って良いと思いますよ。

俺には貴方が味方だと解ります。

信じて欲しいなら、信じる事から始めなきゃ。」


俺の言葉にグランの心が揺れる。

その時、一瞬だけだが見えた事がある。


・グラン

「信じて欲しいなら、まず信じろ。

そう言えばあいつにも言われたな。」


少し悲しそうな、それでいて優しい顔になる。


・「俺はグランさんを信じますよ。

たとえ貴方が魔族だったとしても。」


グランは驚きを隠せない。

そして、笑顔になる。


・グラン

「ニュート君だったね。

最初に伝えたのが君でよかった。」


暫く考えたグランは動き出す。


・グラン

「では、俺も信じるとしよう。

あいつが守ろうとしたこの世界を。」


そう言い残し、ニュートの目の前から消える。

最後、彼の本当の姿が見えた気がした。

話し方も変わってたな。


・「それよりも、とんでもない事を聞いた。

グランさんの話が嘘とは思えない。

早急に行動しなきゃ。

ごめん、ライ兄。

俺には国を動かす事なんて出来ない。

どうか力を貸してください。」


俺は走り出す。

まずはナナ師匠からだ。

屋敷に向かいながら、どうやって説明すればいいか考えていた。



~ナナの屋敷~


・ナナ

「なぁ~リムぅ~。

ニュートまだぁ~?」


玄関先にあるソファーでゴロゴロしながら呟く。


・リム

「こんな所で何してるんですか?

部屋で待っていればいいじゃないですか。」


リムも玄関先で寛ぎながらお茶をすすっている。


・ナナ

「リムこそ部屋に戻ってればいいじゃないか。

アタシは師匠としてだな、帰ったらすぐに、、、」


ガチャ


ナナの話の途中で扉が開く。

ニュートが帰って来た。


・「ただいま戻りま、、、」


・リム

「おかえりなさい、早速お食事にしましょう。」


全てを言い切る前にリムさんが言葉を発する。


・ナナ

「ちょっとまて、まずは特訓からだろ?

だろ?ニュートも特訓したいだろ?」


リムさんとナナ師匠が睨み合う。

そんなやり取りを見てホンワカできた。

お陰でモヤモヤしていた気持ちが少し晴れた。


・ナナ

「ん?どうした?

何か困った事でもあったか?」


流石は師匠、お見通しですね。


・「実は、聞いてほしい話があります。」


・リム

「随分深刻なお話の様ですね。

ニュート様自身が半信半疑と言った所でしょうか?

先にお食事をなさってください。

その後にお聞きします。」


リムさんが見事に言い当てた。

その通り、いろいろと迷っています。

あの時は信じたけど思い返せばおかしな話だし。

、、、、でも信じるべきだ。

グランさんの話と言うよりも自分の直感を信じよう。

俺達は食堂へと向かった。


食事は静かに行われた。

ナナ師匠と食べる時はいつも話しながら食べている。

リムさんに怒られながらね。

でも今日の食事は何も話さなかった。

きっと俺の事を考えてくれてたんだろう。

包み隠さずに全てを話そうと決めた。


・ナナ

「さて、何があったか話してもらおうか。」


食事後、師匠から話を振ってくれた。

リムさんが退出しようとしたが俺が引き留めた。

リムさんにも聞いてほしかった。


・「貧民街から帰る途中。

ある人物に出会いました。」


まずはグランさんの事から伝える。

そして言われた事の全てを話した。


・ナナ

「ん~、なんとも胡散臭い話だな。」


当然そうなる。

ここからどうやって信じてもらうかが難しい。


・リム

「では、私はこの事をロイヤル様にお伝えします。」


・ナナ

「そうだな、んじゃアタシは国王に言うか。

オーランドの奴にも言わなきゃだな。

リム、立案はライオットと言う事にすればいい。

そうすればロイヤルなら動くだろう。

だがそれ以外でライオットの名はまだ出すなよ。

ニュートが好きな様に使えば良い。」


ん?どういう事だ?


・「し、信じてもらえるんですか?」


・ナナ

「あん?当たり前だろう?

お前がそこまで深刻に話すんだ。

お前はこの話を真実だと捉えたんだろう?

だったらアタシはお前を信じる。

弟子を信じなくてどうするよ?」


・リム

「ニュート様の危機感が本物だと感じました。

ならば私はニュート様の為に動くのみ。

『万能薬』の恩は忘れませんよ。」


涙が溢れそうになった。

本当に良い人に恵まれたんだな。


・ナナ

「5日後だったよな?

ならば行動は早い方が良いだろう。

配置もグランとやらの策で行こう。

そいつの情報しか無い現状では下手に動かさない方が良い。

ニュート、お前はセントの所に行け。

3人で防衛するってんだ、相当反対されるだろう。

上手く説得しろよ?」


ナナとリムは直ぐ行動に移る。

そして俺はカーティス家に急ぐ事にした。

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