第22話

 気を失っている十数人の黒ずくめ達を放るように大司教の足元へ滑らせるアグニは、床に皹の入る豪奢な部屋をぐるりと眺め、口をひん曲げるようにため息をはいた。


「期末試験を実施するまでもなく落第だよ、大司教。追試もなしだ。丸坊主になって、全校生徒の前で『ぼくは悪いことを企んで、自分より力の弱い人たちを苛めてきました。心を入れ換えて他国へ出ていきます』って言うなら、ゲンコツ一つで許しちゃう。──けど、そうじゃないなら……」


 呆れを含んだ咎める視線で大司教を見つめるアグニ。まるで出来の悪い教え子に最後のチャンスを与えるようだった。


 視線を受ける大司教はムグゥと唸っては顔を赤くさせた。


「私に悪事を認めろ──そう言っているのか小僧?」

「え、うん。そう言ったつもりだったんだけど、理解できなかった? もっと噛み砕いた方がよかったかな!?」


「貴様……ッ!」

「いや、俺もね期末試験って言葉がどうして出てきたのか分からないし、学校の先生みたいなこと言ってる自分が分からないんだよ!? 分かりづらかったよね、ごめんね。大司教!!」


 アグニが言葉を重ねる度に大司教の顎の肉が、腹の肉がプルプルと揺れ出した。顔の赤さもさらに度合いを高めて、赤を通り越して深紅に染まっていく。


「クソガキが! 馬鹿にしてるのか!?」

「おお! 今度はすぐに気づけたね大司教!! えらい、えらいよ、大司教!!」


「貴様ぁあぁあぁああぁぁ!!!!」


 そんな怒鳴り声に肩を竦めて小脇に抱えるナナをそっと下ろすアグニは、小声で「俺の後ろにいてね」と頭を撫でた。改めて向き直り、大司教と山羊面魔族に眼を向ける。


「で、だ……でいいんだよな?」


 問うのは確定した個人にではない。その場に居る全てだ。


 顔ばかりでなく手足を赤黒く染める大司教に、鮮血滴る巨腕をぶら下げる山羊面魔族に、壁際で恐怖に顔を歪ませて笑って震える虜囚達に、蹴られ踏まれて奪われた物言わぬ女性に、此岸の縁に追いやられ息も絶え絶えに横たわる少女に、奥歯を噛み締め厳めしい表情が常になった初老の男に、臓腑をぶちまけ部屋を汚す潰れた僧兵に、頭の上で背の羽をピンと伸ばして険しい表情のニーポに──そして。五年間もの間に尽くされた凌辱で震えも絶えないナナに。


 問い掛ける。


 向けられるのは視線、呻き、涙、怒り。何一つ正の感情のない場の空気が、答えを返す。


「だよなぁ……」


 アグニは大きく息を吸ってうつむくように吐き出した。わずかの沈黙が挟まり、場に混在する怯えや苛立ちが可視化される。


 そのなかで、高い天井を己の角で削る異様なる化け物が口を開いた。


『よう、人間。いいや──アグニと言ったか?』

「……」


『おいおい、無視とはご挨拶だなぁ。殴りあった仲じゃあないか。効いたぜ? あんな一発貰ったのは初めてだ。その一発がまさか人間からとは考えもしなかったよ。油断を衝くのは戦闘の基本ってこと、久々に思い出した』

「……殴りあったぁ? 一方的にアグニにやられてたように見えたんですけどぉ(ボソ」


 と言ったのは、うつむくアグニの頭に引っ付くボソボソ妖精フェアリーニーポちゃんだった。ニーポは顎を上げて横長長方形の瞳を睨み付ける。


「て言うか、あんな負け方してよく顔を出せたものよ、あんた。あたしなら恥ずかしくて自分で穴を掘ってでも潜り込んでるわ」

『ふん、その小さな身体では、戦闘の隙がどれほど結果を左右するか分からんのだろうなぁ。それも、人にはもち得ないあの膂力だ。超絶無比の力を有する魔族であるこのオレ様も、ついつい驚愕してしまった程だ。しかし、今のオレ様に油断はない! 幾重にも掛けた多重魔力防壁に筋力強化!! 魔力の底上げに処女の娘も食らってやったわ!!! 引き裂き潰し、絞って飲み込んだ純血のなんと甘露なことか……ッ!』


 引き吊るような強烈な笑顔で己を誇る山羊面魔族。耳にするだけで肉体が萎縮する笑い声はその場のほとんどの人間を硬直させた。


 けれど。

 ──アグニ……ッッッ!?


 その瞬間、頭の上のニーポと背後のナナは気付いた。アグニが何事かを呟き、その呟きは明確な憤怒を以て色付けされていることに。


『ふんっ! どうやら己の愚かに気付いたようだなぁ。たかだかひと種である自分が、上位存在であるオレ様に楯突くのがどれだけ恐ろしいことかを。それが証拠にうつむき震えておるわ! 見ろ、大司教!! そうだろう!!』

「は、はい! そのようで……!!」


 BMEEE BMEEEE BMEEEEE!! と。山羊面魔族は夜の闇を震撼させるように笑いながら、さっきまで空間の主だった大司教のへりくだった態度にも満足を得る。


『……ふう。久し振りに笑わせて貰った。愉快は健康にも良い、特効薬だぞお、うん。ま、そこで、だ。オレ様は気分がいい! だから、チャンスを与えてやる。オレ様を楽しませた礼だ。なぁに、矮小なる人の身であってもまだ生きていたいだろう?』


 山羊面魔族は下卑た顔つきでアグニを見下ろすと、甘く囁くように、こう言った。


『後ろの。アグニ、お前も男だろう。ならば分かるよなぁ? その雌は男を誘う色香の塊だ。小さな肉体も、幼い外見も、不釣り合いな女の匂いも。どれをとっても男を誘うように出来ているんだ。其処の大司教とて、幾度あの小さな腹に種を仕込み、その度生まれ落ちる子を殺させ、喰わせ、いたぶったか……アグニ、お前も我慢などせず、その腰を打ち付けたらいい。何度も何度も、その内側に己を解き放て。女の子袋こぶくろは男の種を発芽させる為だけにある厭らしいものなんだ。なんせ女なんて生き物は、男を満足させる為だけにある、快楽器官おもちゃなのだからなぁ……』


 ねっとりとした響きだった。聞かされた男が生唾を飲むのを堪えきれなくなるような、洗脳じみた誘惑だった。この状況に置いても尚、大司教など喉を鳴らしている。


 身を竦めるナナは眼を悲しく瞑り、すがり付くアグニの服を伝う震えに声を乗せた。


「アグニさん、なら……い──」

「ナナッ!!」


 言葉は白髪の上から。背の羽を怒りに震わせたニーポから。


「その先を言ったらあたしがあんたをひっぱたく。アグニの気持ちを踏みにじらないで。あんたの諦めは、アグニへの侮辱よ」


 それに──と。ニーポはアグニからナナの肩へと移動して言葉を接いだ。


「あんなくそったれの言葉を吐かれて、アグニが怒らないはずがないじゃないっ!!!」


 その瞬間だった。

 轟ッッッ!! とその部屋に突風が巻き起こった。その中心に、凶悪な面貌へと歪んだアグニが立つ。


「言いたいことは、それだけか?」


 圧倒的圧力。部屋の空気が一瞬にして塗り変わり、呼吸するだけで身体が痺れるようにひりつく空間に変化する。その強烈な敵意が向く先の山羊面魔族とヒキガエルに似た大司教ガマグッチ・エロペロンは空間に固定でもされたかのように身動きを封じられていた。


 ──か、身体が、動かない!? な、なんだこの感情は……まさか、怖がっている……? 魔族であるこのオレ様が、たった一匹のひと種のガキに恐怖させられていると言うのか!!


 それは魔族が初めて感じた恐怖だ。大司教など、あまりの恐怖に立ったまま糞尿を漏らし、涙と鼻水で顔面を汚している。目に、見えるのだ。脳裏に、焼き付くのだ。これから殺される自分の姿が。何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!! 抉られ。潰され。裂かれ。千切られ。剥がれ。砕かれ。抜かれ。捻られ。折られ。搾られ。最後には喰われるような幻覚がありありと!!!


「あぁぁあぁああはああああああああああいあああああいあああああああぁぁああああああああああああああぁあ……!!!!!」


 大司教は股ぐらを汚したまま土下座して見せる。


「そなたよ!! あ、アグニと言ったか……いいや、アグニ様と言い直そう! 私は誤ったことをした! いえ、しました! してきました!! しかしそれは全て其処の魔族がそもそもの原因なので御座います。聖職者という立場にありながら魔族の甘言に踊らされてしまったのです! ああ、そうだ。いま思えば全てのことは魔族にしか言えぬ言葉だった。この国のトップ──教皇様に楯突き、貶めて、私が国王になれる等と……魔族は人の世に災いを持ち込み撒き散らして人の文明を終わらそうとする極悪非道な存在と聞きます。そんな高位存在に私のようなものが逆らえるはずもない! ですからそれは、私がやってきた行為の責任は全て、その魔族にあるので御座います! ですからどうか! 命ばかりは、命ばかりはお助──」


「黙れよ、大司教」


 睨む。それだけだった。それだけで、大司教は息を詰めて気を失った。自分の小便にまみれる格好で、動かなくなる。


 そんな大司教を横目に顔をひきつらせる山羊面魔族は「余計なことを……」と口のなかで呟いた。


 ──これはマズイ。本当にヤバい。なんだこの男の磨力は……いや、これ、本当に磨力か? こんな、宇宙すら造り上げることを可能にするような力を、ただのひと種がもてるはずがない! 意味が分からん。理解不能だ。それこそ、初期プログラム神の采配に重大なエラーがあったとしか……ッ!


 足が下がる。その場に居る誰よりも圧倒的巨体を有し、異形たる迫力を持ち、魔族にしかもち得ない磨力とは違う魔なる力を漲らせる怪物が、過去のトラウマで人混みでは眼を回すような白髪の青年を、恐れる。


 ──戦えば確実に死ぬ……ならばっ!!


 山羊面魔族は逃げる算段をつけるために時を稼ごうと思考を巡らせた。


 だが、そうとは知らないアグニはうつむいたまま言う。誰に向けてではなく、感情が知らず口を開かせるように。


「勧善懲悪──実は、その言葉を知ったのは最近なんだ。善いことをみんなに知って貰って、自分の中の悪い所や周囲の人たちのいけないところを互いに懲らしめられる世の中に、って。そんな思いが込められてる良い言葉だって。ジーグ父さんもメリッサ母さんも、そう言ってた。でも……」


 グギッ!! と。アグニの噛み締めた顎が鳴る。痛みを伴うような鈍い音。


「それを納得できたのは、さらに最近なんだ。だって、そうだろう? 世の中には悪人がいっぱい居る。人を騙して、人を殺して、人を辱しめる。物を盗んで、畑を荒らして、お金を奪っていく。どうしてだ? 金のため、名誉や権力のため、自分の快楽のために、どうして他人ひとを傷つけられる? 騙して、犯して、辱しめて……どうして、殺すことが出きる? どうしてそれを、やりたくもない他人に、凶悪な面で笑いながら押し付けることが出きる?!」


 頭のなかには過去の映像が甦っていた。母の裸体や下衆の笑み。裸に剥かれた幼い自分の腰を母のそれに押し付ける汚れた軍靴。聞こえるはずのない声すら耳に届く。


[守ってあげられなくて……ごめんね]


「なぁ……お前らだって、死にたくないんだろう? お前らだって、やられたら嫌なことはあるんだろう? だったらよぅ、何で勧善懲悪を嫌うことが出来るんだよ……? 他人だってお前らと一緒だよ。一生懸命に生きてるだけだよ。なかには間違う人だって居るよ。けどそれを互いに懲らしめて、善い方向に向かっていけばいいじゃねぇかよ……それを、なのに、どうして──お前ら悪党はいなくならねぇんだッッッ!!」


 アグニの頭が跳ね上がる。豪奢な部屋に数多く備えられた明かりが、導線を追う火花のように砕け散る。だが、それをして、尚。夜の闇はアグニを避けていた。立ち上る磨力が周囲との明暗を分けていた。


 アグニの溢れる磨力の明かりのなかで口角をひきつらせる山羊面魔族は、声だけで嫌みに笑う。


『嗤わせてくれるなぁ、人間』

「なに……?」


『悪党が居なくならない? オレ様達だって嫌なことはされたくないのだから、他人に嫌なことをするな? ──違う。なにも分かってねぇ。悪党が居なくならないじゃあねぇのさ。いなくならないんだよ。お前達はどうして飯を食う? 夜には眠って、子を成し、老いて死ぬ? それは生命として生まれたからだろう。飯を喰わねば死ぬ。だから喰う。眠らなければ気が狂う。だから寝る。汚れた水を飲んで腹を下すのは、水の中の細菌と、飲んだ動物の身体が共生出来ないだけだろう』


「つまり、お前がしていることはって、そう言うことか?」


『観念が違うだけだ。オレ様達とお前ら人間の観念が、なぁ。もちろん他の人間だってそうかもしれん。人の種類は多様だろ。鱗付きもいれば、羽の生えてる奴もいる。ならば生物としての違いが出てきて当然だ。だというのに、その違いを受け入れることを悪だと言うならば、お前の正義は欺瞞よなあ? 殺すこと……他人を騙し、泣き叫ぶ姿を見ることが生命として勝ち得てきた進化の証ならば、それを受け入れ、多様性を認める事こそ正義だとオレ様は考──』


 そこで。

 言葉が被さった。


「いいえ、そんな生物は淘汰されるべき悪よ」


 ニーポである。150ミリの背丈で胸を張り機械甲冑を纏う妖精は、ナナの肩から意思をぶつける。


「アグニ、惑う必要も悩む必要もないわ。アグニは正しい! 融和なんて馬鹿みたいって言っちゃえる糞野郎に気を遣う必要なんてこれっぽっちもないんだから!」

「ニーポ……」


「良い、アグニ? 食物連鎖でもない殺害なんて百害あって一利なしなの。覚えておきなさい!」

「ニーポ」


「それに、やっぱり騙すより、殺すより、お互いが笑顔になれた方が脳科学的にも……って分からないだろうけど、それは良いことが証明されてるんだから!」

「ニーポってば」


「なによ!?」

「大丈夫です。ちゃぁんと分かってますよ」


「……は?」

「脳科学的にも、生物学的にも、分かってますって。経験のない知識が頭にあるアグニさんは、分かってて突っかかってたのよ?」


「へ……?」

「アグニさんは、クライマックスだということを考慮して、ちょっと場の雰囲気をつくってみただけなのよ。いや、本音ではあったけどね? きちんとむかっ腹は立ってるんだから」


「……、…………、~~っ!」


 ニーポの顔から炎が吹き出した。


「あら、胸を張ったまま赤くなっちゃって、かわいいことこの上ない」

「む~~っ! もう、もう、もう!! バカアグニ! どーすんのよこれ!? クライマックスよ? 空気読みなさいよ!! ほら、止まっちゃったじゃない? またも、またもや! 止まっちゃったでしょ?! 流れとか、テンポとか!!?! そーいうの!!」


「えー、それ俺のせい?」

「アグニ以外にいないじゃない!!」


「俺が作った空気に首を突っ込んできたのはニーポじゃないかー」

「なら最初から合わせなさいよ! 空気を止めてまで分かってるよアピールって必要だった!?」


「もう、可愛いんだから。そこに痺れる憧れる」

「話をそらさないで!!」


 ぎゃあぎゃあ、と。ニーポとアグニは夜の闇に包まれる豪奢な部屋で其までの空気をぶち壊しながら騒いでいた。子供のように。兄妹のように。


 そしてそれは。山羊面魔族にとって、


 ──注意が逸れた!!!


 隙以外の何ものにも映らなかった。


 だから、それは完璧な隙をついた瞬間の行動だった。


 瞬く間に中空を埋めて広がる魔法陣。色取り取りの光が産み出され、重なり、真白く部屋を染めていく。


「油断したなアグニ! お前のような怪物と戦うはずがねぇだろうが!? オレ様は逃げさせて貰う。これは恥などてはない。命を懸ける場所をオレ様は知っているだけだ!!」


 強烈に強まる閃光のなか、魔法陣が効力を発動させる。肉体強化。速度上昇。気配遮断。視認不能etc. 魔族という自身の特異性をフルに使い倒し、アグニからの逃走を選択する山羊面魔族。


「本来ならば力をつけて再び相まみえようとでも捨て台詞を吐くところなのだろうがな、オレ様は二度とお前に合いたくない! 関わりあえば俺は殺される。其だけは断言できる!! だから逃げさせて貰うぜ、クソッタレがぁ!」


 愉悦にも似た高笑いを響かせて、明度高く辺りを照らす魔方陣の効果を全て受けた魔族は、光のなか、背に生えるコウモリの翼を大きく広げた。


 ──これで助かった。しばらくヘルズネクトに潜る。オレ様たち魔族はひと種と寿命が圧倒的に違うのだ。五十年もすればもう一度地上にでて、男も女も泣きわめかせることが……。


 だが。

 しかし。

 そうであっても!


「逃がすはず、ないじゃない?」

「なあっあ!?」


 目の前。山羊面の鼻先。


 圧倒的な光の奔流を掻き消す超絶する磨力を暗く輝かせるアグニの悪人面が、憤怒も露に魔族を睨んでいた。


「許さねぇよ。人の心を、人の命を、たかが快楽のため、自堕落のために奪う連中を。俺は絶対に許さない!」


 瞬間。アグニの肉体から溢れる強烈な磨力が巨大な磨方陣を描き出し、豪奢な部屋を貫いた。


「ばぁッッッ……!」


 その巨大に過ぎる磨力を鼻先で感じる魔族は驚愕に息を飲み込み、しかし逃げる行動は止めることはない。


 突き破る。天井を。城の外にのがれるまで。部屋が一部崩れ、大穴が空く。


「くっ……このままヘルズネクトまで……っ!」


 でも──


「逃がさないって、言ったろう?」

「ひいぃ!!」


 夜より暗い瞳で、悲しげな口許で、ひきつり震える頬で、逆立つような白髪で、憤怒のぬぐえぬ表情で!


「肉体の形? 関係ない。それが意思を持っている? 関係ない。虫であろうが魚であろうが鳥であろうが蜥蜴であろうが手足もないものであろうが獣であろうが、たとえ、それが同じ人間であろうが、それが悪意を持ち、害意を持ち、殺意を持って裏切り、騙して、殺すものであったなら! それを俺は殺す!! これを、俺は正義だなんて思わない。恨むなら恨め! 俺はそれごと叩き潰す!!!!!」


 大きく。大きく引いた腕。固く握られた拳。フィンガーグローブに施され、クロム鋼に描かれた磨法陣に超絶的な磨力が通い、法務都市ユグユグに建つ五つの内で一番立派な教会の上空に、空を覆い尽くさんばかりの巨大な幾何学紋様が浮かび上がった。


「や、やめっ……!!」


「残酷な死を押し付け、それを代わりにやれと他者に強要したお前には、最低最悪の結末をくれてやる!!!!!!!!!!!!」


「やめろぁああああああいあああああああ!!」


 崩れた表情、それを。

 ──殴る!!!


 直後、惑星すら貫き通すような鋭い衝撃が山羊面魔族の全身を走った。殴られた魔族は先ほど空いた城の大穴へとすっ飛んで、今度は床をぶち抜き大穴を空けると、大きく地面にめり込んで動かなくなるのだった。

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