第41話:父性愛

「あば、あば、あば、ぶう、ぶう、ぶう」


 長男のジャスワンが言葉とも音とも判断しかねる声をあげる。

 ジャスワンが最初に話す言葉は、パパだろうか、それともママだろうか?

 親馬鹿かもしれないが、眼の中に入れても痛くないという言葉の意味が、子供を得て初めて理解できるようになった。

 男の子ばかり七人の同い年の子供、お家騒動必死であるから、絶対に何とかしなければいけないのだが、何も案が浮かばない。


「まだグズグズとどうしようもない事を考えているのか、バルド殿。

 家督の事は、バルド殿が考えなくとも、父上とイェシュケ宮中伯が、他の妻妾の実家と話し合って決めてくれる。

 バルド殿が余計な事をするよりも、その方が問題が起きない。

 何度言ったら理解するのだ!」


 エルザ様の言う通りだという事は分かっているが、分かっていても考えてしまうのが親心だと思うのだが、エルザ様には親心がないのだろうか?

 いや、エルザ様の情の深さは、誰よりも私が知っている。

 こんな事を口にしたら、いや、表情にでも出したら、死んだ方がましだと思うほど厳しい折檻を受けることにになる。

 気配を消せ、無になるのだ、無に!


「一度だけは許してやるが、二度目は絶対に許さんからな。

 今度同じことを頭に浮かべたら、肛門に木剣を突っ込んで口からだしてやるぞ!」


 恐ろしい!

 エルザ様なら本当にやりかねないだけに、背筋が凍る。

 そんな眼にあわされるくらいなら、余計な事は考えない。

 考えたくないのだが、頭にも心にも思い浮かんでしまう。

 俺は本当に心が弱い、駄目な父親だな……


「ええい、また悩んでおるな、やめよ、やめよ、やめよ。

 稽古だ稽古、鍛錬をするから表に出よ。

 乳母、ジャスワンに私とバルド殿の鍛錬を見せるのだ。

 今から剣の鍛錬を見せれば、いい武芸者に育つはずだ。

 とっとと表に出ろ、バルド殿」


 稽古か、鍛錬に熱中すれば思い悩む事はないかもしれないな。

 それにしても、何かあれは稽古だ鍛錬だというのは、エルザ様らしいな。

 俺の憶病を叩き直してくれたのも、エルザ様の命懸けの鍛錬だった。

 ジャスワンは俺ではなくエルザ様に似てくれればいいな。

 エルザ様に似てくれれば、俺など足元にも及ばない武芸者になってくれるはずだ。


「ええい、グズグズするなバルド殿!」


「ギャッ、痛いではないですか、エルザ様」


 剣の平で思いっきり尻を叩かれてしまった。

 身体強化を重ねた力で思いっきり叩くとは、エルザ様らしい。

 だがこれで俺も気合が入った!

 真剣での稽古鍛錬となれば、一瞬の油断が死を招く。

 性根を入れてやらねば、ジャスワン達を父無し子にしてしまう。

 俺とエルザ様の稽古を見て、強い子の育ってくれ!

 

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