第38話見せしめ

 閲兵式場には、多くの者達が集まっています。

 名代という体裁の皇帝陛下を筆頭に、多くの皇族の方々。

 両閣下をはじめとした重臣や皇国の役職についている者達。

 そして誰よりも熱心な視線を送っているのが、ダンジョン探査の実働部隊、五千人の将兵であった。


 彼らから見れば、総団長である俺の生死は、今後の人生にかかわる一大事なのだ。

 俺のやり方に不満を持ってる者も多少はいるだろうが、瞬く間に俺に決闘を申し込んだ騎士長の普段の言動が広まり、俺に勝って欲しいという雰囲気になっている。

 父上と御爺様が広めてくださったのか、それともシャルタンが広めてくれたのかは分からないが、俺に有利な雰囲気なのは確かだった。


 それに、いざ対峙してみれば、その実力差は明らかだった。

 敵、そう、もう敵と断言していい相手は、この閲兵式場の雰囲気に興奮して、冷静に俺との実力差を図ることができていない。

 身体強化を繰り返した自分の強さに酔ってしまって、眼が濁っているのだ。

 もう少し慎重な人間だったら、俺に決闘を申し込む前に、俺に直接練習を志願して実力を確認しただろう。


 今の俺には、敵のわずかな目配りと筋肉の動き、身体の周りにある空気の流れで、敵が次に何をしようとしているのかが分かる。

 右足から一歩だそうとしているのか、その前に剣を抜こうとしているのか、一挙手一投足が前もってわかるのだ。


「意見が変わったのなら詫びるといい。

 ここまで大掛かりになった決闘を中止するのは勇気がいるだろうが、命に代えられる物はないから、前言を撤回して詫びるのなら、俺も一緒に皇帝陛下に頭を下げて謝ってやるぞ」


 俺は表向き許してやると言いながら、敵を挑発してやった。

 絶対に勝てると思っている敵にとって、この言葉は耐え難い侮辱であろう。

 こんな言葉を投げつけられた屈辱を晴らすには、俺を殺すしかない。

 夜郎自大な小人には、絶対に耐えられない言葉だろう。


「死ね、成り上がりが!」


 自分も同じ足軽からの成り上がりなのに、不浄役人と言われた王都警備隊足軽家の俺よりは、騎士団に付属されていた足軽家の方が家柄がいいと思っていやがる。

 何とも愚かな、度し難い馬鹿である。

 そんな事を言いだしたら、ようやく真っ当に運用されだした、文武官登用試験がまた形骸化してしまう。


「死んで皇帝陛下に詫びろ」


 俺はこの決闘に御臨席くださった皇帝陛下に申し訳なくなった。

 見せしめのために大掛かりにしてしまったが、配下を威を持って感服させられなかった俺の実力不足の結果なのだ。

 暗殺や謀略を使ってでも、事前の排除すべきではなかったかと、つい考えてしまうが、何がよい方法だったのか、両閣下にも相談してみよう。

 独善になってはいけない事だけは分かっているから、よく回りに相談してみる。


 などと考えながらでも敵をぶち殺すことができる。

 周りの者は一刀振るっただけだと思う時間で、敵の両手両足に加えて首まで刎ね飛ばして、五体ばらばらにする。

 そしてそれをきれいに並べた状態で、ようやく皆の目が確認できるように素早い動きを止めて、皇帝陛下に最敬礼する。

 これだけやれば、俺の武勇を疑う者はいなくなるだろう。

 

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