第37話身体強化

 本当は直ぐにその場で決闘を始めたかったのですが、俺も五千を越える者達の命を預かるダンジョン探索団の総団長です。

 ダンジョン探査騎士団を預かる騎士団長でもあります。

 野試合のような決闘を行える立場ではありません。

 相手の男も、身体強化した自分の力を周りに見せつけたかったのでしょう、皇帝陛下の特使が検分するところでの決闘を望みました。


 恐れ多い事ですが、皇帝陛下が直々に御臨席されることになり、急遽閲兵式場での決闘と決まり、場所の手配は心配しなくてもよくなりましたが、皇帝陛下に相応しい飾り付けの用意に、恐ろしく時間がかかりそうになってしまいました。

 ですが、俺が両閣下に御願いして、格式に相応しくない用意でも、直ぐに決闘をやらしてもらえるようにお願いしました。


 虚仮脅しの大好きな譜代功臣家が残っていたら、格式が一番大切だと言って、二カ月三カ月後に決闘をしたでしょうが、ダンジョン探査を最優先にしたい両閣下と、八代皇帝の政策を再現したい今上皇帝陛下の英断で、皇帝陛下の名代の臨席という建前で、皇帝陛下が直々に検分されることになりました。


 相手は俺が決闘までの期間を長引かせて、その間に身体強化を図る事を心配して、ありとあらゆる伝手を使って、即日決闘に持ち込もうとしていましたから、相手方からの妨害などはありませんでした。

 むしろ未だに陰に潜んでいた、両閣下の反対勢力が炙りだせたので、馬鹿の行いは俺達の有利に働きました。


 俺達が身体強化に拘らなかったのには、ちゃんと理由があります。

 正規の狩りでは、指揮官職は実際に戦う機会に恵まれません。

 それでは指揮下の者よりもどんどん弱くなり、実力で配下を抑えられなくなりますから、部隊の秩序が保てなくなります。

 そこで指揮官職の者は、配下が休んでいる時間に、指揮官職と側近だけを連れて、ダンジョンで狩りをしていたのです。


 この秘密の狩りは、指揮官職とその側近しか知らない事です。

 私を筆頭にした各部隊の隊長以上の者は、それぞれ肩を並べ背中を任せて、ダンジョンに棲む獣と戦い狩っていたのです。

 配下の者の気持ちが分かるように、専門の役割を決めず、盾役・槍役・抜刀役・弓役など、あらゆる役目をこなしながら、身体強化をしていたのです。


 それに、これも同じく指揮官職の者だけが知る事ですが、一定以上の人数を心服させ、上手に部隊指揮をして、指揮官の能力によって有効に狩りができたとダンジョンに判断されたら、指揮官職も身体強化されるのです。

 烏合の衆の頭を張ってるだけでは身体強化の対象にはなりませんが、連携を保って効率よく狩りの指揮を執れば、その分だけ身体強化されます。

 そして五千の部隊を指揮す俺には、信じられないほどの身体効果があるのです。

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