第28話奮起
エルザ様が、俺の事を思って厳しくしてくださっているのは分かっている。
勇気を出して立ち直らなければいけない事も分かっている。
分かっているのに、それができない事が恥ずかしく情けない。
自分がこれほど惰弱な人間だったとは、思ってもいなかった。
血の涙を流さんばかりの表情で、私の身体を傷つけるエルザ様に、土下座して詫びたい気持ちになるが、それが詫びにならない事くらいは分かる。
せめてエルザ様の剣に急所をさらし、自害することができればいいのに、色欲に支配されてしまって、死ぬ事もできない。
情けないほど大袈裟に逃げようとしてしまい、致命傷にはならない、ただ一生残る程度の薄手を、身体中に受けるだけだ。
私は、高をくくっていたのだろう、殺される事はないと思っていたのだろう。
エルザ様の本気の殺気を感じて、全身から冷や汗が噴き出した。
間違いなく本気の殺意だった、演技なのではない、明確な殺意だ。
エルザ様は、俺のあまりの情けなさに愛想を尽かされたのだろう。
確かに、このような夫を持つのは、女武芸者として恥だろう。
恥を雪ぐには、俺を殺すしかないと思って当然だ。
エルザ様から見れは、俺が騙したとしか思えないだろう。
「ええい、掛かって来い、反撃してこい。
このまま腑抜けのままでは、生まれてくる子が可哀想すぎる。
ここでお前を殺して私も自害する、腹の子を一緒にあの世に行ってやろう。
家名に武名に傷をつけるくらいなら、その方がいい、死ね!」
死ぬだって?!
私を殺して腹の子と一緒に自害するだって?!
俺は、自分の惰弱な性根の所為で、エルザ様と子供を殺すのか?
妻殺し、子殺しの軟弱者になり果てるのか!
嫌だ、絶対に嫌だ、殺されるのはともかく、エルザ様と子供を殺すのだけは嫌だ!
エルザ様が得意とされる、必殺の突きだった。
今までともに戦い、何度も見てきた突きで、何の迷いも手加減もなかった。
俺を殺して自分の腹の子と一緒に死ぬ、その覚悟を乗せた最高の突きだった。
以前の心身が充実していた俺でも、避ける事の出来ない、早く鋭い必殺の突きだ。
まして今の俺では、避けるのとなど絶対に不可能な突きだ。
だが、何故か、エルザ様最高の突きを、俺は避けていた。
避けようと思って避けたわけではない。
ただ、エルザ様とお腹の子供を死なせるわけにはいかないと思っただけだ。
後は無意識のうちに、エルザ様の突きを避けていた。
だが、エルザ様はそれで手を緩めるような方ではなかった!
一度殺すと決めた以上、何があっても殺す覚悟のある方だ。
一撃で斃せなければ二撃、二撃で斃せなければ三撃四撃と、殺すまで追撃の手を緩めない方なのだ。
だから、ギリギリ避けた突きの後に、追撃の連撃突きが俺の喉を狙ってきた。
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