第26話叱咤激励

「ダンジョンごとき、何を恐れることがある。

 それほど怖いのなら、私の陰に隠れていればよい。

 ダンジョン探査軍の大将として、本陣でドンと構えておればよい。

 先陣は私が務め、見事探査を成功させてやろう、だから安心するがいい」


 エルザ様にそう言われて、それでもダンジョンが怖くて、行きたくないと思ってしまう自分に、吐き気がするほどの嫌悪感を感じてしまう。

 自分自身の醜さで反吐がでる思いがするのに、それでも勇気がでてこない。

 そんな自分の性根が更に情けなく、恥じる心はあるものの、それでも以前のように誇りのためなら死を選ぶという想いが湧いてこない。


「バルド様、訓練です、鍛錬です、失った自信と勇気を取り戻すには、それ以外の道はありません、我らが協力させていただきますから、大丈夫です」


 フォレストがそう言ってくれて、毎日激しい鍛錬をつけてくれる。

 エルザ様との一対一の鍛錬ではなく、多数の敵を相手する実戦形式の鍛錬だ。

 だが、その結果は惨憺たるものだった。

 以前なら簡単にできていた見切りが、恐怖のために出来なくなっている。

 命惜しさに、今まで以上の遠くに逃げてしまうのだ。


 当然の事だが、見切りはぎりぎりで避けなければ意味がない。

 ギリギリで避けるからこそ、相手に隙ができて反撃できるのだ。

 大きく逃げてしまっていたら、全く相手に隙など生まれない。

 隙の無い状態では、反撃しても簡単避けられるか、逆撃を受けるだけだ。

 情けないほど弱くなっている自分に、涙が流れてしまうが、それこそ怯懦でしかないのは、自分自身が嫌になるほど分かっている。


 女色に溺れて国を滅ぼした国王や王子、国を売った将軍や騎士、歴史書に残るそんな連中を、以前の俺は心から軽蔑していた。

 だが、今の俺は、そんな腐った連中の同類なのだ。

 ほんのわずかでも誇りが残っているのなら、頂いた官職を返上して隠れ暮らすほかに道はないのだが、その道を選ぶ勇気すら出てこない。


 今の官職を捨ててしまったら、ロッテ姫とは別れなければいけなくなる。

 今の官職と将来への期待があるからこそ、ロッテ姫との政略結婚が成り立ったのだから、それがなければ解消されるのが当然なのだ。

 それはエルザ様も他の妻妾も同じで、全員と別れることになる。

 その決断が、女色を捨てる決断すらも、今の俺にはないのだ。

 ダンジョンに入る勇気もなく、女色を断つこともできない、情けない人間だ。


「えええい、いつまでもグズグズと男らしくない!

 もうて加減無用、徹底的の叩きのめす!」


 エルザ様の怒りが爆発してしまった!

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