第24話幕間8

 バルド様の慌てぶりには思わず笑みを浮かべてしまった。

 特にエルザ様がシュレースヴィヒ伯爵の隠し子だと聞かれ、狼狽の極致となられた所は、普段のバルド様から想像もつかないお姿だった。

 その場に同席することを許してくれたシュレースヴィヒ伯爵には、ほんの少しだが感謝してしまったが、だからといって油断しているわけではない。

 何時その牙をテオドシウス王家に向けるか分からないのだから。


 だが、シュレースヴィヒ伯爵がバルド様のために、いや、テオドシウス王家のために選んだ愛妾にはなんの文句もない。

 表に出る事を選んだ以上、例え愛妾であろうと、テオドシウス王家に相応しい血筋でなければ、バルド様に近づけるわけにはいかないのだ。

 そういう意味では、シュレースヴィヒ伯爵の選んだ愛妾は絶妙だった。


 シュレースヴィヒ伯爵とイェシュケ宮中伯の権力、皇帝と皇太子がバルド様に寄せる信用信頼と将来性、しかし立場は愛妾と言う低い身分を配慮して、多くの貴族家が抱えている、身分の低い女に生ませた姫を選んでいた。

 それでも、貴族家の娘であることには変わりない。

 戦国時代なら、力のある重臣の娘を養女にして嫁がせる方が、婚姻先にも重臣にも気を遣わなければならず、養女の方が実の娘より力があるのだが、太平の今の世では実娘であることが重要なのだ。


 これでいきなりバルド様に、一人の正室と六人の愛妾ができてしまった。

 エルザ様は表向き愛妾だが、実際には正室扱いだ。

 七日間連続で正室と愛妾を抱かねばならないバルド様は、幸せと言うべきか不幸と言うべきか、とても微妙な状況ではあるが、まだ若いのだから、子孫繁栄のために頑張ってもらうしかない。


 だがそれはバルド様だけに限らない、アンディ様はもうほどほどにしてもらいたいが、ヴィルヘル様とクリス様には、寝室で獅子奮迅の活躍をしてもらいたい。

 特にまだ男盛りのクリス様には、百人を超える子孫を残していただきたい。

 ダンジョンで莫大な富を手に入れることができれば、目を見張る成果をあげることができれば、単なる騎士から士爵や準男爵の地位に成りあがる事も不可能ではない。


 そうなれば、士爵でも五人六人の騎士を召し抱えることができる。

 徒士が十人ほどいて、卒族を八十人ほど召し抱えられるのだ。

 その全員を自分の子供にする事も不可能ではない。

 もっとも、それは領地持ちの士爵や準男爵であって、宮中勤めの士爵や準男爵ではないのだが、ヴィルヘル様とクリス様ならば、必ず領地を与えられるほどの活躍をしてくださると信じている。


「貴男、ヴィルヘル様とクリス様だけに働いていただいていては駄目なのよ。

 貴男もテオドシウス王家を支える忠臣を作らないといけないのよ。

 さあ、早く来てくださいな」

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