第20話幕間6

 バルド様は未だに自分が小心だと思っておられるが、すでに命のかかった修羅場でも冷静に対処できるだけの経験と実力を養われておられる。

 それを御指摘したい気もするが、万が一その事が影響して、命のかかった状況で実力が発揮できなくなったらと思うと、口にする事が躊躇われてしまう。

 アーダは女性を知れば一皮むけるなどと馬鹿な事を口にするが、絶対に違うとも言い切れないので黙るしかない。


 まあ、そんな下世話な事は笑い話にもできるが、不正と紙一重の献金に関しては、冗談として笑う事などできない。

 そんな重大な事を私に丸投げされても困るのだ、まだ若すぎるくらい若いバルド様にやっていただくわけにはいかない。

 それに、元々とこういう場合は、露見した時に切り捨てる事ができる家臣やらせるのが常道なのだが、バルド様は切り捨てる事など考えてなどおらず、信じて任すと言われるので困るのだ。


 何かあれば、私を切り捨てるのではなく、自分で責任をとろうとされるだろう。

 それでこそ、私が仕えるテオドシウス王家の嫡流と思えるのだが、護り立場の私とすれば、痛し痒しだ。

 バルド様にも困ったものだが、内心満足しているし、嬉しくもある。

 まあ、仕えていて、とても甲斐のある方なのは確かだ。


 だからこそ、バルド様は全く気が付いておられないが、切り捨てられる覚悟で、賄賂の見返りを期待する商人との対応をした。

 下種で反吐が出るような連中ばかりだったが、金蔓にはなる。

 バルド様に満足な衣装や装備を揃えていただくには、上手く利用するしかない。

 だが私にも女房子供がいるので、そう簡単に切り捨てられるわけにはいかない。

 だから商人に言質を取られるような事のないように、細心の注意を払う。


 まあ、切り捨てられるとはいっても、処刑されないように上手く逃げるのだが、だがそうなると、バルド様の側にいられなくなるのだ。

 当代のヴィルヘル様も次代のクリス様も優秀な方で、主君と仰ぐのに何の不満もないのだが、バルド様ほど魅力的な方とは言えない。

 だから、私とすれば、ずっとバルド様の側でお仕えしたいのだ。


「フォレスト様、バルド様と直接お会いする事はできないでしょうか。

 もしお会いさせて頂けるのなら、私としても思い切った献金ができるのですが」


 図々しい奴だが、こいつも海千山千の商人だから、金だけとられるわけにはいかないのだろう。

 今まで甘い汁を吸わせてもらっていた、功臣譜代名門貴族士族が処分されたから、新たな金蔓が欲しいのだろうな。

 ふむ、こいつは武器商人だったな。

 こいつからはエルザ様へのプレセントを献納させてやろう。

 後の始末はこいつら以上に海千山千のシュレースヴィヒ伯爵に任せればいい。

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