第15話幕間4
バルド様の活躍には目覚ましいものがあった。
実際今回の仇討は、バルク家が圧倒的に不利だと考えられていた。
単純に数だけを考えても二百対五で、戦闘力がある者を数えたら二百対二という、普通なら敵討ちとして認められないような戦力差だった。
だから多くの人が、この仇討ちはシュレースヴィヒ伯爵が仕組んだ悪事一環だと噂していたくらいだ。
まあ、その噂を流していたのは、シュレースヴィヒ伯爵を憎み嫌っている、三大宮中大公家だったが、その事は先刻こちらも承知していたので、バルド様が前評判をひっくり返した後で逆撃してやった。
三大宮中大公家が皇帝位を狙って、第二皇子を暗殺し、皇太子殿下まで狙ってる。
それを防ぎたいシュレースヴィヒ伯爵が、三大宮中大公家を解体しようとしているので、シュレースヴィヒ伯爵の悪評を流していると。
しかもその解体案はシュレースヴィヒ伯爵が決めたことではなく、仁君八代皇帝の遺命なのだと、俺が原案を決めて瓦版で流してやった。
世間とは卑しいもので、人の噂話が大好きだ。
特に権力者の不幸話やスキャンダルが大好きなのだ。
だから、俺が流した瓦版の噂は、瞬く間に皇都中に広まった。
中には三大宮中大公家を見限って、派閥を替えた者がいたのだろう。
いや、シュレースヴィヒ伯爵が引き抜いたか、最初からスパイとして送り込んでいたのかもしれない。
俺がきっかけを作ったので、三大宮中大公家の悪事が次々と露見している。
もう今まで通りの権力を維持するのは不可能だ。
流石に第二皇子を暗殺した証拠は出てこないが、噂では真実となっている。
コンラディン宮中大公家当主ルートヴィッヒ、もう皇城内に住むことはできない。
皇太子殿下を護りたい現皇帝が、証拠がなくても追放刑にするだろう。
ルートヴィッヒの公子たちも、間違いなく皇城から追放される。
問題はもう一つの宮中大公家、リウドルフィング家だ。
この家の第三公子ジャスティンは少々偏執的で、狭量な正義感を持っている。
シュレースヴィヒ伯爵の政策全てに難癖をつけている。
シュレースヴィヒ伯爵が、三大宮中大公家を解体しようとしている事を、不遜だと考えて全て悪事に結び付けているようだ。
だが、それを決めたのは、ジャスティンが普段から尊敬していると公言している八代皇帝なのだ。
それから判断しても、ジャスティンは勉強のできる馬鹿なのだろう。
もう一つの宮中大公家、ルイトポルディング家は、今の所何も問題が出てこない。
当主は現皇帝の実弟だし、後を継がすべき子供もいない。
ここまで調べたのは、全てバルド様のためだ。
バルド様をどちらの陣営に付けるか、もしくは市井に隠すか、今ここで決めなければならない。
バルド様は、仁愛の御心と勇将として武勇を兼ね備えておられる。
英雄の資質を持っておられるのだ。
ただ、まだお若い所為もあり、少々抜けたところがおありなのも確かなのだ。
狂戦士化の秘薬を未だに信じておられるのだが、狂戦士化いているのに、冷静な判断ができている事を疑問に思われないのだ。
このまま権謀術数渦巻く宮廷内の争いに送り込んでいいものか、少々心配なのだ。
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