第7話幕間1
皇都警備隊足軽、アルベルト家の先代当主アンディは忙しい。
老いて尚且つ盛んなアンディは、二日に一日は愛人宅に通う。
愛人を囲っている平民街の屋敷に寝泊まりする事も珍しくない。
というのは表の話で、裏では皇国の法を違反する悪事を行っている。
戦国の英雄アルベルト家の姓を継ぐものとして、軍資金稼ぎに余念がないのだ。
だが、だからといって、先祖の名を汚すような、民を苦しめる悪事を働くわけにはいかないので、代々の当主が知恵を絞ることになった。
その結果として、金持ち相手の闘鶏で稼ぐ方法をとっていた。
表向きは小奇麗にした料理屋を営み、中庭で軍鶏を戦わせて金を賭けさせる。
闘鶏で傷ついた軍鶏を鍋にして食べさせるので、一度で二度儲かるのだ。
だが、皇国の法では賭け事を禁止しているから、見つかっては大事になる。
だから普段は陰の家臣に任せている。
表に出ているアルベルト家は、隠居した者が集金に行くだけだ。
実際に闘鶏場兼料理屋を運営しているのは、分家した一族の者や戦国時代から仕えてくれている家臣達だ。
だからこそ、皇都警備隊足軽に過ぎないアルベルト家が、多くの家臣を養えていけるのだが、その事をまだバルドは知らない。
バルドが知っているのは、皇都警備隊には、表にだせない賄賂とお礼の判別が難しい収入があるという事だけだった。
闘鶏場兼料理屋の事は、当主になって初めて知らされる事だった。
だから、まだ父親のクリスすら知らない事だった。
闘鶏場と料理屋は、戦国から仕え続けてくれる家臣達を養うのに、アルベルト家にとって、なくてはならない資金源の一つだった。
だがこの日、アンディは顔色を失うことになる。
事もあろうに、シュレースヴィヒ伯爵がお忍びでやってきたのだ。
常連客に連れられて、やって来てしまったのだ。
アンディは決断を迫られてしまった。
安全を優先させるのなら、シュレースヴィヒ伯爵を暗殺するべきだった。
だが、バルドがシュレースヴィヒ伯爵の知己を得ている。
普通では絶対考えられない事だが、皇都警備隊足軽家の子弟に過ぎないバルドが、直接話を聞かれたという。
アルベルト家が表舞台に復活するためには、絶対に手放せない手掛かりだった。
その手掛かりを、自らの手で殺して失うわけにはいかなかった。
熟考したアンディは、二つの策を用意することにした。
露見した闘鶏場兼料理屋が摘発されることも考慮して、新たな資金源となる、別の闘鶏場を用意することにしたのだ。
闘鶏場は副しいあるから、一つくらい切り捨ててもなんとかなった。
長年の活動で、新しい闘鶏場を開くのに必要な資金は溜まっていた。
それに、シュレースヴィヒ伯爵が単なる闘鶏好き賭け事好きなら、見逃してくれる可能性もあったのだ。
だが、シュレースヴィヒ伯爵は闘鶏が好きなわけではなかった。
彼には彼のやむにやまれぬ事情があったのだ。
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