第7話

 起床。

 夢じゃない。

 昨日秋葉原で買った物を見る。

 それ以外にカセットコンロとミネラルウォーターとカップ麺も買った。

 これでしばらく異世界で収入がなくても、とりあえずしばらくは食い繋げる。

 しかし、かなりの大荷物だ。

 一度異世界の小屋に荷物を置いてくる必要がある。


 それと一つ計画がある。

 『朝は異世界でトレーニングを兼ねて狩りをする』という計画だ。

 夜、モンスターが出る環境じゃ、怖くて日が落ちたら日本に戻ってしまっている。

 異世界にいるのは、日が昇っている間だけだ。

 だとしたら学校が終わった後には長くても2~3時間しか異世界には居れない。

 トレーニングは日本でも出来るが、『スキル』や『魔術』など異世界でしか学べないものもあるし、転移者である以上『ボーナススキル』も異世界で身につけるはずだ。

 だとしたら、異世界で効率良くトレーニングするには『早朝、異世界で狩りをする』という考えに辿り着いた。

 朝、冒険者ギルドはまだ閉まっている。

 次からは朝、トレーニングを終えた後にギルドの依頼を受けよう。

 その後、日本に戻って来て学校生活を送る。

 夜は放課後、こちらでトレーニングを積む。


 予定通りにはいかないかも知れない。

 しかし、しばらくはこの予定で進めてみよう。


 大きなリュックサックに詰め込めるだけ荷物を詰め込んで異世界のゲートを潜る。


 小屋は薄暗く、持ってきた緊急時用のランタンで部屋を照らす。


 そして、狩りの格好に着替える。 


 『白銀蒼天』

 レベル:1

 ジョブ:無職(求職中)

 武器:メリケンサック

 防具:ジャージ

 兜:ヘルメット

 手:オープンフィンガーグローブ

 靴:アーミーブーツ 

 アクセサリー:スマホ


 うん、装備なしから見るとだいぶ見違えた。

 しかし、オープンフィンガーグローブを装備してメリケンサックを装備するっっていうのは面倒くさいな。

 でもしょうがないじゃん。

 『グローブなしでおもいっきり殴れるか?』

 『メリケンサックなしで素手で致命傷与えられるか?』

 武器の装備は限られる。

 今は装備出来ても将来的に『モンク』になったら、刃物は装備出来なくなる。

 だったら今から『刃物なし』に慣れておいた方が良いだろう。

 ジョブチェンジした方が、ランクアップした方が弱くなる・・・という現象だけは避けなくてはならない。


 しかしマズッたな。

 スマホは昨日の夜の内に充電しとくんだった。

 わかってる。

 異世界でスマホは最終兵器なんだ。

 大事な時に充電切れはいけない。

 それにポケットに入れといて壊れてはいけない。

 来るべき最終決選に備えて、大事に保管しておくべきだろう。

 何せ最終兵器だからな。

 この四世代遅れのスマホがこの異世界に革命を起こすのだ。


 訳:邪魔だから小屋に置いていく。


 早朝なので、あまり人はいない。

 しかしすれ違う人がこちらに熱い視線を送る。

 わかる人にはわかってしまうらしい。

 この格好はこの異世界において三億年は先に行っている最先端ファッションだ。

 決して『わ、なんやねん、この変なヤツ!』と思われている訳ではない。


 思われていたとしても関係ない。

 この格好が俺には必要なのだ。


 『シルヴァニタ』の衛兵が護っている門に行列が出来ている。

 そこに俺も並ぶ。

 恐らく順番が来たら、街の外に出られるはずだ。

 ラーメンが出てくる行列ではないはずだ。

 行列の前後の人が俺に冷たい視線を送っている。

 『なんだこの変な格好のヤツは?』と。

 耐えられない。

 変人扱いされている。

 変なのは格好だけなんだ!

 俺は極めて普通なんだ!

 話せばわかってもらえる。

 明日も行列で一緒になるかも知れない。

 自然な笑顔で話し掛けよう。

 俺「おはよう、朝早くから精が出るね。

 街を出てどこに行くつもりかな?。」

 街人(男)「ひいいいいいいい!。

 命ばかりはお助けを!。

 私は街外れにある畑を耕しに行くだけの善良な農夫でございます!。」

 どういう意味だ?。

 何で本気の命乞いしてるんだよ!。

 軽く傷つくじゃねーか、この野郎!。

 大声での命乞いを聞き、街の門に詰めている衛兵達がこちらを見ている。

 これ、この場を収めないと、俺が衛兵に牢屋に連れて行かれそうだ。

 俺「そうじゃねーんだ。

 話し掛けたのには訳があるんだよ。

 俺はこの街に出て来たばっかりの田舎者なんだよ。

 だからこの街の常識も知らない。

 俺の格好が変でアンタに恐怖を与えちまってるなら謝る。

 どういう格好が常識的か俺にはわからねーんだよ。

 話し掛けた理由だけど、畑に出る害獣退治の手伝いをさせて欲しいんだよ。

 田舎から都会に来た理由は『冒険者になって一花咲かせたい』ってモンなんだよ。

 冒険者登録も済ませた。

 でもいきなりダンジョンに潜ったり、ギルドの依頼を受ける訳にもいかない。

 その前段階の『モンスターを狩る練習』をしたいんだよ。

 だから畑の害獣退治を手伝わせて欲しいんだ。

 金ならタダで構わない。」

 農夫「そういう事なら・・・。

 だがな。」

 農夫が決断を渋っている。

 衛兵「話は聞かせてもらった。

 コイツの顔は覚えた。

 変な格好は覚えるまでもない。

 証人も俺を含めて沢山いる。

 これだけの人が見聞きしてるんだ。

 下手な事は出来ないぜ?。

 『害獣退治』手伝わせりゃ良いじゃんよ。

 中々ない美味しい話だぜ?。」


 気付くと俺は街の門の前までやって来ていた。

 やりとりしている間に行列が捌けたようだ。


 農夫「じゃあ、変な格好の兄ちゃん。

 ウチの畑の害獣退治、よろしくな!。」


 俺は衛兵に冒険者カードを見せた。


 俺「どこへ行くか一応言おうか?。」

 衛兵「コイツの畑に害獣退治に行くんだろ?。

 気を付けろよ!。」

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