第2話

 入院していた時に女神が出てくる夢をみた。

 それが現実なのか、夢の見せる幻なのかはわからない。

 女神が言うには自宅のクローゼットの中に異世界のゲートがあるらしい。

 それが夢かまことか確かめるためにも早く退院したい。

 幸いにも身体に大きな外傷はない。

 だが、仮死状態になるほど強く頭を打っている。

 意識を取り戻した後はひたすら脳の精密検査だ。

 IQテストのような事もウンザリする位やらされた。

 理学療法士「ここに丸いケーキがあります。

 このケーキを四等分して下さい。」

 俺「断る。

 何故なら、本当にここにケーキはない。

 俺と『おままごと遊び』がしたいなら、まずは配役の紹介からだろう。

 その配役が気に入れば、お前と『おままごと遊び』をしてやらないでもない。」

 理学療法士「ど、どんな配役がお気に召すんですか?。」

 俺「そうだな・・・。

 お前は新妻だ。

 だが、政略結婚で嫁いだ先の金持ち老人は糖尿病で男性としての機能がない。

 お前は毎晩、悶々とした夜を過ごしているんだ。

 そして、俺は御用聞きで裏門から現れた米屋の三男だ。

 最初は二人とも何とも思っていないんだ。

 しかし米屋が五キロの米袋を新妻に『少し重いですよ、気をつけてください』と言って渡す。

 新妻は米袋を受け取る時にヨロついてしまうんだ。

 思わず新妻を抱き止める米屋。

 二人の視線が火花を散らす!。

 そして新妻が口を開く。

 『私、お米を売ってもらうより、あなたにしてもらいたい事があるんです。

 ケーキを四等分して下さい。』

 これで行こう。」

 理学療法士「『これでいこう。』じゃありません。

 一つの検査する前の前置き三文芝居が長すぎます。」

 俺「ダメか・・・。

 君に新妻になって欲しかったんだけどな。」

 理学療法士「そんな・・・。

 て、一瞬騙されるところでした。

 私の亭主は老人で、米屋の三男坊とは、ほぼ無関係じゃないですか。

 『私とほぼ無関係になりたい』ってどうゆう性癖ですか?。」

 俺「アレだよ。

 ツンデレっすわ、ツンデレ。」

 理学療法士「ツンデレってそんなに都合の良い言葉じゃないでしょ!。

 頭に異常もないみたいだし、すぐ退院できますよ!。

 よかったですね!。」

 俺「何でそんなにヤケクソなんだよ。」


 俺はほどなく理学療法士の言う通り、退院した。

 入院期間は一週間ほどだった。

 入院中、俺をひいたトラックの会社の人が見舞いとお詫びに来た。

 何でも、俺をひいたトラックの運転手はまだ意識を取り戻していないらしく、お詫びには来れないとの事だ。

 「意識はまだ戻っていないが、一番危ない峠は越えた」との事。

 父親は病院にはいない。

 俺が『トラックにひかれて意識不明だ』と聞かされて、事故の翌々日に単身赴任先のカンボジアから病院に見舞いに来たらしい・・・が『命の危険は去った』と医者から言われカンボジアへ帰っていったらしい。

 父親がカンボジアへ再び旅立つと同時に俺は意識を取り戻した。

 母親は俺がまだ赤ん坊の頃、事故死したらしい。

 つまり俺は独り暮らしなのだ。


 昼飯を病院の売店であるコンビニで買って帰る。

 カップ麺だが、病院の食事よりは塩が効いている分マシだ。


 一週間ぶりの我が家だ。

 大きな家ではないが、俺一人で住むには広すぎる。

 俺の部屋は二階の南向きの部屋だ。

 もう二部屋あって、一つは父さんが書斎にしている部屋。

 一つは母さんが生きていた時に父さんと母さんが居住スペースにしていた部屋がある。

 その部屋には俺も小さい頃入り浸っていたようだが、母さんがいなくなってからは父さんも俺も寄り付かなくなった。

 一階にはリビング、仏間、キッチン、父さんの部屋がある。

 退院してすぐに自炊したくなかったのでカップ麺を買ったが、普段は料理もする。

 自堕落な暮らしはしておらず、家はゴミ屋敷になっていない。

 それどころか、父さんが見舞いのために一日だけ家に帰って来たらしいが、父さんがゴミを捨てずにそのままにしているのを見て、軽く舌打ちした。


 それよりも今は一刻も早く、女神が言った事が夢なのか、それとも現実なのか確かめたい。

 俺は二階に駆け上がり自分の部屋に入った。

 ほとんど変化はない。

 変化と言えばタンスがきちんと閉まっていない。

 おそらく父さんが俺の着替えを取りに僕の部屋へ入ったのだ。

 こういう父さんの中途半端なガサツさが嫌で「洗濯は俺がやるから父さんは洗濯物を出してくれるだけで良い」と言ったんだ。


 部屋の南一面は窓ガラスになっており、ベランダへの出口もついている。

 部屋は長方形で、南と北の辺は長いが、東と西の辺は短い。

 西側の壁には部屋の出入口がついている。

 あと、西側の壁には収納がついている。

 北側の壁には何もない。

 ないからこそ勉強机、ベッド、洋服タンス・・・などが壁際に置かれている。

 そして女神と名乗った女が、「異世界のゲートがある」と言っていたクローゼットは東側の壁にある。


 俺はドキドキしながらクローゼットの扉を開けた。

 クローゼットには秋物の上着がかかっていた。

 『夢だったのか・・・』

 俺は少し残念なような、少し安心したような複雑な心境だった。

 「待てよ」

 このぎゅうぎゅう詰めのクローゼットのどこにゲートが現れるというのか?。

 俺は上着を半分、タンスの中に片付けた。

 やはりゲートは現れない。

 そういえば女神は『ゲートの呼び出しかた』について何か言ってなかったか?。

 「確か、クローゼットを開けて『オープン・ザ・ゲート』って言いながら服を脱いで女神の裸を思い浮かべるんだっけ?」


 ?「そんな事は一言も言ってません!。」

 俺「やっぱり覗いてやがったな?。

 この犯罪者め。」

 ?「覗いていた訳じゃありません!。」

 俺「覗いてなくても、不法侵入って罪は現行犯でつくんだよ。

 とりあえず俺はアンタの事は『犯罪者』って呼ぶわ。」

 犯罪者「今から貴方が行く異世界で私は女神として崇められてるの!。

 人聞き悪いから『犯罪者』は止めて!。」

 俺「じゃあ『変質者』。」

 変質者「私には『リズ』という名前がありますのでそう呼んで下さい!。」

 俺「早速だが、リズに質問したい事があるんだよ。

 やっぱり異世界で『キリシタン』みたいにリズの信者は『リズビアン』って呼ばれてるの?。」

 リズ「下らない事を疑問に思わないで下さい!。

 他に疑問に思うべき事があるでしょう?。」

 俺「いや、さっきまでは『異世界にいけるのか?』って疑問だったけど、リズが現れたのに『異世界には行けない』なんて話はないだろう?。」

 リズ「そりゃそうかもしれませんね。

 決まったかけ声はありません。

 むしろ、かけ声なんてなくても心の中で『ゲートよ開け』と念じれば、ゲートは開きます。」

 俺「かけ声は何でも良いんだね?。

 わかった。

 『リズの股のようにガバガバでユルユルな物よ、ガバッと開け!。』

 あ、本当だ。開いた!。」

 リズ「おい、コラ、訴えるぞ!。」


 ゲートの向こうでリズがギャーギャー騒いでいたが、無視して俺は異世界へのゲートを潜った。

 

  

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