第15話

「ねえ兄さん」

横になってテレビを見ていた千春に、突然声をかけられた。

そういえば最近、テレビ見なくなったな……。

テレビを見る以上に楽しい暇つぶしを見つけたからだろう。そんなことを考えながら、俺は返事をした。

 「どうした千春」

「何だか最近の彩先輩、お疲れじゃない? 今日だってソファに座ったままスヤスヤ寝てたし……。兄さん、彩先輩に無理させてないでしょうね?」

鋭い目つきで千春は俺の方を睨む。どうやらこいつも彩の異変には気づいていたようだ。

「一応、無理してないかは割と頻繁に聞いてるんだけど、いつも上嶋さんは大丈夫って言うんだよな……。でも確かに、最近はちょっとお疲れ気味だろうな……」

コメント欄のリクエストに答えて、最近上嶋さんはJ―POPやアニソンも演奏するようになった。それらは上嶋さんオリジナルのアレンジが加えられ、原曲の面影を残しながらも、別作品へと昇華させられている。視聴者からの評判はかなり良くて、最近ではリクエストが後をたたない。

「たまには気分転換させてあげなよ」

 千春の言うとおりだ。珍しく俺は、そう思った。

上嶋さんは、いつもリクエストされた曲を一日で完成させて演奏する。いくらバイオリンが上手な上嶋さんとはいえ、初めて弾く曲なのだから、それ相応の練習は必要だろう。むしろ一日で完璧に仕上げてくることが信じられない。きっとかなり無理をしているのだと思う。

 「そうだよな……。でも、ただ休みなよって言っても上嶋さんは言うこと聞かないんだよ。どうしたもんか」

 「彩先輩が喜びそうなことをすれば良いんだよ」

 「喜びそうなことねぇ……。上嶋さんと言えば、やっぱりプリンだよなぁ……」

 「じゃあ私が古今東西ありとあらゆるプリンを用意して彩先輩をお出迎えしようか?」

 「そんなに用意しても食いきれないだろ……。あっ……」

 いいアイデアを思いついた。

 「どうしたの兄さん? ニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべて……」

 「気色悪いとか言うなって……」

 全く……千春は相変わらず口が悪い。

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