第7話 実践②

「2射目がうまく首に刺さればよかったのですが」


アルクさんがそういうと


「いや、一射目できちんと足を撃ったから、バケネズミの動きが遅くなっていた」


と師匠が言う。どうやら、一射目は足を狙うのがセオリーのようだ。


「そう言ってもらえると助かります」


 バケネズミは思ったよりあっさりと倒されてしまった。連携の妙だとは思うけれど、自分でバケネズミを倒そうと思うと難しい。そもそも対峙するような時には、よほど力の差がないと無傷ではいかないだろう。


 皆無傷で狩りが終わって、少し安堵し、解体の準備に入ろうと思っていた時だった。


「ごぶっ ごぶっ ゴブ」


 どうやら血の匂いにさそわれて、辺りを警戒しながら、ゴブリンがやってきたようだ。

 ゴブリンは1mに満たない大きさの小人型の魔物だ。ナイフや小弓を持っており、小集団で行動しているのが厄介な点だ。


「ゴブリンか。丁度いい。棍棒を持った手前のゴブリンはリュウセイが倒してみろ。残る4匹は、俺とアルクで処理する。危なくなったら、サポートしてやるから気楽に挑め」


「はい、師匠」


 まさか実践があるとは、思っていなかったが、せっかくの経験チャンス。ものにしてやる。


 初めて遭遇した、ゴブリンをよく見ると、体は小さいが、顔が傷だらけで皺もあり、貫禄のある残忍な顔をしている。手には、野球バット程の大きさのこん棒を掲げ、低い声で唸りながらこっちに向かってくる。

 なんとか、先頭を走ってきた1匹のゴブリンを相手取れたが槍に怯むことなく、ゴブリンは突っ込んできた。


シュッ!


リーチを生かして槍で突いて先制するも、緊張からか足回りはぎこちなく、すばしっこい、ゴブリンに簡単に避けられてしまう。


「くっ、それなりに鍛えたんだけどなっ!?」


と思いながら、再度チャーを繰り出すも、足場がぬかるんでおり、うまく、踏み込めていなかった。そんな、攻撃はゴブリンは苦ともせずに避けながら、前進し、タックルをしてきた。


「グラァ――」


「うわっ!!。いってぇ・・・」


 棍棒は食らわなかったものの、カウンターのようにタックルを食らってしまい、よろめきながらも間合いをとった。ゴブリンはにやつきながら、棍棒を手でたたいている。



「ゴブリンは単体では一番弱いぞ。教えた技をきちんと思い出せ。リュウセイ」


 どうやら師匠たちは、すぐに4匹を制圧したようで、僕の戦闘をみものにしている。鍛錬を思い出せと言われても、いきなりの実践ではなかなか勇気が出ず、力が入らない。そもそも生き物を殺すのはなかなか勇気がいるものだ。だが、師匠も見守ってくれており、いつもの安心感からか、槍を握りなおすと、持つ手に力が入る。


「チャーーッ」


 と、叫ぶとともに、踏み込み渾身の突きを繰り出す。穂先が肉薄するが、ゴブリンにまたもや横によけられてしまった。どうやら僕の突きしかしない単調な戦い方に、ゴブリンが慣れきてしまったようだ。だが、ゴブリンの方も容易には、槍の間合いに踏み込めず、にらみ合いが続いている。


シュッ


 斜め後ろから加勢の矢が飛んできて、右腕に弓が刺さり、ゴブリンの手から棍棒が落ちた。


 チャンスと思い、突きを繰り出すも、焦って狙いが外れ空を撃つ、ゴブリンが倒れこんだこともあり、カラぶってしまった。


「こうなったらっ!!」


 すかさず槍を手放し、すぐ近くへ転がっていた相手のこん棒で殴りとどめを刺す。

何度か打ち込むとゴブリンは動かなくなったようだ。


「ふぅー、良かった。なんとか倒せた」


 バケネズミを解体しているときに、さっきのゴブリンとの戦いは槍術士としては、失格と師匠にいわれたが、やはり、人型の魔物を刺し殺すというのは厳しい。



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