第6話 実践

「ある程度、ラン、ナー、チャーがさまになってきたな。」

 

「ありがとうございます。師匠」

 

 血のにじむような、訓練の成果が少し結実してきている。自分でも最初に比べて、動きが洗練してきたと思っていたが、やはり師匠に褒められるとうれしい。


「今度、バケネズミ狩りがある。その時は、狩人と連携しながら狩りを行うので、リュウセイもついてこい」


「はい。師匠」


 バケネズミ・・・


 ついに、バケネズミとの因縁の対決にけりがつけられる。

 転生初日に追いかけられて、死にそうになったのは今でも僕にとって忘れられないトラウマになっていた。


「バケネズミ」


 槍を握る力も自然と強くなる。

 



 ―決戦当日 (狩りの日)




「おはようございます。師匠」


「よう。リュウセイ早かったな。こっちは狩人のアルクだ」

 

 早くて当然である。あのバケネズミと戦えると思い寝ても寝付けなかったのだ。


「アルクさん。今日はよろしくお願いします」


「君は、ハミングバードをテイムしているんだって?」


「はい。森で助けたら懐かれました。今日は狩りなので家に置いてきました」


「ハミングバードは敵を察知できるから、共通のサインを決めて訓練するといい。頭がいいからサインの訓練をすればとても役に立つよ」


 そういえば、村長も悪意のある人には近寄らないって言っていたな。後で狩人さんに訓練方法を教わろう。


「挨拶も済んだことだし、バケネズミを探しに行くか」


 今回バケネズミを狩る理由は定期的な狩りだ。あの時はとても勝てそうにないと思っていたバケネズミだが、この村の貴重なタンパク源だ。歯は畑の鍬にも使われており、魔物は余すことなく利用されている。

 やはりバケネズミは森に巣を作るらしく、森の周辺に迷い出た個体を狩るのが基本であると教えてくれた。狩人は罠を森に仕掛けることもあるらしいが、今回は僕が同行することもあり、森と草原との境界付近で狩りが行われることになった。


 もちろん僕は同行するだけで、狩りを行うのは、師匠とアルクさんである。戦えると少し期待してがっくりと来てしまったのは秘密である。


 アルクさんは、すでに狩場を決めているらしく、道に迷うこともなく、草原を進んでいく。何ヶ所か、狩場を見回ったが獲物はおらず、5個目の水場のある狩場でようやく見つけることができた。


「いました。シュペーアさん。どうやら1匹だけ迷い出たらしい」


 狩人のさした方向を見てみると、水場で休んでいる、小さめのバケネズミが遠くの方にいた。バケネズミは、コロニーを地中に作って暮らしているが、若いオスはコロニーから出て暮らしていることがあるらしく、森から出てくるのだそうだ。


「1匹だけだとたいしたことないから、いつも通り2矢放つので、シュペーアさんがとどめをお願いします」


「わかった。リュウセイはアルクと一緒にいてくれ」


「はい」


 師匠は慣れたように身を低くして、風下からじりじりとバケネズミの方へ近づいて行った。そして、潜むのによさそうな斜め前方の草むらに姿を隠すと、狩人に合図を送った。


「よし、やるか」


 そう小さな声で気合を入れると狩人は弓を絞り、バケネズミめがけて矢を放った。矢は、まっすぐ、バケネズミの方へ向かって飛んでいき、前足へ刺さった。


「ギュゥッ」 

 

 バケネズミは前足を怪我し、低い声をあげた。矢が飛んできたであろうこちらを伺っている。


 狩人の2射目は素早かった。矢筒から流れるように矢を取り出し、放つ。だが、狩人が2射目を放った物音でバケネズミがこちらへ気づき、態勢を整え向かって来た。


「ちっ、外したか」


その時、


ダー、ダッッダ、スパッ


 草むらから勢いよく師匠が飛び出し、槍で薙ぎ払い、バケネズミの前足を切り落とした。


「ギューーーーッ!!」


 叫び声とともに、バケネズミは倒れこんだ。そこへ、すかさず師匠はバケネズミに向かって、踏み込むと、力強い突きを首元へ入れていた。





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