第3話 水辺の村

 草原を歩き、村に近づいてみると、やはり文明的な施設はなく、まるでパプアニューギニアの田舎村のようであった。村の近くには清らかな小川がとおっており、川の方にも人影が見える。村の周辺には点々とだが、耕された畑もあるようだ。



「おいっ、あんた」


 木の柵の近くで、きょろきょろ村を見回していたら、急に呼び止められ、声のした方を振り返ると、背が高く、肌の浅黒いおばさんが僕に話しかけてきていた。


「僕ですか」


「あんた以外誰がいるってんだい。何しにこの村にきたの」

 

 女性の麻のような服が、古風ではあるが、涼しげで、清潔そうな格好をしていた。肌の色を見ても、日焼けしただけでの黒さではないことがわかり、どう見ても日本人ではない。しかし、日本語で話しかけてきている。不思議である。そんなことを思いながら、答える。


「道に迷ってしまって、ここにたどり着きました。ここがどこだかもあまりよくわかってないのです」


「そぅ、とりあえず、私じゃ判断つかないから、村長のところに連れてくからついてき」

 

 女性は話が通じる相手だとわかり、少し安心したようである。


「はい」

 

 そういって、大きな女性の後をついていくと、周りの家より少し大きな、土壁とわら葺きで作られた家の前についた。


「村長。怪しい男がいたから連れてきたで~」


 女性が大きな声で家に向かって叫ぶと、老年の男性が家から出てきた。その老人は女性と軽く話し、女性は去っていった。


「村長のグルドだ。名前はなんていうのかね」


 あえて、名字を名乗ることもないと思い、名前だけ答える。


隆盛リュウセイといいます。森で道に迷ってこの村に来ました」


「リュウセイか。あんたの格好はとても変だが、どこから来たのかね」


「日本という国なのですが、ご存じですか」


 老人は顎に手を添えて、顔を少し傾けいくばくの時間記憶を探っていた。


「ふむっ。しらんなぁ。聞いたこともない。まぁ、わしも国などそれほど知らんがのぉ」


「そうですか」


「それで要件はなんじゃね」


「正直言うと、僕をここに泊めていただきたいのです。対価と言っては何ですが、何も持っていないので、村の仕事を手伝わせてください」


 頭を下げて誠意をもって僕は伝えた。


「急にそう言われてもなぁ、その感じだと、追い出したとて、村の外で野垂れ死にされても困る。どうしたものか」


 村長が考えこんでいると、ハチドリが胸ポケットから顔を出した。


「ピッ、ピッ」


 村長は、胸ポケットのハチドリを見つめ、言った。


「それは、ハミングバードじゃないか。お前さんのかね。」


「森でなついてくれたのです。怪我をしているみたいだったので、連れてきました。」


「そうか。ハミングバードはめったなことでは、人になつかない魔物だ。そもそもなかなか出会わない魔物でもある。警戒心が強く、悪い奴には寄り付かないんじゃ。そいつをテイムしているならお前さんも大丈夫じゃろう。」


 魔物!!魔物がいるのか。


「魔物!!。そういえば、森ででかいネズミみたいな魔物にもあったのですが」


「バケネズミに遭遇したのか。無傷でにげおおせたなら運がよかったの」


 やはり、魔物が存在するらしい。思い返してみると大変な一日だった。


「今日はそろそろ日が暮れるから家に泊まりなさい。明日は村の仕事を手伝ってもらうからそのつもりでな。」



「はい。お言葉に甘えさせてもらいます」


 そう言って、再度お辞儀をすると、村長に家へ迎え入れられた。

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