第2話 ウォンバット

 けもの道を見つけ、歩いていると前方にネズミの一種であるウォンバットのような生き物を見つけた。


「でかい」


 最初の感想はそれだった。確かにあれは、ウォンバットなのだが、大きさがゆうに1mを超え、僕に近い大きさだ。口から数十センチ程前歯が出ており、あんなものでかまれたらひとたまりもないだろう。

 

「クンッ、クンックンッ」


 奴は、鼻をすするように動かし、辺りを探っていると思ったら、急にこちらに気づき、前歯をカチ鳴らして襲ってきた!!


 ダッダッ、ダッダッ、ガチン!!!??


 大きな口を開けて飛び込んできた。急な展開であたふたした僕は、かろうじて突進を避けられたものの、勝てる見込みもないため、その場から逃げだした。

 

 ただひたすらに走った。

 限界が来ても決して足を止めなかった。怖くて後ろも一度も振り返らなかった。


「ぜえ、はぁ、はぁっ、はぁっ、はぁ」


 まだ走る。


「ぜえ、はぁ、はぁっ、はぁっ、はぁ」


 ここまで来れば、奴も追ってきまいと思い、ようやく足を止める。


 疲れた。


 もうここでいったん休憩をしよう。

 近くに苔むした倒木があったので、そこに座って水を飲んでフーっと一息つく。


「そうだ、ハチドリは大丈夫かな」


 そう思い胸ポケットを見てみる。


「ピッ ピピッ」


 走っていたので、無事かどうか心配になりハチドリを見てみたが、問題なさそうだ。焦って転ばなくて良かった。


「あー、剣道でもやっていれば、あんなやつ・・・クチャ クチャ」


 鞄から出した干し肉をかじりながら僕はウォンバットとの遭遇について考えていた。まず、あんなでかさの生き物に勝てるはずないと思いながらも今まであまり武術を習ってこなかったことに後悔した。だが、中・高校時代はテニスをやっていてよかった。ここまで無心で走れたのも、うるさかったコーチに言われた、基礎練の走り込みをきちんとやっていたからだろう。正直ウォンバットには殺されるかと思った。


 だけど、あんなでかいウォンバットに遭遇したことから考えて、ここは日本ではないらしい。そもそも地球か怪しいぐらいの大きさだった。まさかのまさかではあるが僕は転生したのかもしれない。馬鹿げている考えではあるが、そのくらい突拍子もないことがおきない限り、こんな場所でこんなことになっていないだろう。


「アンラッキー・・・」


 そもそも、あんな攻撃的な動物がいるのであれば、自分も武装しておかないと危険だな。木の棒を槍として持っておこうと思い、あたりを探してみると丁度よさそうな2m程度の木の枝があった。小学生じゃあるまいしとも思いながら、木の枝をもって振ってみる。


 ブンッ ブンッ


 まぁ、こんなものか。

 とりあえず小枝を落とし、これを護身用に持っていこう。距離がとれるだけでも多少違うはずだ。

 夜が来る前に安全な場所が見つかるといいのだが、と思いながら、太陽に向かって歩き始めた。


 しばらく歩いていると、周りに大木が減り、低木が混じるようになってきた。そろそろ森の端まで来たのかな。そんなことを思い、1時間ほど歩いているとようやく森が終わったようだ。


「わぁっ」


 目の前には草原が広がっていた。風でなびく草と鼻に香る草の青臭さを感じて安心感を抱いた。

 何かないかと草原を見渡してみると、遠くに小さく木柵が見えた。


 助かった。どうやら近くに村があるらしい。とにかくそこへ行ってみよう。

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