キスなんて、いいから
沖縄のホテル。明菜がスマホをしまったあと、今度は松田がスマホを取り出した。そして、あきなに相談することなく太郎を呼び出すことにした。太郎は松田からの連絡に、直ぐに対応した。明菜が学校を休んだ理由が聞きたかった。
「どうしたんですか、松田さん」
「太郎くん、よかった。今直ぐにこっち来てくれ!」
「こっちって、どこですか? 明菜も一緒なんですか」
「あれ? 太郎くん、なにも聞いてないの! 明菜さん、今は沖縄でロケ」
松田は太郎を明菜の身内として接することにしている。だから太郎に対しては明菜さんと言った。太郎は呑気なもので、千葉や伊豆などの近場でなくいきなり沖縄だったから、単純にすごいと思った。
「おっ、沖縄にいるんですか?」
その声は桜子や岡田にも届いた。特に桜子は、太郎にクレームを言う。
「ちょっと太郎、静かにしてちょうだい!」
太郎は構わずに松田との通話を続けた。
「そうなんだ。だけど、ちょっと不調でね」
「不調って? 身体の具合が悪いんですか」
「いいや。身体というよりは、心かな」
「心って……。」
太郎には明菜の置かれている状況が理解できない。まさか撮影恐怖症にかかっているなんて想像できない。普段の明菜がせれだけ自信に満ち溢れてる証拠だ。松田は太郎に多くを語らない。来てくれさえすれば、何とかなると思っていた。
「兎に角、そういうことだから。よろしく」
「分かりました。明菜とはなしは出来ますか?」
「それは出来ない。今はちょっとね」
「じゃあ、せめて俺からのメッセージを!」
「それも出来ない。でも、絶対に来てくれよ」
「それはもちろんです」
松田はそれを聞いて安心、スマホを切った。今日やるべきことは全てやり尽くした。あとは、明菜の回復を少しでも早めることに専念しようと思った。
逃げまわっていた岡田だったが、太郎がスマホを切ると、沖縄のはなしを口実にして、太郎に取り入ろうとした。元を辿れば、岡田は太郎ともめていたのに、今では太郎が岡田の数少ない援軍だった。
「佐倉太郎。沖縄へ行くのか?」
「はい。兎に角、行ってみます!」
岡田は頷きながら言った。
「よしっ、俺も行く。もうチケットは取ってあるんだぜ!」
「じゃあ、私も行くわ。沖縄旅行!」
割って入ってきたのは、桜子。岡田は嫌そうな顔をして言った。
「チケットは1人分しかないんだ。お前らは自腹だぞ」
「だったら太郎、これで全部手配してちょうだい」
桜子はそう言いながら、けっこうな額を太郎に渡した。太郎の腕にずしりと思い。それでも太郎が肩を竦めながら言うのに対して、桜子はにっこり笑って自信たっぷりに応えた。
「なんで俺がそんなことしなきゃならんのだ?」
「チケットを手配してくれたら、キスしてあげるよ」
太郎の脳裏に、原宿での桜子とのキスのときの感触が蘇る。失神するほどの気持ちよさ。それをもう1度味わえるなんて、夢のようだ。だが、太郎はあのときとは違う。世を忍びながらとはいえ、明菜と付き合っている。
「キスなんて、いいから。俺がチケット取るよ!」
それが、このときの太郎が出した結論だった。
超絶美少女幼馴染が俺を必要とするのには理由がある 世界三大〇〇 @yuutakunn0031
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