かなりワルカルテット
明菜が休んだ。これだけで学校中が大騒ぎとなった。多くの憶測を呼んだ。太郎のもとにたくさんの訪問者が現れた。それでようやく、太郎はことの大きさを知った。明菜は学校中の人気者なのだ。
「太郎! ふざけんなよ」
「何のことだよ!」
「あっきーな様を悲しませやがったな!」
「どうしてそうなるんだ? 学校を休んだだけじゃないか」
「あっきーな様はお前がフッたのが原因で、傷心されてるんだろ!」
「冗談! どうして俺がフラなきゃならんのだ」
付き合っていれば付き合っているで、嫌がらせをしてくる者はいた。それが限定的だったのは、明菜の彼氏様だから。嫌がらせするにも明菜の手前あからさまには行動できなかった。
明菜と太郎が別れたという報が出まわったとたん、バランスが崩れた。それまで大人しくしていた明菜の隠れファンまでもが一斉蜂起。太郎に鬱陶しいほどにまとわりつく。
アイドルとしてデビューすることを決めた明菜。太郎は明菜と約束していた。別れたことは、明菜自身が説明すること。それまでは太郎は何も言わないこと。だから太郎には、なす術がなかった。
世を騙して付き合いを続ける道を選んだ2人。これは、太郎にとっての大きな試練のはじまりだった。
(さすがに太郎がかわいそうだな)
桜子は、幼馴染として太郎に加勢するタイミングをはかっていた。
放課後。太郎は手紙を受け取った。体育館裏に来るようにとのことだった。呼び出したのは、かなりワルカルテット。ちょいワルトリオがかわいく思えるほどの学校いちのワル集団だ。太郎は素直に体育館裏に行った。
これまで、色恋沙汰にかなりワルカルテットが干渉したことはない。太郎が呼び出されたのは異例のことだ。急に黙りこむ明菜のファン。強面の太郎とかなりワルカルテットの対決に、見て見ぬ振りを決め込む。太郎は孤独だった。
かなりワルカルテットのリーダー、岡田望が言った。
「お前が、佐倉太郎か? ふざけた面だな」
「ふざけた面だって? そう言ってもらえて光栄ですよ」
「何だと? ふざけた態度だな!」
「それは違います。ふざけてなんかいません! 俺は至極真面目です」
体育館の壁がドンッと音を立てた。岡田が左の拳で叩いたのだ。利腕ではないにもかかわらず、壁にくぼみを作った。だが、太郎は怯まず涼しい顔をしていた。今更慌てても仕方ないという心境だった。
「まぁ、いいだろう。貴様、今はフリーなんだな?」
「何も言えません。先輩にそんなこと言う義理もないですし」
「なるほど……これでもそう言ってられるか?」
岡田はそう言いながら、1枚の写真を見せた。今年の4月の日付がある。写っているのは、かわいい女の子。だが、太郎は見たことのない女の子だった。制服姿から、この学校の1年生のものだということは分かる。
「かわいい子っすね。この写真が、何か?」
「俺の妹だ」
岡田は呼び出した理由を説明した。それは、太郎への依頼。岡田の妹の彼氏になってほしいというもの。
「妹は、ある事情で彼がいないんだ」
「そう言われても……。」
煮え切らない太郎。明菜とはまだ付き合っているのだから、歯切れが悪いのは仕方がない。岡田は驚くべき行動に出た。土下座だ。
「佐倉太郎、一生のお願いだ。頼む! この通り」
「せっ、先輩……。」
「俺の妹、かわいいだろう! 三枝ひえんという名のアイドルをしてるんだぜ」
「はぁ?」
大きい声を出して驚いたのは、桜子だった。桜子はこっそり盗み聞きしていた。といっても、身を隠していたわけではない。ずっと太郎のそばにいた。誰も気付かなかっただけである。
「誰だ!」
「さっ、桜子! どうしてこんなところに?」
「盗み聞きしていたに決まってるわ」
桜子は、太郎以上に太々しかった。
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