桜子のお気に入り
「ロウ、分からないの? 明菜の情熱がっ」
桜子がどや顔を決めて言った。太郎はスカウトを無視する明菜の姿しか思い当たらない。
「情熱って? 明菜は今まで何度も断ってきたじゃないか」
「仕方がない。これを読めば、ロウも納得できるでしょう」
桜子は言いながら、太郎に手紙を差し出した。明菜が太郎宛に認めた手紙。封筒に入ってはいるが、こじ開けられている。
「こっ、この悪魔め。人の手紙を読むだなんて!」
「読んでないわ。開封しただけよ。ロウが読み易いように」
太郎はきっと桜子を睨みつけた。そして、差し出された手紙をひったくるようにして受け取った。読んでみると、桜子の言うことが本当だと気付いた。手紙に認められていたのは明菜の本音、偽りのない願望と情熱だった。
「あっ、明菜はアイドルになりたかったんだ……。」
「当然。私同様、承諾書を持ち歩くくらいだもの」
「って、クラコもそんなもの持ってるのか?」
「美少女のたしなみよ」
言い切られてしまっては、ぐうの音も出ない太郎だった。桜子は、たしかに美少女なのだ。内面は兎に角、容姿だけなら明菜と互角かそれ以上。そのことは、太郎ならずとも学校中の生徒が評価している。
ただし、桜子には大きな欠点がある。胸が貧しいこと。根が暗いこと。それに比例するように強烈な毒舌家であること。明菜の横にいると、その欠点は際立つ。超絶美少女でありながら、今まで1度もスカウトされたことがない。
その欠点をすっかり忘れて、桜子が言った。
「これで分かったでしょう。さぁ、ロウ。大人しくキスしなさい!」
太郎には、少しだけ時間が必要だった。
「あぁっ。分かったよ! って、ならないからなぁっ!」
太郎はかなり無理してノリツッコミを決めた。桜子の反応は子供っぽい。
「何でーっ。どうしてよっ! 私は明菜にロウのこと頼まれてんのよ」
「そんなの、そっちの都合じゃん。俺はまだ、明菜のこと……。」
猛烈に駄々をこねる桜子。幼馴染としての付き合いの長い太郎には、分かりやすい取り乱し方だった。それで太郎はピンときた。絶対裏がある。
「いーじゃんっ、いーじゃんっ! キスくらい、いーじゃんっ!」
桜子は、1度取り乱すと、周りを見ずにベラベラと喋り出す癖がある。だから太郎がしばらく桜子のことを放っておいても問題ない。その隙をついて、太郎はスマホを取り出し、調べはじめた。
太郎がはじめに見たのはweb小説のトップページ。ユーザー検索から桜子のページに飛んだ。見れば30分ほど前に桜子がフォローした小説があった。
「『超絶人気アイドルが俺を必要とするのには理由がある』ラブコメか」
取り乱している間、桜子には周りが見えていない。それをいいことに太郎は桜子がフォローしたばかりの作品を読むことにした。
わーわーわめき散らす美少女は目に付く。それを完全に無視してスマホで小説を読みふける連れはもっと目に付く。それでも太郎は読まずにはいられない。
数分かけて序盤を斜め読みして、桜子が何故キスをせがんだのかを理解した。
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『超絶人気アイドルが俺を必要とするのには理由がある』
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