3人おそろ
2人はウィンドーショッピングも忘れない。高級そうな店の先に飾られたはなやかな着る人を選びそうなワンピース。7万円の逸品だ。
「すごーい。でも、明菜なら着こなせそうだよ」
「うん。桜子だって、いい線だと思うよ」
明菜は密かに賭けをした。桜子が予想通りの返しをしてくれば、思い切ってプレゼントの予算を増額しようと。
「わわっ、私はオシャレとかよく分かんないしっ」
「ふふふっ。私、もう少し高価なものでもOKにしよう。うんっ」
明菜は言いながら拳を握りしめる。幼馴染はまだ恋に興味がないらしい。今のうちに手が出せないほどの差をつけておこう。そう思った。いかに天使といえども、恋の駆け引きはするものなのだ。
桜子は悪気なく返した。
「2000円あればロウには充分じゃない。私だって過去最高3000円だよ」
明菜は心臓をえぐられる思いだった。『私だって』というのが気になった。それでは彼女より、ただの幼馴染の方が格上のようだ。
それが、明菜が自覚したはじめての嫉妬だった。明菜には、まだそれを上手に隠すだけの余裕があった。桜子は明菜の気持ちに全く気付いていない。
竹下通りの中腹にある雑貨店。ちょっとかわいい品を豊富に揃えている。2人はあれこれ見まわるうちに、ストラップ売り場にたどり着いた。動物もの、花柄もの、食品もの、電化製品や台所用品ものまで、あらゆるものがストラップになっている。簡素な数百円のものから手の込んだ数千円のものまで幅広い。
桜子は食品ものの1つを手に取り、明菜に見せた。
「これなんてどう? ロウは昔からナポリタン派だから」
「かわいい。自分用にカルボナーラのも買おうかな。ペアルックになるよね」
明菜は上機嫌に言った。このころにはすっかり嫉妬心を忘れていた。それより今はペアルック。赤を基調としたナポリタンと、クリーム色のカルボナーラ。2人で持つのに色合いも申し分ない。
「なるほど、サイコーだねっ! んでもって、こっちなんかもどう?」
桜子は言いながら2種類の楽器のストラップを明菜に渡した。明菜は幼稚園の頃からピアノを習っていて、かなりの腕前。ピアノが自分のものだと直ぐに分かった。だが、もう1つの楽器が太郎と結びつかなかった。
「ギター? どうしてロウくんのがギターなの?」
「あぁーっ。ロウったら、先月ギターを買ったじゃない」
桜子は何気なく言った。だが明菜はそのことを知らなかった。それもそのはず。太郎は7月の明菜の誕生日にギターを披露しようと、密かに練習している。サプライズで贈りたいからだ。
太郎が迂闊だったのは、桜子にも内緒にしたこと。桜子がうっかり口を滑らせないとは言い切れない。それでも桜子が知り得たのは親同士のつながりによる。
明菜の乙女心は、再び嫉妬として顔を出した。過去の太郎のことを知らずとも、現在の太郎のことは誰よりも知っていたい。それが明菜のプライドだった。
桜子には悪気がない。だから小学生のころ太郎と和太鼓を演奏したのを思い出しただけで、明菜の気持ちを逆なでた。
「私はドラムセットのにしよっかな!」
「だめ!」
明菜のかわいいおこ顔。フグのように膨れている。桜子はまた顔を赤くしながら、小学生のときに太郎と三角ベースをしたのを思い出した。太郎や今の明菜のような丸顔をアンパイヤマン、桜子のような逆三角顔をベースマンと呼んだ。
「じゃ、じゃあ。ベースにするよ」
「だめ! もっとだめ!」
明菜は、ピアノよりもベースの方がギターとの相性がいいと思いとっさにそう叫んだ。桜子は、明菜にとってわけの分からないことを言った。
「そうだよね。明菜はアンパイヤマンだもんね。昔よくロウと……。」
「……もう! 聞きたくなるじゃないの!」
明菜は嫉妬心を忘れ、桜子から太郎の過去を聞き出した。そのあと明菜は意を決した。それには桜子が驚いた。
「えっ! もっとだめなやつじゃん」
「ううん。ペアもいいけど、3人おそろもいいでしょ、ベースマンさん」
明菜が選んだのは、ピアノとギターとベースという3種類のストラップ。運命のストラップだった。
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そこまではなして、桜子は鞄の中から包装されたプレゼントを取り出した。その鞄には太郎が見慣れない装飾品が付いていた。ベースのストラップだ。
太郎は、ごくりと唾を飲み込んだ。桜子の言うことがつくりばなしではないと、覚悟した。
「これが、プレゼントよ。別れ際に、明菜から預かったの」
「そっ、そう。で、どうして別れなきゃなんないんだ?」
「それはね……。」
このあと、桜子のはなしが急展開する。
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