明菜と桜子

 桜子のはなしは軽妙で面白い。キンカンを演出するフリとオチ。映像を意識した描写。カク2・ヨム8の比率ながらweb小説で腕を磨いているのが奏功している。だが、このときの桜子のはなしは、太郎にとってはあまりにも残酷だった。


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 3時間ほど前の原宿。陽光に照らされ、普段からきらきらな街がいつにも増してきらきらと輝く。長袖では少し汗ばむほどの暑さだが、人は多い。


 はじめて東京に来た修学旅行中の女子中高生が、道いっぱいに広がりながら食べて飲んで笑って歩く。他にもゴスロリ女子、アーティスト風の女子、モデル風の女子、スカウト待ちして何往復もしている女子、スカウトの男性、申し訳なさ気に歩く男子と様々。


 明菜と桜子が颯爽と歩く。特に明菜はいつもよりテンションが高い。プレゼントを受け取る太郎の笑顔を想像し自然な笑顔になる。それは決して学校で1番という枠には収まらないかわいさ。この街でも嫉妬、あるいは羨望の対象となる。


 明菜自身は慣れたもので、周りを気にすることはない。そして今し方、4人目のモデルのスカウトが返事ももらえずに玉砕した。


 明菜の予算は2000円。二千円札1枚分。明菜はそれを桜子に見せる。


「じゃーん!」

「おわぁっ、お久し振り!」


 高過ぎず、安過ぎず。誕生日とはいえはじめてのプレゼント。金額設定には太郎に気を遣わせまいとする明菜なりの気遣いがこもっている。



 竹下通りに駅側から入り直ぐの坂道。下ったところの右手にあるブティック。2人は通りの混雑を避けるようにしてその店に入った。流行色とは違う、個性に彩られた服の数々。明菜はTシャツや七分袖のカーディガンに目をやった。


「ちょっと予算オーバーかな……。」


 明菜が太郎に似合いそうだと手に取ったものに限って高い。3・4000円の品ばかり。直ぐ隣には値ごろな品もあるが、明菜はそれを買う気はない。


 不意に、桜子が呼んだ。


「明菜、半額セールやってる! ペアルックだって!」


 半額セールは兎に角、ペアルックという響きは、明菜にとって心地いいものだった。明菜は桜子が手招きする売り場に軽やかに近付いた。ワゴン内の水色桃色の2色の箱に詰められた商品を手に取った。直ぐに後悔して顔を赤く染めた。


「これって…………下着?」

「ロウはブリーフ派よ! 値段的にもちょうどいいんじゃない」


 ペアルック下着。定価8000円。セール価格4000円。太郎に贈るのはその半分、男性用のみ。つまり、推定価格2000円。予算内に収まる計算だ。


 明菜はぎょっと驚き、顔を赤く染めた。太郎がブリーフ派だということ以上に桜子がそのことを知っていることへの驚き。それを明菜は上手に隠して言った。


「でっ、でも。下着を贈るって、ハードル高過ぎるよ……。」


 言いながらハンカチを持った手をぱたぱたと動かした。暑さのせいだと言わんばかりに。一方で、ペアルックという言葉が明菜の心にささった。何か別のペアルックのものを探そうと思った。


「ロウは昔からパンツ大好きだし、ちょうどいいと思ったんだけどなぁ」

「なっ、何そのはなし! 聞きたい!」


 明菜は、言いながらかわいい顔をぐいっと桜子に近付けた。今度は桜子が顔を赤く染める番となった。


「ちっ、近いよっ……。」


 明菜は桜子のはなしを聞くのが大好きだった。明菜が知らない太郎の過去を桜子はたくさん知っている。並のカノジョならそんな幼馴染の存在を妬むかもしれない。明菜の場合、本妻の余裕か美少女の余裕か両方か。兎に角、細かなことを気にせず、純粋に新情報が入手できるのをよろこびとした。


 桜子がこのとき披露したエピソードは、太郎にとっては黒歴史。小学6年生の冬。凍った水溜りに映る女子のスカートの中が見たくって、校庭に大量の水をまいたというもの。計画は全く上手くいかず、怒られ損をしたというオチ。


 明菜はころころ笑った。桜子が大親友で、やっぱりよかったと思った。


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「そっ、そんなことまで喋ったの? 言わなくってもいいのに」

「私はありのままをはなしただけ。明菜だって聞きたがっていたんだもの」


「悪魔だ。クラコは本当に悪魔だっ!」

「なんとでもおっしゃい」


 桜子のはなしは、なおも続いた。


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