超絶美少女幼馴染が俺を必要とするのには理由がある
世界三大〇〇
プロローグ
太郎と桜子と明菜
天使な彼女と悪魔な幼馴染
4月29日。ゴールデンウィークの初日、昼さがりのこと。佐倉太郎は呼び出された。『直ぐに来て!』という短いメッセージ。どこへとは書いてない。
それでも太郎は迷うことなく原宿へ向かう。
東京都世田谷区の住宅街。広くはない家を出ると、大急ぎで自転車を漕いだ。遠回りだが、速度を保つため商店街を避け、市街地を抜けるルートを選択。左へ曲がるとゴミ収集車に遭遇。
太郎は急遽、それを巧みに避ける進路に切り替えた。お地蔵様の前を通り、公立中学校と私立女子校の間の坂を下った。細い川を渡り、ややきつい坂を上り切ると左に曲がった。そのあとも何度か右左折を繰り返した。
最後に右に曲がると、見えてきたのは小田急線の経堂駅。島式ホーム2面に5線を有する稀な構造。南北両側に女子校があり、平日朝のラッシュ時は大変賑わう。祝日の昼さがり、大きな集団はほとんどない。
太郎は高架下を素通り。近くの友人宅に自転車を停め、来た道を走った。既にパンパンの脚をあえて豪快に動かし、今度こそ改札を潜った。
太郎の目に親子連れがエスカレータに乗るところが映った。太郎は階段ダッシュすることと決めた。親子連れを押し退けて進むのは性に合わない。
「ちくしょう! 間に合ってくれ」
脚がもつれそうになりながらも前へ進んだ。それでもギリギリ急行には乗り遅れた。『ホームドアから離れてください』という放送が虚しく響く。太郎がやるせなくその場を離れようとしたとき、件の親子連れがホームに着いた。
「ゆうちゃん、危ないから走っちゃだめよ」
「大丈夫だよ、ママ。僕、危険なことはしないよ」
「でも、女の子を守るためってときだけは、特別にパパが許すよ」
太郎は親子連れの何気ない会話を聞いて、少しだけ救われた気持ちになった。女子に呼び出されて駆けつけるのだから、守るためとは言わないまでも相手のためではある。自分の行いに密かに自信を持った。
2分待って各駅停車に乗った。座れない程度の混雑。太郎が車内を見渡すと、前日の酒がまだ抜けていないといった表情の青年が、集団でキャッキャと騒ぐ女子たちを迷惑そうにして、スマホに目を落としている。
他にもくたびれた目をした中年男性や朗らかそうな老夫婦、赤ちゃん連れの若い夫婦や賑やかな大学生風のグループが車内に散らばっている。休日昼さがりの私鉄車内としてはよくある光景だ。
1年と数ヶ月前まで、太郎は受験生だった頃のほぼ毎日、塾通いにこの路線を利用していた。そのころとまるで変わらずに見える光景に何故か安堵した。
太郎はふと思う。この日に限って何故小田急線を選択したのだろう。呼び出しが予想外に早かったこと。メッセージの送り主のこと。慌ててしまい、気が動転していたのも否めない。が、どれも理由としては薄い。最寄りの桜新町から表参道を経由しても、到着時刻は大して変わらない。
のんびりと桜新町駅に出ていれば、こんなに脚が重くなることはなかった。
太郎には彼女がいる。太郎と同じ高校2年生の水森明菜。駒沢公園の直ぐ近くに住んでいる。容姿端麗で気立てもよく、学校では天使と呼ばれている。
顔は小さく整っていて色白。鼻は小さいが高く、瞳は燃えるようで大きい。体型はモデルのようで身長172センチ、体重は非公開。腕や脚は細くて長く、胸は太郎好みで大きい。おまけにくっきりとしたくびれもある。
学校で天使と呼ばれているのも納得の容姿。太郎はデート中に何度も明菜がモデルにスカウトされる場面に出会している。だが太郎にとって明菜がカノジョであることのよろこびは別にある。容姿でも輝く笑顔でも透き通った声でもない。
性格の良さ。太郎はこれこそが明菜の全てだと思っている。美少女であることを鼻にかけることなく控え目で物腰やわらかく聞き上手。ふわふわなイメージとは真逆で芯が通っている。それでいて彼氏である太郎を立てることを忘れない。
まさに天使のよう。明菜は太郎にとってそんな存在。
太郎はドア付近に落ち着く場所を見つけた。ポケットからスマホを取り出し、メッセージを投げた。到着時刻を知らせるだけの短いもの。
『13時33分』
その返信がどんな長文になるかと、太郎は覚悟を決めていた。たったの5分の遅れではあるが、どんなに汚い言葉で罵られるか。太郎はそれを予想するだけで何故かわくわくしていた。それがいけない感情だという自覚はあるものの、どうしても抑えられない。
だが、返信は太郎の予想に反し、短くて温かい。
『急いでくれてありがとう 気を付けて!』
太郎はそれを確認すると、吐き気をもよおした。これには絶対にウラがあると思わずにはいられない。悪魔が優しいのだから。
返信相手は明菜ではない。
明菜であれば優しくて温かいメッセージが当たり前。短過ぎず長過ぎず。太郎にとってちょうどいい返しをしてくる。最初から罵られることを期待しない。
では、誰か。
それは、太郎の幼馴染にして同級生の朝倉桜子。悪魔と呼ばれる女だ。
容姿だけなら明菜と互角かそれ以上。髪質もクールな表情もぷるぷるな二の腕もシュッとした逆三角形な顔だちも、太腿やふくらはぎも、美少女のもちものといえる。
そんな桜子には、大きな欠点がある。胸が貧しいこと。根が暗いこと。それに比例するように強烈な毒舌家であること。
桜子の毒にあてられれば、男子も女子も反応が2つに分かれる。嫌悪する者と嗜好する者。太郎の場合、表面上は嫌悪を装うも、内心は嗜好している。
明るい天使の明菜、毒舌な悪魔の桜子。性格や雰囲気は違えど美少女同士。2人は気が合う。この日も一緒に原宿で買い物している。
何のための買い物か、太郎には思い当たることがあった。来月の7日は太郎の誕生日。明菜からのプレゼントを期待している。
実のところ、太郎は呼び出しに備えていた。これまでにも何度か明菜と桜子が一緒に買い物へ出掛けたことがある。その度に太郎は夕方に呼び出される。名目は荷物持ちだが、落ち合ったあとは3人でカラオケというのが定番。
この日は昼さがりという予想よりも早くに呼び出された。それで太郎が少なからず動転したのは否めない。それが、悪い予感となって太郎をはやらせる。
13時35分。太郎は桜子と落ち合った。明菜の姿が見えない。明菜の身に何かあったのでは。太郎は恐る恐る桜子にきいたが、桜子はお構いなしだった。
「あっ、あれ? 明菜は一緒じゃないの?」
「何よ、ロウ。あいさつもなしに!」
眉を潜める桜子。ロウというのは太郎のあだ名。使っているのは桜子と明菜だけ。太郎は仕方なくあいさつからやり直す。
「やぁ、クラコ。あれ? 明菜は?」
「やぁって、雑ね。ま、いいけど。やぁ、ロウ。明菜とはさっき別れたぞ」
クラコは桜子のあだ名で、太郎だけが使っている。明菜は使っていない。
「縁起でもねぇって、まるで俺たちが……。」
「……じきにそうなる。それよりもロウ、キスして」
その言葉に、太郎の目が点になった。キスをするのが幼馴染間の軽いあいさつというわけではない。桜子は地味とはいえ美少女。キスをせがんだその唇は魅力的。太郎のオスの部分を刺激する。奪ってしまいたい気持ちがなくはない。
だが、太郎には彼女がいる。天使の明菜。裏切るわけにはいかない。それに、桜子は気になることを言った。「じきにそうなる」というのは、太郎と明菜が近々別れるという意味以外にない。
明菜と付き合っていて、太郎には何の不満もない。明菜が大きな不満や不安を抱えていたとも思えない。どうして別れなくてはいけないのだ。そんな想いを踏みにじるように、太郎のスマホがなった。明菜からの着信を知らせる曲だ。
太郎は恐る恐るスマホを取り出し、メールを確認した。
『私、アイドルになります。別れてください。明菜』
唖然とする太郎。桜子は、この半日の出来事を克明に語った。
____________
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今作は、前作にも登場している朝倉桜子と水森明菜の高校生時代を描きます。
登場人物をより魅力的に描くために三人称神視点を採用しました。
お楽しみいただければ、何よりです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます