フラグ分岐2

 その後、まとめサイト勢力の動向は音信不通に近い状態となる。

七月上旬辺りになっても、彼らが炎上させているジャンルがこちらと無縁だったので、完全撤退という流れと察したのだろう。

「彼らは、何をしたかったのだろうか……」

 SNS上の動向を見ても、彼らの真意を探ることは困難を極めている。

別のまとめサイトの管理人でも探れないことを、フレイのようなリアル動画投稿者が探れるはずもない。

逆に周囲を探れば、自分が炎上することだってあるかもしれなかった。彼も、それを途中で自覚して探るのをやめたが。

(やはり、何かが微妙に違う)

 一方でフレイとは別の場所で動画を見ていた瀬川せがわアスナは、武器のカスタマイズ動画をチェックしている。

その中で奇妙な動画を発見し、それをチェックしているのだが……その動画に映し出されていた武器には、何かが欠けていた。

「スポンサーロゴが……ない」

 フレイであれば気づかないであろう部分、そこにアスナは気づいた。

基本的にゲーム中のガジェットには、必ずと言っていいほどにスポンサーロゴがある。

これによってプレイヤーはガジェットの使用料金などを気にすることがないのだ。

『スポンサーロゴ? それは元々ないものでは?』

 別の場所で動画を見ていたフレイも、アスナの話を通話アプリ経由で聞いていた。

他のゲームでもロゴがないので、フレイはスポンサーロゴもいわゆるオプションで付ける部類と考えているらしい。

「このゲームの場合、スポンサーロゴのおかげでアイテム課金がないようなものなのよ」

 いわゆるアイテム課金の部類を、このゲームでは採用していない。

その代わりに、アクセサリー類が課金要素になっているのだが……武器に関しては課金対象外だ。

『不正ツールの類なら、動画がアップされる前に警告が入るはず。それがないとなると……』

 アスナのノートパソコンには、ブラウザソフトの別窓にシルフィードが映し出されていた。

どうやら、彼女は今回の動画に関して何かを知っているようにも……。

(やはり、考えすぎ……?)

 アスナが見ていた動画に出ていたプレイヤー、それは動画投稿者と同じ名前である。

プレイヤー名が偽装された動画は……よほどでない限りは存在しない。それこそ、不正ツールなどが疑われてもおかしくはないだろう。

(アーカーシャ……? まさか、ね)

 アスナは見覚えがありそうな名前に対し、不思議な反応を示す。

過去にどこかで聞いたような名前だったか……という意味で。



 まとめサイトが音信不通になる数日前辺りから、様々なゲームで挙動がおかしくなる事案が目撃されていた。

対戦格闘物ではコマンド入力が1フレーム単位、リズムゲームでも数コマ単位で遅れが発生している。

しかし、こうしたつぶやきが歪められて炎上する案件は出ていなかった。これが音信不通の前触れなのかは定かではない。

それから数日が経過し、フリーゲーマー同盟が注目され始めたのである。まるで、まとめサイトと入れ替わるように……。

「フリーゲーマー同盟、か。彼らならば何かやってくれそうな予感はする」

 彼らのアップしたプレイ動画を見て、不敵な笑みを浮かべているのはアーカーシャだった。

炎上勢力は、ゲーム作品に対して愛着はない。ただ単純に『バズる』かどうかで全てを決めている。

そうしたやり方で悪目立ちをしようとしている勢力を、アーカーシャは許せなかった。

だからこそ、先手を打ってまとめサイト勢力のような『バズる』だけの存在を生み出してはいけない……と。

SNS上におけるマナー講座をはじめとした活動は、アーカーシャにとって『まとめサイトの締め出し』を行うための布石だったのだろう。

ガーディアンが動けば、アーカーシャが出る幕はない。むしろ、裏方に徹することができた。

(だが、まとめサイトと入れ替わって表舞台に出る以上、何らかの試練はあるだろうか)

 過去に体験した別ゲームの炎上体験、それが原因でアーカーシャは慎重にならざるを得ない状況になっている。

自分が目立てば、今度はバーチャルドライバーが炎上する番かもしれない。それが……アーカーシャの行動を鈍らせていたのだろう。

「まとめサイトが炎上を繰り返すようなディストピアに似た世界は……」

 先ほどの笑みとは全く正反対な表情をアーカーシャはしていたのだが、その表情を知ることはできない。

パーカーのフードを深くかぶり、素顔を若干隠すような状態でノートパソコンの画面を見ていたからである。

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