5-3

 しばらくはAZISの案件がまとめサイトに取り上げられる流れは続いたが、内容はどれも同じというよりもコピペだった。

厳密な意味でコピペではなく、内容は同じでも記述までピッタリするわけではない。そこまで同じだったら、まとめサイト同士で潰しあいをしているも同然である。

それが止まったのは六月末日頃、それも潰しあいでまとめサイトが炎上したという類ではない。違う記事が話題になったからである。

【バーチャルドライバー、その真相】

 記事のタイトル自体は、胡散臭いとは感じないだろう。内容も当たり障りのない表現が使われている。

この記事がAZISの……エウロペを扱っている煽り系記事と決定的に違うのは、情報の出どころにあった。

(寝返ったというのか……奴が)

 あるまとめサイト管理人は、この記事を見たと同時に何かを察した。

真相の詳細はどうあれ、まとめサイト勢力は明らかに今回の記事を見て裏切り行為と感じたのは言うまでもない。

一体、この記事を書いたのは何者なのか? しかし、その名前を確認する事はできなかった。偽名を使われていたというのもあるかもしれないが。



 まとめサイトの記事を見て、裏切りと感じた人物はまとめサイトの管理人だけではない。

一部のユーザーの中には「フェイク記事に踊らされていた」と怒りを覚えるような人物もいる。

「これは完全に先手を取られたか」

 ノートパソコンで該当するまとめを見ていたのは、フレイだった。

何故に、これを先手を取られた……というのには別の事情もある。アスナには、まだ伝えていない案件なのだが……。

(この記事を書いたのは、明らかに向こうか。アンリミテッドと見せかけた……)

 文章の書き方はまとめサイト勢も指摘しているアンリミテッドという人物に見えなくもない。

フレイもアンリミテッドの記事をあまり見たことはないのだが、記述的にはそう判断出来てもおかしくないだろう。

しかし、それでもフレイには引っかかる部分があった。あの情報はアオイドスから提供を受けたものである。

それがこういった手段で拡散されるものだろうか? 逆にリアル動画投稿者の発言ではない、という事で信用されているのか?

「どちらにしても、まずは何をするべきか……」

 フレイは一連の事実を打ち明けるべきか悩んでいた。しかし、過去に何度もSNSで炎上した経歴は消えるものではない。

今回のアオイドスの情報を受けての、あの動画も……例によって炎上した。

「今更、どのような話をすれば信じてもらえるのか」

 自分の言葉で説明する必要性はある。そうでなければ、やっていることはまとめサイトと一緒だ。

今の状況は『ある作品』の二次創作をリアル空間で行っているようなもの……一体、誰が得をするというのか?

まとめサイト勢力か? アンリミテッドか? それとも、情報を拡散している可能性のあるアオイドスなのか?

それこそ、一部のカップリングをごり押しするような勢力や炎上勢力、それこそ『バズり』さえすれば……という人物の手のひらの上で踊らされている可能性もある。



 その一方で、記事の存在を気にもしないでバーチャルドライバーに集中していたのは、瀬川せがわアスナだった。

彼女は順調にスコアを上げていき、ポイントなどを含めても上位プレイヤーに迫っている。

フレイの方がバーチャルドライバーのプレイ時間的にはアスナより上のはずなのに、この差はいったい何なのか?

(このプレイヤーネームって?)

 アバターのデザインをチェックせずに、アスナがプレイヤーネームの方を注視する。

そのネームは、何とシルフィードだった。このタイミングで遭遇するのは、偶然というには出来すぎていると思うのだが。

「考えても何も始まらない。仮になりきりや偽物だったとしても……」

 最初から疑っても何も始まらないと考えたアスナは、シルフィードのマッチングに入る事にした。

一方でフレイがログインしていないことに関して、アスナは気にする気配がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る