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 無効バトルの翌日、エウロペはAZISの事務所で事情の説明をしていた。

しかし、説明を続けても事務所側の反応が変わることはない。今回の不適切行動を行ったアイドルに対し、謹慎を命じているのだが……。

「確かに一連の行動は、彼女の判断ミスもあるかもしれません。しかし、それ以上に――」

「それ以上に? 彼女の行動をかばうとでもいうのか?」

「不適切な行動をしたアイドルを謹慎にするのが、まとめサイトの攻撃理由になるとでもいいたいのか」

「我々にとって、まとめサイトのような勢力よりも注視すべきは週刊誌の方だ。あちらで取り上げられる事の方が、逆に損害が計り知れない」

 エウロペの一言に対し、上層部のスタッフが反論する。確かに彼らの言う事も一理あるだろう。

下手に謹慎ではなく、別の対応をしたとして他のアイドルでも庇いたてをするのか……という話もありえる。

その部分を週刊誌がどのように書くのか、という箇所を上層部は懸念していた。だからこその謹慎という指示である。

「今の週刊誌は自分たちの利益になるようなことを平気で捏造している、いわば二次創作の夢小説のような存在です」

 エウロペの援護射撃と言わんばかりの発言をしたのは、彼女の隣にいた同席している所属アイドルだった。

その外見はパーカーのフードをかぶり素顔を隠しているようだが、それを周囲が指摘する様子もない。

おそらく、エウロペよりも発言力の強いアイドルという可能性もある。

「それに、彼らが注視しているのはバーチャルアイドルという我々のような存在ではなく、リアルのアイドルや芸能人……違いますか?」

 この発言を受け、周囲はざわつき始めた。発言力の高い彼女の発言が重視……ではなく、別の理由でざわついているのだろう。

「確かに、ここ数日の週刊誌と芸能人を巡る裁判を踏まえると、大手芸能事務所に対してしか行われていないのは事実だ」

「しかし、それが我々に向けられないという保証はない。君のいう事も一理あるだろうが、あくまでも謹慎は事務所としての総意だ」

「確かにエウロペの言うとおり、あくまでもゲーム上では無効扱いになっている。だからと言って、所属アイドルの行動がなかったことにはならない」

 上層部の考えは揺るがない。まるで、不適切なアイドルをトカゲの尻尾切りと言わんばかりに……。

この状況にはエウロペも我慢の限界になっていたのだが、その後の所属アイドルたちによる発言を受けて最終的には謹慎は取り消された。



 所属アイドルの謹慎取り消しは案の定、決定が発表された午後にはまとめサイトで取り上げられ、炎上している。

まとめサイトでは今回の騒動の発端であるアイドルではなく、エウロペだけが攻撃を受けているように見えた。

まるで、彼女を引退に追い込もうかというような悪意も感じるレベルだろう。炎上させているのが、目に見えてエウロペのアンチファンであるのは事実だが。



 この事例をチャンスと考えていたのは、AZISと同じようなバーチャルアイドルの芸能事務所だった。

その内の一つ、谷塚駅近辺に芸能事務所を持っているプランⅡ(仮)は同じジャンルの大手でもあったAZISの炎上を絶好の機会と考えている。

このジャンルでは自分たちが弱小グループだと考えているのもあってだろうか、それとも別の理由だろうか?

その辺りは上層部などしか分からないだろう。それに、こうしたやり方を好まない所属アイドルも少数は存在していた。

「エウロペ炎上は、もはや様式美ともいえる状態だけど……」

 事務所に顔出しをしていたのは、黒髪ショート、身長一六〇センチ位の女性だった。

彼女は芸能事務所所属になったばかりだが、あくまでもバーチャルアイドルとしてはなくプロゲーマー……である。

周囲がエウロペ炎上で盛り上がっていることに関して、彼女は苦言を呈しているようにも見えた。

(本当の意味で、変わるべきなのは……)

 彼女の名前はタチバナ、SNSの炎上には見向きもしない。

逆にSNS炎上やトレンドの話題等ばかりを追いかけても、そのすべてを知ったように拡散する勢力の方が脅威と考えているのだろう。

そういった意味では、タチバナは『バズり』勢力がこの世界だけでなく全ての世界を操っているかのような……という本当の意味で、SNSの闇を知っているのかもしれない。

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