バーチャルとリアルの境界線

４－２．５

　エウロペの目撃したＡＺＩＳのバーチャルアイドル、それはもしかすると別芸能事務所のなりすましも考えていた。

しかし、バーチャルアイドルでなりすましをされたら……。リアルのアイドルでなりすましの場合、有名どころだと炎上よりも訴訟は避けられない。

バーチャルアイドルの場合は、訴訟リスクよりも炎上リスクの方が大きいだろう。なぜ、このタイミングなのか？

　それを察知し、向こうの行動へ便乗しないようにしたのはシルフィードの方だった。

該当プレイヤーの名前を見ても誰なのかは特定できないが、ＡＺＩＳのロゴで判断しているようである。

瀬川（せがわ）アスナもシルフィードと同じ考えを持っており、向こうの挑発には乗らない。

　その中で、別のプレイヤーが該当プレイヤーに接触しており、そちらを経由で炎上は避けられない――と。

実際、その該当プレイヤーと接触後、ＡＺＩＳのアイドルはアスナとシルフィードに攻撃を仕掛けてきた。

バーチャルドライバーでは、基本的に味方プレイヤーへの攻撃はフレンドリーファイアという事で、ペナルティが該当プレイヤーに与えられる。

それに加え、悪質な運営妨害であればアカウント凍結は確実だ。

「攻撃を仕掛けてきた？　自分が不利になるフレンドリーファイアを？」

　ゲーム画面を見ていたアスナも、この行動には驚きを隠せない。

別プレイヤーが炎上勢力なのか、その議論をしているような余裕もないのだろう。

　相手が攻撃をしている以上、フレイに関しては応戦することも考えている。

「まさか、対人戦？」

　フレイの方は、この攻撃に関して対人戦なのではないか……と思った。

バーチャルドライバーで他の対戦アクションに代表されるモードがあるとは考えにくいが、オンラインゲームでバージョンアップもよくある話だろう。

そして、フレイは武器選択を行い、パソコンのモニターに見えた相手プレイヤーに対し、狙いを定めるのだが――。

（クリックが……効かない？）

　フレイがマウスをクリックし、近接武器に切り替えて攻撃しようとした矢先――何かがおかしいと思う。

軽くマウスの左クリックボタンを押したのだが、武器を振り下ろすような気配はない。

左右に軽くマウスを動かすと、目の前のフレイの分身と言えるプレイヤーは動く。それに、マウスが故障したわけでもなかった。

その理由は、別口で立ち上げていたブラウザの方をクリックすると、バーチャルドライバーの攻略ウィキのホームページが表示されたからである。

この挙動はアスナの方にはない。最初から、アスナは向こうのプレイヤーに攻撃を仕掛けようとは考えていなかったから。

『両者とも、そこまでだ！』

　画面上に突如として現れた、アンノウンともアイドルドライバーのデザインとも違うアバター……。

デザインとしてはミリタリー色が強く、別の艦船擬人化作品のラインなのでは……と思う節もある。

メッセージをフレイへ送ったのは、目の前にいるアバターだったのは間違いない。

『このバトル、ＳＮＳ炎上を誘発するバトルと判断する』

　攻撃を仕掛けた側もこの発言には動揺しているらしく、動きを止めている。

まさか、運営サイドを呼んでしまったのか――フレイは自分の行動が、またもや炎上につながると考えていた。

　バトルの方は強制ログアウトとなり、事実上の無効という形になる。

先ほど姿を見せたアバター、それがガーディアン組織に所属するアバターというのは、まとめサイトの記事で知った。

フレイは、またしても自分の迂闊ともいえるような行動が炎上を招き、まとめサイトのアフィリエイト収入に協力することになったのである。