4-2
フレイが画面を再確認すると、別のマッチングが成立していたのである。これには驚くしかない。
しかし、実際には自分がプレイ終了しようと思ってクリックした場所を間違えたことによる、ニアミスだった。
このマッチングにも
いくら無料プレイでも、そこまで同じゲームを何回もプレイするのは……という考えが、フレイに若干あった。
それを踏まえて、どう考えてもアスナの方が異常に見える……という感覚もあるのだろう。
(これがプロゲーマーの感覚なのか)
それを口に出せばアスナの感情を逆なでする可能性もあるうえ、SNS炎上も確実だ。
フレイは考えこそはするものの、それを口に出すことはしなかったのである。
その一方で、アスナの方は引き続きプレイすることに。
無理に付き合う必要はないので、ログアウトは自由ともフレイに言おうとしていたのだが……。
「引き続き参加という事か」
アスナの方は、フレイが操作ミスでコンティニューを選択した可能性は否定しなかった。
それを踏まえて、あっさりとしたリアクションと言えるだろう。
(それよりも……あのプレイヤーネームは)
アスナが気にしているのは、シルフィードとは少ししたようなネームのプレイヤーだった。
本来のターゲットであるシルフィードと外見は似ても似つかない。他人の空似レベルやカップ焼きそば現象レベルで似ているわけでもなかった。
そうなると、考えられる結論は一つしかない。それは……。
「あからさまな便乗なりすまし……」
アスナにも覚えはあった。過去の事例を踏まえて、SNS炎上を拡大してライバルコンテンツをオワコン化させる勢力……。
まとめサイト勢力とは違い、明らかに自分のストレス発散や『バズり』だけで炎上を行う愉快犯による便乗なりすましである。
(他は……プレイヤーは全員CPUじゃないのか)
今回は珍しくCPUの入らないマッチングだったのだが、アスナはシルフィードと似たような名前のプレイヤーが気になっていた。
その為か、あるプレイヤーに関して見落とすことになる。
マッチングバトル序盤、案の定というかシルフィードのなりすましと思われる人物が先行する。
アンノウンのタイプが見慣れているタイプという事で、楽勝とでも思っているのだろう。
他のプレイヤーが周囲の雑魚を撃破するのにも右往左往しているので、それを踏まえて楽勝と判断したのかもしれない。
なりすましと思われるアバターが使用する武器は、まさかの近接ナックルタイプである。
(シルフィードは近接武器でも……)
アスナは使用している近接武器から、やっぱりという考えに至った。
仮になりすましだったら実際に取る行動は別にあるのを、アスナは分かっている。
しかし、普通にゲームを楽しんでいるようにしか見えないこのプレイヤーを、安易になりすましと考えたことに対し……アスナは若干の後悔をしていた。
このマッチングを別のモニターで観戦している人物がいた。それは、何とエウロペである。
なお、彼女のいる場所は自宅ではない。あくまでも……だが。
「あれは、AZISのアイドル?」
アバターの外見こそは見慣れていないが、服のワンポイントであるAZISのロゴを彼女は見逃さない。
エウロペ自身は新人アイドルではない一方で、他の所属アイドルに興味を示していないので、同じ所属でもスルーしていることが多かった。
その為、外見だけ見ても同僚とは気づかなかったのである。これに関して、エウロペはすぐに事務所へ問い合わせた。
エウロペがこの映像を確認した場所、それは事務所ではなく自宅のパソコン上……。
「AZISはバーチャルドライバーに本格進出する予定なの?」
『そういう話は聞いていません。興味を示している数人はいるようですが、そのほとんどは個別で実況している等でしょう』
「バーチャルドライバーは大手企業系の介入を嫌っている、というまとめサイトの記事もあるけど」
『実在アイドルの芸能事務所であれば、そうでしょう。AZISはバーチャルアイドルの事務所、向こうも即断でピンハネすることはないと思います』
「ピンハネって……」
『向こうも利益にならないような、それこそ炎上だけ起こされて損害オンリーという事は望みません』
「だから、様子を見ろと?」
『そういう事です。すでに同分野には別事務所がコンタクトを取っているという話もあります』
電話に出たのはいつものスタッフだったのだが、その反応は……いつもとは違うように見えた。
バーチャルドライバーのメーカーは大手企業の介入を許さない一方で、ある程度の自由は認めている。
それが一種のスポンサーシステムなどに反映されているのだろう。それでも限度はある……とエウロペは考えていた。
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