3-3.5


 しばらくして、プロゲーマーのアーカーシャに関する話題はエウロペの話題に上書きされる結果になる。

メディアとしてはエウロペの話題の方が視聴率を取れる的な、浅い考え方での方針転換と思われるが……アーカーシャ本人にとっては都合がいいだろう。

下手に騒がれて身動きが取れなくなるよりは、向こうから引き上げてくれるのがアーカーシャにとっても有利になるからだ。

「これ位に騒がれると、こちらも他の活動がやりにくくなるからねぇ……」

 草加市内のシェアハウスでパソコン画面をにらんでいる一人の女性、彼女がアーカーシャの正体……リアルだった。

ブルーライト対策の眼鏡にツインテール、微妙にぽっちゃりにも見える体格……それ位しか読み取れそうにないが。

彼女のいるシェアハウスは同じようなプロゲーマーを目指すプレイヤーが多い。今は、様々な事情もあってアーカーシャとごくわずかの人物しかいないようだ。

もしかすると、ゲーセンやARゲームフィールドといったような場所でプレイするプレイヤーが少ないのも、世界情勢的な都合なのかもしれない。

あるいは、この世界の草加市でも『アレ』によって観光事業にダメージを受けているのかもしれないが……その辺りは定かではない。

唯一分かっているのは、SNS上で起きた『ある事件』によってリアルで聖地巡礼などを行う人たちが減った事だけ。

「アレの真相もいまだに不明。だとすれば、やることは一つだけ」

 そして、アーカーシャが開いたのは動画編集ソフトだった。彼女はさりげなくだがバーチャルアイドルもやっていたのである。

エウロペと違うのは彼女が芸能事務所に所属しておらず、個人勢として動いている事だろう。

 三十分が経過し、出来上がったのはネット啓発動画と言われるものだ。

いわゆる、マナーの悪いユーザーに対しての……という意味合いがあるのだろうか。

(まさか、マスコミの方がまとめサイトと協力して……というのはないか)

 アーカーシャが懸念しているのは、とあるWEB小説にあった大規模SNS炎上である。

その訓練という意味合いで様々な作品が存在し、それが一種の啓発という意味合いがあった……と言っているのは、一部のWEB小説サイトだけだ。

大抵はスルーしているし、アーカーシャの思惑とは違って別コンテンツのバズり目的で炎上させるような人物もいるのは、非常に残念でならない。

まるで、この世界がリアル世界を反映しているかのような光景……そう、思わざるを得ないのも納得か。

「この世界は、WEB小説のように都合よく上書きが効くような世界ではない……彼らは、それを認識すらしてもいない」

 SNSのまとめサイトやつぶやきまとめを見るたび、アーカーシャがつぶやく一言、それには傍観者という意味合いがあるのかは定かではない。

ここまでドライでなければマナー啓発も出来ないわけではないのだが、本当の意味でのコンテンツ流通の阻害になっている存在を、彼らは知るべきなのだ。

その為に、彼女はマナー動画を投稿し続けている。SNSを炎上させ、自分たちのフィールドを自分たちが荒らして周囲の反応を……という状態にしているのが、自分たちだと教えるために。



 それと同タイミングに、フレイと瀬川せがわアスナはシルフィードへの接触を試みるために、バーチャルドライバーをプレイし始める。

どの時間帯であれば姿を見せるのか分からなかったので、お互いに都合がいい土曜日という事になった。

土日となるとバーチャルドライバーのプレイヤーが増えるのは言うまでもないのだが、このプレイヤー数でマッチングが可能なのか、という疑問もある。

 七月には規模の大きいイベントが開催予定であるという事もあって、これが二人には数少ないチャンスと言えるのだろう。

「この動画は……?」

 マッチングまで時間があるのでフレイが人気の動画を検索していると、そこで発見したのはマナー啓発動画だった。

その内容は単純明快で『些細なつぶやきがSNSを炎上させ、最終的にはコンテンツをオワコン化させる』という物である。

(まるでアオイドスだな)

 動画内の女性の喋り方、それはアオイドスにも似たような物だった。しかし、外見に関して言えば彼と程遠いバーチャルアイドルなのだが。

アスナの方も若干は気になっていたようだが、現状ではあまり気にするような物ではないと考える。

(重要なのは、シルフィードと接触できるかどうか……)

 アスナは類似するマナー啓発動画を何個かすでにチェック済だった。その語り口は、確かにアオイドスには似ているだろう。

しかし、こうしたマナー動画は何かを元ネタにしている可能性も、という事で動画の効果は限定的とも考えている。

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