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「これはひどいわね」
謎の美少女よりも、むしろ特定の芸能事務所に所属する実在アイドルを持ち上げたい――明らかに『単なるバズり』よりも悪質だろう。
特定のコンテンツを炎上させ、自分がひいきにしている実在アイドルを持ち上げる手法は過去にもあったが、未だに令和の時代になっても存在することの方が驚きだ。
このパターンは、どう考えてもコンテンツAだけを狙いにしている一方で、他のライバルコンテンツも炎上させることができれば都合がいいと考えているパターンである。
「このパターンは、どう考えても歴史は繰り返すパターンよね」
アスナはノートパソコンを置いていた机、そこに置かれていたメガネケースからメガネを取り出し、それをかけた。
メガネといっても視力が悪いわけでなく、あくまでもブルーライト対策という意味でかけているにすぎないが。
本来探していた情報とは別の物しかなかったので、アスナは若干呆れ気味に記事をチェックし始めていく。
この手法を規制すること自体の考えがなかったのだろうか? アスナはそう思いつつも、別の記事も含めて該当する記事の内容をチェックしていった。
別の記事の方も謎の美少女は取り上げつつ、取り上げ方は別アイドルよりも少なめだ。どう考えても謎の美少女をかませ犬として扱い、別アイドルを持ち上げるパターンだろう。
(コメントも、どちらかと言えば特定広告業者が募集したサクラか。それに――?)
該当する記事に書かれているコメントも、どちらかというと実在アイドル支持派が圧倒と言える。
その中のコメントに、一つだけ妙なコメントを発見した。動画のリンクを貼った物なのだが、その動画に対するコメントもいくつか存在し――。
【信じがたいな。それこそ業者のサクラでは?】
【違う。どちらかというと、バーチャルアイドル擁護側だろう】
【もしかすると状況の混乱を狙っている可能性が高い】
他にもコメントはあるが、おおよそがこのまとめ記事を作ったサイトとは無関係という意見が多数だった。
それに加え、この動画を貼った人物を特定するのは不可能だが、該当する動画は内容的にもまとめ記事に到底あっているイメージもない。
動画のリンクをクリックし、該当する動画を再生したアスナは――その動画の内容に衝撃を受けた。
むしろ、この動画の内容は明らかな炎上煽りの行為に見えたからである。
『毎度恒例のあいさつから行きたいが、状況が状況だけにあいさつは省略する』
動画に映し出されていたのは、黒髪のショートヘアにメガネという男性である。
アバターっぽい衣装を着ているように見えるが、こちらはリアルの動画投稿者だ。
(リアルの配信者? そこまで人気のある配信者には見えないけど)
しかし、リアルの動画投稿者が出ているだけの動画でここまで反応があるとも思えない。
動画再生数に視線を移すと、その再生数は何と十万を超えていたのである。投稿日も一週間前だ。
どう考えても仕込みというには時期尚早というか、その考えに至るのは非常に危険だろう。
『自分の名はフレイ、今回は話題となっている一件でスクープを発見した――』
まさかの発言にアスナは驚きを隠せない。慌てて動画の収録時間を確認すると、十分近くあることに気づく。
これはまとめてチェックするべきか、それとも冒頭だけを見るだけで終わるべきか?
そういった迷いすら無駄に思えるかのように、アスナは動画の再生を止めることなく視聴を続ける。
『一連の謎の美少女、その正体はバーチャルアイドルだ。そして、アンノウンとのバトルはゲームに過ぎない』
いくつかの話も耳を疑うものだったが、その中で極まっていたのが、若干の強い口調で話したこの発言だ。
確かにバーチャルアイドルと言われれば、ある程度の納得はいく。バーチャルアイドルのシルフィードの配信の途中で、あの場面になったからだ。
ここではシルフィードではなく、他のバーチャルアイドルの事例に関して言及していたようにも思えたが、その部分だけは正論を言っているように見えるだろう。
しかし、動画のコメントを見ると、どう考えても的外れなコメントも目立つ。
中には『バーチャルではないリアルアイドル否定派の陰謀』や『リアルアイドルのアンチによるフェイク動画』という物もある。
一体、コメントを投稿しているユーザーは何を見て、こういうコメントを書いたというのだろうか? こうした決めつけ自体、レッテル張りとして炎上することは考えないのか?
むしろ、リアル動画配信者が過去に様々な迷惑行為や事件を起こしているので、そうした流れで炎上させているとも感じ取れる。
(対立煽りのコメントも、令和なのに――書き方は平成のそれにしか見えない)
アスナは、こうした炎上事例自体が過去の焼き直しとも冷静に判断していた。
その一方でアスナは――あるものを思い出す。それはWEB小説サイトで見た、とある作品の事である。
タイトルは確か……『不正破壊者の我侭姫』だっただろうか。
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