17:主従の契りはお友達感覚

「い、いやいやいや! なにも持ってねーずら!」


 はうあ!

 思わず、声がうわずっちまった。

 ずら、って云っちっまったズラ! どこの方言だよ、コレ?

 同人誌即売会で寸借すんしゃく詐欺さながら、俺自身のエロ同人誌のセールストークを軽やかに行っていたこのワイが、あまりにもど真ん中ストライク過ぎるロリっを前にして、ちょい緊張しちまった。

 しかも、見られていたとはッ!?

 誤魔化す!

 驚異的にまで、ごまかす!!


「ホラッ! 左手見てみそ? ね、ねっ? な、なにもねぇーでそ?」

「――ヒラヒラした薄いフィルムのようなもの、見えたの」


 ほわぁ~~~!

 マジか! マジですか! ホントに見られとるがなっ!


「……い、いやぁ~、な、なにもォ~――」

「黙っとくの。黙っておいてあげる……ぞ」


 くッ……

 確信してやがるッ、このロリっ娘!

 まずい、マズいですよほ~、コレは!

 なにか、なにか対策を――


「黙ったおいてあげるから――」

「……――から?」

「おぬし、あたしの……間違えたの。拙者せっしゃの――」

「拙者の?」

「――拙者の“殿との”になって欲しいの」

「――……と、との??」


 殿?

 なんだァ~、殿って?

 殿様、ってコトか?

 いや、これはもしかして……

 ――殿方とのがた、の意!!

 男を指して丁寧な物言い、古風な言い回しであれば想いを寄せる男性、すなわち、彼氏!

 付き合ってください、ってコトだ!

 キタ!

 早くもきましたわ、俺の春。しかも、ロリっ娘から!


「え、えーと……と、殿ってそのォ~――か、カレシ、ってコト……か、な?」

「違うの」


 違うんかい!


「――と、殿って、主君って意味なの。おやかたさま、だよ」

「お館様?? なんじゃソリャ!」

「あたしは……拙者は吸血ニンジャ。ニンジャは殿に仕える者なのだ……よ」


 意味分からん!

 主従関係を結びたい、ってコトなのか?

 なんだよ、それ?

 あッ!

 もしかして、SM的なアレ?

 ご主人様とメス豚、みたいな?

 いやいや、こんなロリっ娘が、入学したての女子高生が、そんなハードプレイを望んでいるはずがない!


「えーと、……なんで、キミは殿を、お館様を求めているの?」

「ニンジャだからなの、――ニンニン」


 ふわ~、キテる。かなり、キテますよ、コレはッ!

 予想が当たっちまった。

 痛過ぎて、意味が分からん。

 アシスタントは雇ってるけど、忍者は雇ったコトねェーよ!

 いや、待てよ?

 ごっこ――

 ――ごっこ遊び、みたいなもんか?

 こんな可愛らしいコが、忍者にハマッてんだ。

 ようは、主君と家来みたいな、ごっこ遊びがしたいってことか?


「――ごっこ遊び、そんな感じかな?」

「違うの。ニンジャは殿様のために散る者なの。主君のめいに従うの。お館様のために、舞い忍ぶ者なのだ……よ」

「……い、いや、まぁ、忍者については何となく分かるけど」

「あたし……拙者を、命がけで取りにきて欲しいのだ……よ」

「――いや、ちょっと意味が分からない……」


 そうか!

 さっし。

 多分、このコは、寂しいんだ。

 入塾したてで見知った者がいないから不安なんだ。

 ちょっと回りくどい内容で接してきてはいるけど、恐らくは友達を探している!

 コミュ障なんだ!

 よし、分かった。みなまで云うな。

 この鬼龍院きりゅういん日和ひより、くそヲタではあるがコミュ力に長けている。アクティブくそオタクは、人見知りしない!

 そう、――

 ――俺もまた、ヤバみがしゅごい!


「ごめん。俺、キミの殿にはなってあげれないよ。その代わり……」

「――代わり?」

「キミの仲間になろう」

「仲間?」

「そう、友達」

「友達?」

「キミの主君ではないから命令とかはできないが、代わりに、キミを友として頼る時がくるかも、な」


 ――どやッ!

 どう?

 今の?

 俺、かっこよくなかった?

 特に、――くるかも、な――のトコ!

 すっげ~、かっこよくなかった?

 いや~、さすがは俺!

 いいこと、云うな~! 自分でも驚いちゃったよ。


「――うん、それでいいの」

「よし、これからよろしくね、友達として」

「分かったの。こちらこそ、これからよろしくなのだ……よ、お館」

「ん? いや、お館様じゃなくて……」

「主君じゃないから、様、はつけない。今日からお主は、あた……拙者のお館だ……ぞ、ニンニン」


 こ、こいつは……

 俺の想像を超えるヤバいコかもしらん。

 ――なんか、

 若干じゃっかんこえぇーから、あんま反論しないしよう、うん、そうしよ~……



「よぉ~、ローリーちゃん!」


 背後からかけられた、イヤな感じの呼び掛け。

 ――こ、この声……


 い、イジメっこ!?

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