12:ミリタリーケイデンス

「塾生ッ、起立ッ!」


 えっ、えっ!?

 な、なに、なにィー?

 なんなん、この女教師!

 イラついてんの? あの日? あの日なの?

 いきなり、でっかい声、出さんといてー!

 びっくり、するわい!


「全員、校庭オモテに出ろッ!」


 云われたままに立ち上がり、ガタガタと机に椅子を押し込む生徒達。

 うーん、わけが分からん故、とりあえず、このキチ教師の云う通りにせにゃ、話が進まんし、そりゃ~、従わざるを得んわな。


「よし! それでは皆、腰に手を当てろ!」


 ――?

 なにすんの?


わたくしの後に続き、整列したまま校庭までランニング! なお、諸君らは私の歌に続き、唱和しつつ行進せよ!」

「……」

「分かったら、仰せの儘にイエス・マム、と答えろ! 分かったな?」

「――仰せの儘にイエス・マム……」

仰せの儘にイエス・マムの前に女史マムをつけろ!」

「――女史の仰せの儘にマム・イエス・マム……」

「よろしい!」


 どーゆーこと?


「それでは、私に続け! 行くぞ!」

「……女史の仰せの儘にマム・イエス・マム

「ママとパパはベッドでゴロゴロ!」

「???」


 ――なんぞ?

 きゅ、急に、どうしたんだ、教師?


「続けッ! 私に続いて笑顔で歌えッ! ママとパパはベッドでゴロゴロ!」

「――ママとパパはベッドでゴロゴロ」

「ママが転がり、こう云った!」

「――ママが転がり、こう云った」

「お願い、欲しいの!」

「……お願い、欲しいの」

「シゴいて!」

「……シゴいて」

「おまえによし!」

「――おまえによし?」

「私によし!」

「――私によし??」

「う~ん、よし!」

「――うーん、……よし???」


 ちょいちょいちょい!

 整理がつかん!

 いったい、何をしとんのじゃ?

 つーか、なにを歌わされとんのじゃ、俺達は?


 そんなこんなで校庭へ。

 教室から距離が短かかったので助かったが、あの調子で長いこと走らされる羽目はめになったらと考えると、末恐すえおそろしい。

 女教師が指差した方向、朝礼台の奥、教員用玄関の前に、巨大な石碑が見える。


「アレを見ろ! アレこそ、我が羅漢英雄塾らかんひでおじゅく創立以来、当塾に伝わる名物、御石様おいしさまだ」

「――お、御石様?」


 なんだ、そりゃ?

 腰掛けたら空でも飛ぶんかな?

 いや、石碑には腰掛けられんわな。

 んで、その御石様がどーした?


「塾生諸君! 一人ひとり前に出て、御石様に触れよ!」

「えっ? どーいうこと?」

「発言を許可した覚えはないッ! ……と云いたい処だが、そう云えばまだ説明していなかったので発言を許す!

 ――ちょっと、待ったたんま! 先に説明しておく。これからわたくしに発言したい者は必ず、挙手をすること! そして、私の許可を得た者のみ、発言すること! 分かったか!」

「……女史の仰せの儘にマム・イエス・マム

「よろしい! それでは、続けたまえ」

「――ええーと……石に触れるだけでいい、ってこと……ですか?」

「もちろんそうよ」


 よく分からんが、触れればいいだけなら簡単だな。

 それにしても、触れただけで潜在能力的なものが分かるんだとしたら、誤魔化しようがない。

 つまり、俺の得意な“手品イカサマ”が使えない。

 どうする?

 ローリーの潜在能力にかけるか?

 いや、待てよ?

 この場合、俺自身の潜在能力になるのか?

 あの数値化したステータスを考えた場合、今一つ凄いのかどうか不明。

 なにか――

 ――なにか、方策を考えろ!


「塾生ッ、整列ッ! 御石様に触れるのは左手だ。左てのひらを当てるのだ。さあ、順番に触れてゆくがよいッ!」


 次々と御石様とかいう石碑に触れて行く生徒達。

 石碑に、全く読解できない記号だか文字だか謎の光の刻印が浮かび上がっては消え、その羅列を女教師が控えて行く。

 俺は最後尾に並び、順番を待つ。


 運を天にまかせるか!

 それとも、なにか仕込むか!

 よし、決めた――

 ――ここは素直に……

 こうする!

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