第2話 死者の眼

勇者と魔王が共に亡くなって数年後の異世界。かつて魔族の王がいた魔王城から最も近くにあった人間の国の領地【エルベン】。その領内には魔族との戦いにより戦死した多くの領民の墓が立てられた墓地があった。墓地は数えきれない程の墓石がたてられていたが、その中心に位置する場所には、四つの墓石と勇者達を模した石像が建造されていた。








満月が夜空を埋め尽くす星と共に墓地を照らす。照らされた四つの墓石の内、一つの墓石に唐突にヒビがはいった。瞬間墓石は爆発音と共に粉々に飛び散り土煙が周辺に漂った。土煙が収まりをみせはじめた頃墓から黒い布を被った人影が立ちあがった。








「、、、、、」








黒布の人影は立ったまま暫く無言で周囲を見回しているようだった。そして、月明かりの元に自身の手を差し出した時、光に暴かれたその手を見て驚愕した。そこには肉や皮が無く、白骨化した自身の手があった。








「!?、、な、なん、で?、おれ、は、、どう、なったん、、だ、?」








たどたどしい口調のまま、未だ布により顔を隠されたままの自身の顔を白骨化した両手で触り確認した。そしてあることに気が付いてしまった。








「おれ、は、、しんで、しまった、、のか?」








夜風が姿を隠していた布を緩やかに剥いだ時、月光が照らしたものは、白骨化した手と同様に全身が骸骨となった勇者ネロだった。








直後死の寸前の出来事が脳裏にプレイバックしてきた。暫くその記憶を巡ったのちネロは力無く膝から地に落ち、背後の仲間達の墓石と石像に気がついた。その石像の足元に記された言葉を読み再度絶望する事となる。








「まお、う、をたおした、、ゆうしゃ、、、たちを、たたえ、る。エレン、こく、、おう!?」








ネロは自分達を殺した王子が国王になり、更にその敵によって埋葬された事を知り怒りがこみ上げていた。怒りのままにネロは叫び声を上げその場でのたまった。








未だ収まらない怒りを息を切らしながらネロは自身を落ち着かせていると、四体の石像が各々持つかつて自分達が所持していた魔導書、杖、盾、そしてネロの双剣を目にした。








「、、ドル、、リーファ、、イムリス、、、」








ネロは三人に語りかけるように呟いた。








「、、すまない。おれのせいで、おれが皆を、守れていれば、、」








ネロは自身の白骨化した手を四体の像にかざした。その瞬間四つの武器は光を放ちだした。








「、、暫く、皆の力を、借してくれ、、、必ず返しにくるから!」








たどたどしかった口調が次第に戻る中、ネロの言葉と共に武器は石像から消え去った。そのまま暫く四体の石像を眺めていると、背後から数人の足音がこちらに近付いて来るのを感じたネロは背後に向き直り再び布で自身の顔を隠すように深く被りなおした。








「三人?いや、五人?未だ、この体に慣れないが、近接でなければ、問題無いか?」








ネロは足音から人数を予測し、音のする方へ視線を向けた。次第に此方に来る人影を目にしたネロは胸中で呟いた。








(五人程と思っていたが、二十人位居るな、、、予想と全然ちがった!!)








予測を大きく外した事に内心で少し恥ずかしがっている間にネロの前までたどり着いた鎧を身につけた兵達は、墓地に立つ死神の様な様相のネロに一瞬たじろいだが、その背後の石像から勇者達の武器が無くなっていることに気が付いた。








「貴様、この領地の宝である勇者様達の所持品を何処へやったのだ!?墓荒らしとて国王がこの領地に直々に建てられた勇者様達を称える墓石に手をかけるなど、無礼にも程がある事と知るべきであるぞ!!」








「ならばどうする?私は墓荒らしだが?そんなに大事な物であるならば懐にでも隠しておかない方が悪いのではないのか?大切なものを守る事が貴殿らの務めならば、この事態は守り切れなかったソチラに落ち度があると思うのだが、違ったかな?」








「貴様!墓荒らしの分際で我々を愚弄するとは!!この場で処断する!!」








先頭の男の言葉に兵達は皆剣を抜いた。その様子を見ながらネロは独り言のように言葉を発した。








「おそらく魔王により甦ったのだろうが、この体で何処まで力が使えるか分からないが、あの程度の者達なら武器を使用する程でもないだろう。」








兵達がネロに向かって突っ込んできた時、ネロは自身の手を前に差し出し魔法陣を展開した。








「火炎の陣より滅せよ![フレアウィル]!」








ネロが発した瞬間、兵達は激しい炎に包まれた。数秒で墓地から炎が消え去り、そこには焦げ付いた地面だけがのこった。ネロは先程まで言葉を交わしていた兵を一人生かしていたが、背後で起こった想像を絶する魔法に腰を抜かしているようだった。








「な、何だこの魔法は!?、、」








「業火魔法、フレアウィルだ。貴殿は愚か者ではあるが、他の者より幾分か現状を知っている風だった為生かした。それでは幾つか質問をさせてもらおう!」






「ヒッ!」








墓地でへたりこむ兵は近付いたネロの顔を見てしまった。その様相と先程仲間を一瞬で塵と成した魔法から恐怖により失禁をしていた。そんな怯える兵を気にかける事なく、瞳を失くした眼からは憎しみを伺わせながらネロは兵士に問いかけた。








「この地の現在の領主は誰だ?!」


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ヘルゲート〈味方に殺された勇者は後に魔王と呼ばれた。〉 アンドリュー @masatatu

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