第46話 重くならないように頑張る
こんなに幸せでいいのだろうか!? 生まれてこの方異性に好意を持たれたことがないのに美人な彼女を手に入れて。多分神様は俺に試練を与えていたんだな。赤城課長に出会う為に。あー幸せだーと2日前まで思っていました。
「か、課長?」
「………」
「あの! 俺何かしました?」
「……別に」
エ○カ様か!! 無視してたのに最後別にってなった時点で別にではないと思う。なんでだ?! 考えろ! 感じるんだ俺!!
明日はホワイトデー。付き合ってから初めて迎えるイベントだぞ。今不穏な空気になってたら先が思いやられる。ここ数日……いやここ数週間前から課長の表情が険しくなってきている気がする。……なんでだ?
課長は毎日お弁当を作ってきてくれるし休みのたびどちらかの家に来て泊まり合う仲にまでなったというのに。……ハッ! も、もしかして……課長はアレを求めている!? いやいや。さすがに付き合って1ヶ月経ってないのにそれは……早いというか。え? ヘタレだって? そんなバカな……。
「ヘタレだな」
「そんなバカな! ううっ。もしかしなくても俺はバカだったんですね」
誰にも聞かれたくないので屋上に黒部さんとそめやん先輩松藤を呼んで昼飯がてら相談をすると一刀両断された。なぜに?
「助けて……松藤」
「うーん。僕も黒部さんの意見には同意といいますか……」
「なっ!? お前も闇の手先だったのか!?」
おい! それは俺の事を言ってるのか! と叫ぶ黒部さんを華麗に無視する。
「闇って。そんな大層? なものじゃないですよ。ただ単に赤城課長ってその……人生経験が豊富じゃないですか。だからえっと……」
「だから青井君にとっては何もかも新鮮でゆっくり愛を育んでいきたくても課長までそう思ってるとは限らない。どちらかと言うと焦れているのでは? ってことでしょ?」
「ああ俺もそう思うな」
こくりと松藤も頷く。俺は愕然としながらポツリと呟く。
「ま、マジですか……俺充分幸せなんですけど。課長は満足してなかったんですね……」
「でも僕は青井君の考えもよくわかるよ。好きだからこそゆっくりと二人で進んでいきたいもんね」
「そう! そうなんですよ!」
「いいや! それは遅すぎるだろ、二人共。そんなんじゃ経験豊富な赤城さんには飽きられるぞ」
「……やっぱりそうなんですかね」
「じゃ、じゃあこうしましょう! 今日ホワイトデーなんで課長とデートして花を渡したりして仲を深めたらいいんじゃないですかね?!」
「いいね! そうしなよ青井君」
「そ、そうですね!!」
落ち込んだ気分を松藤とそめやん先輩が一掃してくれる。俺がもう一度奮い起たそうとすると黒部さんが待ったをかけた。
「ダメだ。そんな生ぬるいやり方じゃ」
「え? でも……」
「花束持ってホテルのラウンジで口説いてそのままチェックインだろ」
「うえっ!? チェッ! チェックイン!?」
「当たり前だろ。そのくらいやらないと本当に捨てられるぞ」
「俺にそんなことできるかな」
「出来る出来ないじゃない。やれ」
さーて。そんなこんなでやって来ましたホテルに。なんかさ、もーね吐きそう。緊張し過ぎて口から心臓飛び出そうってこういうことなんだなって身を持って体験中。イエーイ。テンション高めても謎にテンション上がらない。一旦家に帰ってから再集合をかけるのも気が引けたのに。自分の持ってるスーツの中で一番高いのを選んだけどどうなのかね? 着られてる感出でないかな? ってか、場違いすぎて浮いてないかな。不安に駆られているいると周囲がざわめきだした。うん? と発信源に目を向けるといましたわ。
体のラインが出てしまうドレスを着た課長がこちらを見つけると笑顔と手を振って近寄ってきた。惚けながら手を振り返す。すると周囲から羨望の眼差しではなく刺し殺す目を向けられた。すみません。相手が俺みたいなやつで。
「ごめんなさい。待った?」
「い、いえ! さっき来たばかりなんで」
「行きましょう?」
「そ、そうですね」
同じ側の手と足が同時に出そうになるのを一生懸命直す。ショールを肩からかけているのに目が胸元や腰に行く。冷静になれ! 俺!!
「わぁ。キレイね」
「そ、そうですね。あ、すみません。飲み物はこの白ワインで」
そうして運ばれてくる料理を機械のごとく口へ運び、注がれる白ワインを飲み干していく。
「今日はペースが早いのね。大丈夫?」
「へ!? だ、大丈夫です!」
嘘です。大丈夫じゃないです。緊張のあまり頼んだワインのボトルを空にしてしまう勢いで呑んでしまった。そんなに弱いわけでもないがペースが早いせいか少し酔いが回ってきた気もする。け、計画が!! 黒部さんのアドバイスが霧散するぞ。よし! ここで用意していた指輪を!
そう。黒部さんとそめやん先輩松藤と昼食を取っている時にホワイトデーのお返しは何にするのか問われ指輪を買ったのでそれを。と、返したらアホかと言われた。なんで?! 早い、重すぎる。付き合って1ヶ月になるって言ってもそれは……と言われ落ち込んでいると、黒部さんが提案してきた。
「それしか用意してないんだろ? だったらホテルのレストランで『ずっと側に居てください』とか、まあ何かしらの理由を付けて渡すしかないだろ。渡すときは右手の薬指でお願いするんだぞ。左手だとより重いからな」
って、言われて今まさにその時だ。さりげなく出して重くないように印象付けて……。
「か、課長!」
「あ、ボーイさん。おかわり頂けるかしら? ―――あ、青井ごめんなさい。何か言った?」
「い、いえ……」
ヤバい! ヤバい! タイミングを逃した。結局一番いいタイミングの時に渡せなかった。このまま解散する流れみたいだぞ!? さすがにそれはよりヤバい! 慌てた俺はスマートに行けと言われたアドバイスをアドバイス通りに実行出来ず、しどろもどろに課長を丸め込み取っておいた部屋に入ることになった。どうやって連れてきたかって? ハハハッ。舐めちゃ困る。直球だよ! キレイな夜景見ながら飲み直しませんかって言っただけだ。
何故だか課長は部屋に入るなり「キレイね。最高のバレンタインデーのお返しよ」と言ってくれた。これって勘違いしてるよね? バレンタインデーのお返しを食事と夜景だと勘違いしてるやつだ。違う! 本命は指輪なんです。ただ何も考えてなかったから指輪贈れば喜ぶとしか思ってなかったんだ。どうしよう。どんどん渡すのに難しい雲行きになってきたぞ。
「青井? 夜景キレイよ? もっと近くに来たらいいのに」
課長が俺の腕を掴んで窓際まで連れられていく。見渡す風景は確かにキレイだった。でも……俺は課長のほうが……ハッ! そうか! それをそのまま伝えれば! って黒部さんじゃないからそうそう上手く伝えられない気がする。
俺が額からうっすら汗をかきながら飲み直していると課長が首を傾げながら尋ねてきた。
「青井何か私に隠してる?」
「へ?!」
真剣な眼差しが蛇に睨まれた蛙状態で何とも言えない空気を漂わせた。答えづら!!
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