第32話 R指定にはならないですよね?!
季節が巡るのは早いものだ。そう言えるのは大人になって刺激を受けるのが少なくなったから。うん。わかる、わかるよ。俺もその一人………ではあるんだけど。
「青井! 今月の契約数断トツ―――ドベじゃない! ちんたらせずにさっさと契約取ってきなさい!!」
「は、はいー!!!」
月日は経つのは早いもので、1月の最終週になってしまった。相変わらず俺はダメダメで、赤城課長に叱られながら必死に営業職を全うしている。なかなか新規を取ること叶わず赤城課長の眉間に皺がどんどん増えていってるのが日に日に感じられる。エースの赤城課長なんて契約数ピカイチなのに、俺は社内一ドベ。
そんな日々を過ごしながら会社の屋上で一息吐く。ベンチがあるのに屋上でランチする人はほとんどいない。風が強い時なんてぶっ飛びそうになるから利用する人が少ないのだ。いや、俺一人と言っても過言はないだろう。喫煙ルームもあるから屋外でタバコを吸う必要性もないし。
「はぁー。また怒られたな……こんなんじゃいつ見限られるか……」
重い溜め息を吐きながら肩を落とす。赤城課長と黄梨の宣言後、確かに猛アプローチをかけられている。黄梨なんて告白したことを忘れたように普通に接してくるものだから、いまだに返答出来ずにいる。が、その黄梨も最近めっきり接触してこない。赤城課長に至っては事務的な話しはしてくるが、それ以上の行動が見受けられない。
い、いいんだけどね?! 別に飽きられたとか最初から俺に好意があるとか思ってなかったし?! ――――ただ、明確にわかるのはいろんな条件が重なって俺の実家に二人が来て、兄ちゃんに会ってから変わった気がする。過剰な接触が控えられ、俺が私的な話しをすると避けられてる気もする。
「昼、食べる気もおきん」
「それはいかんぞ、青井!」
「……へ?」
突然の声に驚く。振り向くとそこには、黒部さんが。えー。なんで現れたのこの人? ってか、どうしてここに来たの?
「腹が減っては戦はできん。しっかり食べて今日の合コンに備えよう!」
「合コン……あれ? クリスマスほんとに彼女出来なかったんですか?」
「ふっ。俺は誰のものにもならないのさ」
「あーそうですか」
よいしょっとベンチからお尻を浮かすと、肩に手を置かれ無理やり座らされた。いてぇ! ケツに肉ついてないんだよ! 骨に響いたぞ! 軽く睨むが黒部さんはどこ吹く風。
「まあ、待て待て。女日照りのお前に俺がとっておきのステージを用意してやったぞ。喜べ! 合コンだ!!」
「はあ!? よ、余計なお世話ですよ! え、それより俺も行くんですか!?」
「当たり前だろ! お前の為にセッティングしてやったと言っても過言ではない! あれだけクリスマスイベントがあったのに誰とも進展してないんだから、もう他で見つけた方がお前のためだと思ってな」
「……ありがたいお話ですけど、俺そんな気分じゃなくて―――」
「例えそうだとしても、始めてしまえば楽しいぞー。女の子達は可愛い子達を集めたし、何よりいい匂いがする」
「えっ」
トゥクン。胸が高鳴る。ま、マジで!? 可愛い子を呼んでるのか……それにいい匂い……。今までだったらどんな匂いだよ。って、思ってたけど黒部さんの言うことが良くわかる。確かに女の子っていい匂いするんだよな。黄梨も赤城課長も同じ匂いではないのに、ずっと嗅いでたいって思うし……って、変態っぽいな! 俺は胸の高鳴りのまま合コン行きを了承した。その後の仕事はいつにも増して捗ったのは間違いない。
「あ、ねえ、ここで休憩しない?」
「ふぇ? あ、うん。いーよ。ここ何? マンガ喫茶?」
「ふふっ。天国みたいなとこかなぁ?」
「天国……いーね! いこーいこー」
合コンが始まり緊張のあまりジュースをたらふく飲んでいたら、急に浮遊感が襲った。あれ? っと、手元のグラスを匂うとお酒の匂い。ヤベッ! 酒とジュース間違えて普段より多く飲んでしまった! と、気付いたときには遅かった。視界がグラリ。隣になった女の子が俺の事をずっと気遣ってくれて二次会を二人で抜けた。もとよりまで送ってくれると言われて寄り添われながら歩いていると、景色が一変。
人通りが少なく、すれ違う人はお互いの距離が近く男女ペア。うん? と思いつつ思考が低下していると、女の子が提案をしてきた。建物に入ろう、と。「いーね!」と言いながら敷地内に足を踏み入れかけたまさにその時。左手首を掴まれた。ん? と、視線を手に持っていき、ツーっと辿っていくと黄梨だった。
「あえ? 黄梨? なんれ、ここに」
「青井君……聞きたいことはいっぱいあるけど、取り敢えず帰ろっか」
「かえる? んー。れも、この子とマンガ喫茶に……」
「そっか」
笑顔を張り付けたまま、俺の腕に胸を押し付けて腕組みしている女の子に話しかける。
「ねえ、私この人の事大好きなの。―――一時の楽しみに使わないでくれる?」
女の子が何か抗議してるのを黄梨は異に返さず俺の腕を引きながらその場を後にした。
―――うん。ここまでは記憶ある。で、この状況は何!? なんで俺裸で、黄梨も裸でベッドに横になってんの!? しかも、覚醒してないとき触っちゃったの、む、むむむ胸! だよね?! 「ぅん……」って! 色っぽい声に目が覚めて何か握ってるなーって手に力入れたら「あん!」って言われた気がする!! 慌ててそれから手を離し目を見開くと俺の顔の前に端正な顔立ちが!! 黄梨だと認識したら急にかぁっと顔面が熱くなった。
なんか手のひらにポチっとしたものが触れた気がするのは、絶対俺の願望だ!! R指定入っちゃうから!! さっきの声もあんこ! って言いたかったんだよ! うん! そうだ!! ただ、何もしてないよね?! っと、慌てていると布団が擦れる音がし、黄梨が間の抜けた声で喋りかけてきた。
「あれ? 青井君起きてたんだ」
言い逃れ出来ないと頬を一筋の汗がたらりと流れた。
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