第27話 えー!? どうしてこうなった!?
「ち、違うんだ!! 俺と赤城課長の間には黄梨が考えてるような関係は断じてない!!」
あれー? この言い訳まるで浮気男のそれだ。何故だろう? 焦れば焦る程恋人に言い訳をしている奴にしか見えない。俺、恋人いないんだけどね! って、いないならこんなに狼狽える必要もないわけで……。
チラリと黄梨に視線を送ると、それはもう……めっちゃ咎める目でこちらを睨んできた。な、なんで?! もし、俺が課長と恋仲でも黄梨には関係ないはず……。そもそも、恋人でもないんだから黄梨とも課長とも甘い関係になるはずがないのだけれども。あ、言ってて悲しくなってきた。
――――なんで俺には彼女がいないんだ? あの時合コン行ってればなにか変わったのかな? と現実逃避していると、赤城課長が落ち込んだ声で呟いた。
「断じてないのね……」
「あ、えっと! 言い方おかしかったですか? あれ? でも、なんて言ったらいいんだろ……」
「じゃあさ、恋人関係とかじゃないってこと?」
「あ、当たり前だろ!」
「当たり前……」
なんで、俺が弁解すると課長が落ち込んでいくんだ!? そして、何故弁明すればするほど黄梨は元気になっていくの!?
「か、課長! 気にしないで下さいね! 俺と課長が恋人同士とか天地がひっくり返ってもあり得ないですから!」
ああ、言ってて悲しくなる。俺はどうしてセルフで心に傷を負ってるのでしょうか? 誰か解答プリーズ。
「天地がひっくり返っても……あり得ない……」
ブツブツと繰り返す課長も怖い。目が若干虚ろ気味なのがより怖さを引き立たせてる。
「ふふっ。そっかぁ。じゃあ青井君はまだ彼女いないんだね」
「おい、そんな嬉しそうに言うなよ。事実だけど傷付くんだぞ」
「ああ、ごめんごめん。じゃあさ―――こんな事してもいいってことだよね?」
「は? 何を―――」
黄梨が微笑んだ後、すかさず間合いを詰めてきた。ベッドの上なので仰け反る事も移動する事も叶わず、黄梨が俺の胸に顔を埋める形で抱きついてきた。俺、軽くパニック。黄梨、頬を赤らめ嬉しそう。課長、絶句。え、何これ?
「ききき黄梨!?」
「もうね、遠慮するのやめようと思って」
「黄梨さん! あなた―――」
「―――私、青井君が好き。今回、病院に運ばれたって聞いて心臓が止まるかと思った。失いたくない、恥ずかしいからって逃げるのはもうやめようって決めたの。私は―――青井君の事が大好き」
時間が停止したような感覚に陥った。人生で初めて告白されて、しかもそれが同期の中でも……いや、世間一般の目でも可愛いと目される黄梨に告白されるなんて夢の話しだと思った。だけど、黄梨が俺を見上げて俺が黄梨を見つめ返す形で見つめ合っていると、微かに感じた。黄梨が震えてることと、熱っぽい瞳を。
これらを無視して聞き流すなんて俺は難聴系主人公やことごとく鈍感主人公でもないので出来ない。出来るのは、黄梨の好意を踏みにじらないように受け取るだけ。受け取ってどうするかを考えるのも黄梨への精一杯の誠意だと思うから。
「お、俺……誰かに告白されたり好意を寄せられたことないからなんて言ったらいいのかわからないけど、ありがとう。すごく嬉しい」
率直な想いだった。好意を向けられて嫌な奴なんていない。いたとすれば爆ぜればいいと思う。おっと、せっかくの告白を汚い言葉で汚すものじゃないな。
「それでさ、ゆっくり考えたいからちょっと時間もらって―――」
いいか? と尋ねようとしたとき、被せるように赤城課長が発言した。
「だだだ駄目よ!! 社内恋愛なんて!」
俺の腕の中にいた黄梨がすぐさま応戦する。課長の方へ振り向くと俺の胸から体を離し喰ってかかる。バレたら怒られそうだが名残惜しかったなと小さく肩を落とした。女性に抱きつかれるなんてほとんど経験ないから、女性特有の甘い香りとか柔らかい感触とか味わっていたのに!! だが、課長に抗議の視線は送れない。100倍にして返されそうだから。
「どうして駄目なんですか? 社内恋愛だって禁止されていませんし……赤城課長、青井君が誰かと付き合ったら不都合な事でもあったりして」
「そそそそんなわけないじゃない!」
めっちゃ嘘っぽい! そんなわけないのに課長が俺の事好きみたいに思っちゃうよ。黄梨もうやめたげて! 課長をこれ以上謂われのないことで責めてあげないで! 俺の事が好きなんてあるわけないんだから。たぶん、ほらあれだ。手のかかる弟に恋人できたらお姉ちゃんの立場からしたら寂しいなー。心配だなーって感じの感情しか俺に対して持ち合わせていないと思うよ。
「だったらいいですよね? 青井君と誰が付き合おうと」
「……そうだけど」
「青井君! ちゃんと考えてね?」
「え! あ……う、うん」
端切れが悪くなる。思い起こせば初恋をしたのも学生時代まで遡らなければならないほど。恋愛を避けてきたわけじゃないのに見事縁がなかった24年間……。黄梨に好かれた理由もわからないまま好意を受け取って付き合ってもいいのだろうか? 告白されたら誰でも良かったんじゃないか? そんな考えが頭の中の思考を覆って身動き取れない。
「どうやってアプローチしていこうかなー?」
「ほどほどにしてくれよ? 早めに結論出すからさ」
「えー? 私の事好きになってほしいからアプローチして私以外考えられないようにしたいのに。駄目なの?」
「えっ。そう言われたら駄目って言いづらいな……」
後頭部をガシガシと掻きながら困り顔をする。正直、こんな美人に攻められたら、たった1日で陥落するのが関の山だ。どうしたものかと悩んでいると、思いがけない宣言を受ける。なんと、発したのは赤城課長だった。
「それなら、私も青井にアプローチするわ」
「ええっ!? ななななんでですか?!」
「黄梨さんが良くて私は駄目なの?」
「あのですね、これは張り合う問題ではなくて……」
って、ねえ! 俺の話し聞いて!?
「やっぱり参戦してきましたか」
「ふっ。恨みっこなしよ」
「私だって負けません」
「ええ、私も」
えー?! 何、このカッコいい台詞の数々。俺は当事者なのに蚊帳の外ですか!? 俺が外野でモブの如く慌てていても、主役の二人は話しの中心。なんかわからないうちに課長が参戦してきたけど、話し的に俺の取り合いなんですよね? 間違ってないよね? なら、どうして俺はこんなに知らん顔されるんですかね? 説明できる人がいるなら説明してほしい! 切に願う俺なのだった。
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